It snows.
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寒いのも暑いのも嫌い
こんな機能いらない、そう思っていました
It snows_4
誰かに呼ばれたかのように目を覚ますと目覚まし時計だったらしい。
僕は隣の部屋で寝てるマスターを起こさないように素早く止める。
静まり返った部屋。
眠い。音がないと又眠気が…
「あ、そうだ」
時刻は5時ジャスト。ここで起きなきゃ。
早くにわざわざ起きる理由は、見たいテレビがある訳でもなく、勿論学校へ行く準備をする為でもなく、
ただ単にマスターの寝顔を見たかっただけだ。
昨日、マスターが起きてるかどうか確認しようとマスターの部屋に入ったとき、幸せそうな寝顔を見てから妙に毎朝見たくなった。
別に変な意味じゃないけど、マスターの寝顔見ると幸せな気分になる。
僕は買ってもらったパジャマのまま、こっそりマスターの元へと向かった。
音を立てないように気をつける。
僕のベットより小さめな寝床へ足を踏み入れた。
マスターが呼吸をする度、布団が揺れる。
「ます、たあ」
小さく声を掛けてみる。
…起きないみたいだ。
少し布団で顔がよく見れない。
思い切って布団を少しずらしてみた。
「ん…」
マスターの口から少しだけ漏れる声も僕の心臓を止めそうで。
心臓なんか、ないんだけど、そんな気分。
「…」
いい寝顔。
自分の寝顔なんて見れないし、きっとマスターだからこそこんなにいい顔して寝るんだなって思った。
よし、今日も一日いい日になりそうだ。
僕はマスターの髪を少しだけ撫でてから部屋を後にした。
やっぱり12月の朝は寒い。
肌に突き刺さるような痛みを感じて冬になってからの人間の苦悩さを実感した。
こんな寒い思いをしなくていいんだろうな、VOCALOIDは。
一つ欠伸をして、パジャマを脱ぎ捨てる。
普通のVOCALOIDは気にしないはずの服装も、僕はしっかり毎日ほかの洋服に着替える。
マスターにわざわざ買ってもらった服に着替えてリビングへ向かった。
「あれ、マスター」
「あっ、おはよー!」
「おはようございます」
リビングにはさっきまでぐっすり寝ていたマスターの姿。
いつの間に起きたんだか。
僕はパジャマ姿のマスターを横目に、コーヒーを二つ入れた。
マスターは砂糖とミルク多め。
「今日も寒いね」
「そう、ですね。はい、これ」
僕はマスターに湯気が立つカップを渡した。
マスターは「わー、ありがと!」と言い、両手でカップを持った。
僕もカップに口を付ける。
そこで思い出した。
2,3回息を吹きかけて熱を冷ます。
そのまま熱いコーヒーが喉を通るのがわかった。
温まる。体のしんまで。
でも時間が経つと寒気が戻ってきた。
「さーてと。私は出かけてくるね」
急に立ち上がるマスター。
「又、行くんですか」
「うん。毎日行かないと気が済まないからさ」
喉まで来ていた言葉を飲み込む。
そんなに毎日毎日、何処へ行くんですか。
そんなに大切なことなんですか。
僕よりも
そんなこと僕が聞いてどうする。
僕は「わかりました、気をつけて」と無愛想に言うと部屋に戻った。
やばい。笑えてない。
僕は自分の脇をくすぐってみた。
…今、笑ってる?
***
気づいたら辺りはすっかり暗くなっていた。
あれ、僕寝てた?
「ただいまー」
大分聞きなれてきた声が鼓膜に届いた時点で僕の体は自然に動く。
何も言わずに、玄関まで走って、マスターの姿を認知したら「おかえりなさい」と言う。
「ただいま、レン」
やっぱり、どうしたらそんなに上手に笑えるんだろう。
「ホント、寒いー。死ぬかも」
「死なないで下さい!」
今までになく、大きな声で自分でも驚いた。
部屋に響く僕の声は開きっぱなしのドアへと消えていった。
マスターは驚いたような面持ちで「どう、した?」と首を傾げる。
僕、何言ってるんだ。
わかってる。冗談半分ってことはわかってる。
「あ、その。なんでもないんです。すみません…」
「大丈夫、私はまだ死にませんよー、って、さっき死ぬかもとか言ってた人が言うセリフじゃないか?」
微笑むマスターを見てホッとした。
そうだよ。マスターは死なない。当たり前だ。
「でも、本当に寒いね。紅茶、入れてくれる?レン」
苦笑いを浮かべるマスター。
僕は頷き、リビングへ一足お先に駆けていった。
マスターは部屋着に着替えたようだ。
今はなぜかマスターの姿を見るだけで安心した。
「わーい、ありがとー」
子供みたいに喜んで、紅茶を手にする。
温まるーとか、おいしーとか何度も繰り返し呟いていた。
僕は、今回は自分の分は入れずマスターの隣に座った。
不意に手が触れる。
マスターは僕の手を握り締めた。
「え、」
「レン、凄く冷たい」
「そう、ですか?」
「うん」
自分では気づかなかった手の温度。
マスターの手は、初めて手を繋いだときよりは比べ物にならないくらい温かかった。
もっと触りたくなる。
「マスターは、温かいですね」
「そうかな?レンが傍にいるからかもね」
いたずらっぽく笑うマスター。
僕はマスターの手を強く握った。
「じゃあ、もっと傍に居てくださいよ」
「うん。りょーかい!」
あれ、何言ってんだ僕。
そう思った瞬間、包まれる感じがした。
いい匂いがする。
「ちょ、ますたー」
「傍に居てって言ったのはレンだよ?」
「そう、ですけど」
マスターに抱きしめられるというのは、気恥ずかしかった。
確かに凄く温かい。
けど、なんか、変な感じ。
気づいたら自分の腕をマスターの背中へと回していた。
「さてと。ちょっと早いけど寝ようかな」
「…はい」
僕の腕がマスターから離れると、僕の髪をさっと撫でて欠伸をするマスター。
時計に目をやると、すでに22時だった。
あれ、寒い。
マスターから離れて数分、いや、数秒?
それしか経ってないのにもう体が冷たくなっていた。
「マスター」
「んー?」
まだ、行かないでほしい。
もう少し触っていたい。
とは、言えないけど。
「…いえ、なんでもないです」
「えーと、レン、今日一緒に寝ようか」
寝る、って。
やっぱり、心が透けてるようだ。
僕は思ったことが顔に出やすいのかもしれない。
「いや?いやならいいんだけどさ」
「嫌じゃないです。一緒に寝たい、です」
不安そうなマスターの顔が一瞬で笑顔に変わる。
その瞬間、僕も安心した。
「ホント?じゃあ寝ようか!」
「はい」
マスターの温もりが直に伝わる。
あったかい、マスターの温度がわかる。
きっと、普通のVOCALOIDはこんな風に寒いとか暑いとか、冷たいとか熱いとかそんなことを思わない。
僕は寒いのが大嫌いだ。
でもそのかわりに、大好きな人の温度が感じられるから。
心からこの体に感謝をした
続く
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「えーと、レン、今日一緒にヤろうか?」
「嫌じゃないです、一緒にヤりたい、です」
寝る=ヤる 違