SS.WORST ♯1

□ロンリー・ハーツ・キラー
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※性的描写を含みます。自己責任で。


最近、カルシウムが足りないのかもしれない。

ただ今、秀吉の仕事場に来るという女の子に誘われて。
俺と秀吉は、なんと合コンなんぞに参加していた。

メンバーは、元気がいい常連の女の子3人に、俺と秀吉。
ちょっと落ち着いた雰囲気の居酒屋で、ワイワイと酒を酌み交わす。

『合コンなのに、人数足りてないじゃないか。』
そう突っ込みたい所だけどそこは黙認。
お酒も宴会も俺は基本的に好きだけど、
この会合は正直気が乗らない。



だって……この子達の目的は秀吉だから……。


**********************



こういうお誘いは、正直これが初めてではない。
秀吉は、基本的にこういうのは苦手だから、いつもは断っている。
しかし、今回の彼女たちは、頭がよかった。
秀吉の話を聞けば、彼女は彼の勤務先のオーナーづてに取り入ったらしい。

常連さんを無下にしないオーナーさんを味方につけ、
彼女たちは難なく、秀吉との食事の機会を手に入れたのだった。
突然のオーナー命令に困った秀吉が取った苦肉の策は、
『友達を連れて来ますので、皆で行きましょう』という事だった。

まさしく知能犯。
本当、今回の手の回しようには脱帽する。

「やっぱり秀吉君って凄く知的〜!!」
「スゴ〜イ!!」

どんなジャンルの会話でもソツなくこなす、
秀吉の語彙の豊富さに女の子達が感嘆する。
明らかに、合コン仕様であろう巻き髪を揺らし、
はちみつを垂らしたような、艶めいた口唇をぱくぱく開く。

あーあ…何かイライラするなぁ…。

さすがに秀吉も、オーナー命令となると無下にも出来ないわけで。
酔いにかまけて肩に手を置かれても、腕をからめられても。
先ほどから、にこやかな表情を変えなかった。

流石といえば、流石だけど。何でもかんでも許しすぎじゃねぇ?
いつも、そういうの嫌がるくせに…ちょっとは距離おけよ…バカ。

それで、俺の機嫌はどんどん急降下しているわけで。
俺は何だか、そういうのが今夜はとことん面白くなかった。
秀吉が、常連さん達と笑顔(営業スマイルだろうけど)で会話している。
そんな光景を見るのだって、いつものことなのに…。

秀吉は暇なく女の子達の黄色い声に相槌をうっていて。
さっきから、ちっとも俺の方を見ないのだ。
俺としては、やっぱ、そのこっちにも気をかけて欲しいっつーか。何つーか。
少しくらい、こっちに話ふったりとかしてもいいんじゃないか?とか。


恋人の俺が、こんなに近くにいるっていうのに…。

なに悠長に談笑してんだよ、秀吉のバカ…。


「ねぇねぇ正成くん、そこの料理取って欲しいんだけど〜」
「…あ、え?あぁ、コレっすか?」

愛想よく手渡してやったものの、内心は苛立ちでいっぱいだ。
彼女が欲した料理は、同じものがすぐそばにあって。
あーもう…下心が見え見えだっつーの。
彼女は秀吉に寄り掛かりたくて、わざとこっち側の料理を欲しがったんだろう。

チラリと、渡し際に秀吉の顔を伺ってみたけれど。
女の子が寄り付いても、別にどうってことないって顔。

「ほら、正成くん、呑んで呑んで!」
「え?あ。あ、ありがとうございます…。」

俺の隣にいる女の子が、いそいそとお酌してくれる。
それでも、やっぱり秀吉はこっちを見なくて。
まだ、女の子の話に夢中になっているようだ。
女の子達の露出の高い身体が、
先ほどから明らかに秀吉に近づいていっている。


そのときだ。


「あ〜、アタシちょっと呑みすぎちゃったかも。」
甘ったるい声を出しながら、一人の女の子が秀吉の肩に寄りかかってきた。

「大丈夫ですか?」
秀吉も、その行為をさほど気にせず、
女の子の好きなように肩に凭れかからせている。

おおい!!いくら、常連さんだからって…そこまで許すものなのか!?
あまりにもわざとらしい行動に、開いた口が塞がらない。

あーあ…何か嫌だな……。
俺は、心の中で何度目かの溜め息と一緒にビールを咽喉に流し込んだ。
しかし、酔いも手伝ってか、女の子の暴走は止まらない。

「…ねぇ、秀吉くんって彼女とかいるの?」

うっ…、げほっ!!?

「正成くん?だ、大丈夫!?」
思いっきりむせた俺を、横の女の子が背中をさすってくれた。

でも、俺はそれどころではない。

秀吉の隣に鎮座する女の子は、
咳き込む俺に目もくれず秀吉へ熱っぽい視線を送っている。
こういう状況でないと、聞けない、
本来の目的であろう、質問の答えをドキドキしながら待っているようだ。

ほら。秀吉、言ってやれ。『恋人は、います』って。
それは目の前でぶーたれてるこの俺だってのは言わなくていいけど。

しかし、予想していた答えとは違う言葉が秀吉の口から出てきた。

「…いませんよ。」
「え…っ?」

今の『え?』は俺の声。

い…今、こいつ、『いません』って言った!????

「ええ〜っ!秀吉くんって彼女いないの〜!??」
「意外〜〜!こんなにカッコイイのに〜〜!」

でも、俺の驚きの声はすぐにかき消される。
秀吉がお目当ての女の子達は、ここぞとばかりキャアキャア騒いだ。



え…?え…??


えええええぇーーーーっ!???



次第に状況の整理が出来てきた俺の中で、何かがプツリと切れた。



**********************



それから一時間ほどしてコンパはお開きとなった。
彼女達はまだ一緒に居たそうだったけど、
そこは、秀吉が明日早いんでとか適当に誤魔化してくれて。
彼女たちとは、表面上にこやかに別れられた。

あー…やっと終わった…。

騒がしい場所から移動できた事で、俺はやっと、ほう、と一息つけた。
女の子達のエネルギッシュさに、元気を全て吸い取られたような気がする。
元気も吸い取られ、しかも秀吉の口からあんなヘコむ事言われて。
つい、呑みすぎた酒も手伝ってか、気分は最悪だった。

「…今夜は気が乗らなかったみたいだな?」

並んで歩いていると、秀吉がポツリとそう零した。
何だ…気付いてないようで、気付いてたんじゃん。
何だかんだで、秀吉も疲れていたみたい。

でも、それだけで、俺の機嫌がなおるわけじゃない。

「…寒くないか?マサ。」

そう言って、秀吉がさりげなく俺の身体を抱き寄せてきた。

うっ…。

その行動に、ちょっとだけ胸が高鳴る。
しかし、それは一瞬だけのことで。
俺の動悸はすぐに消沈した。

秀吉の肩に残っている、甘ったるい匂い。
あの女の子がつけていた香水か何かの匂いが鼻についた途端、
先ほどの女の子と秀吉の光景がフラッシュバックした。

「………。」

あ…。何か…また機嫌が悪くなってきた。

そのまま黙っていると、ふいに秀吉が手をあげてタクシーを止めた。
そして、タクシーに俺を先に乗せようと背中を軽く押してきた。
だが、俺は足を動かさなかった。

「…マサ?」

そこから動かないオレに、
秀吉は怪訝な顔をしつつも腕を引こうと触れてきた。

「どうした?早く乗れ。」
「……っ…!!」

普段と変わらぬ口調だった。

でも、今の俺にはその口調がとても傲慢に聞こえて。
この瞬間、俺のイライラが頂点に達したらしい。
秀吉の手を払ったと同時に、思いもしなかった言葉が俺の口をついて出た。

「俺のこと…全部手に入れたって安心してんだろ!!?」

突然の俺の言葉に、秀吉が目を丸くした。

「は?…どういう意味だ?」
「だっ…だから、安心してるんだろ?お前。」
「だから、どういう意味だと聞いているんだ。」
「何があっても…っ…俺が離れないって保障は何処にも無いんだからな!」

イライラが頂点に達しているせいもあって、語尾がきつくなる。
秀吉は、そんな俺をじっと見詰めた後、口元だけで笑った。

「何を言い出すかと思えば…。」

秀吉がやれやれという風に、眉を上げる。
その表情が俺の火に油を注いだ。

「なんだよっ…それ…!!」
「こんなところで絡むな。」

秀吉の目もだんだんときつくなってくる。
怒り始めている証拠だ。
何を言っても、聞き分けない俺に苛立ち始めている。

「…………。」
「…………。」
「あの…お客さん、乗るんですか?」

無言になった俺たちを、動かしたのはタクシーの運転手だった。
秀吉が弾かれたように、乗る意思を告げる。

「……言いたい事は後で聞く。とにかく乗れよ。」

困ったように溜め息をひとつついて、秀吉はそう返事をしてきた。

何だよ…それ…何なんだよ…っ…!!
今、これ以上口きいたら、見苦しく怒鳴り散らしてしまいそうだ。

「…俺、今日はお前と一緒に居たくない!じゃーなっ!!」

苛立ったまま、俺はダッシュしてその場から逃亡した。
うしろで秀吉が俺の名を呼んでいたけれど、無視。
とにかく、今夜は秀吉と一緒にいたくなかった。

向かう先は何処でも良かった。秀吉が居ない所ならどこでも。
酒でふらつきながらも、俺は走る速度を緩めなかった。


『いませんよ。』

走っている最中、合コンでの秀吉と女の子の場面が頭をよぎる。


くそっ…!!

俺は、こんなに余裕ないのに。
秀吉には、いつも余裕があって。


こんなの…不公平だ…。


鼻が熱くなってきたと同時に、視界が潤む。
俺は走りながら、溢れそうになる涙を堪えた。
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