SS.CROWS ♯2

□群青夜の羽毛布
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星を見ていた。

満天の星空、というわけじゃないけれど。
何だか、その小さな光の集合から目が離せなくなった。

…流れ星とか、出てこねぇかなぁ。

夜風も、風呂上がりの火照った体には。とても気持ちよくて。
俺はそのまま、ボンヤリと頭上に広がる闇色を見ていた。



**********************



背後から、ガチャリと音がして。
振り返ったら、ドアのところに立ってるリンダと目が合った。


「…何をしている?」
「流れ星、待ってる。」
「寒い。閉めろ。馬鹿ザル。」
「くおらぁっ!寒いと閉めろはともかく『馬鹿ザル』は関係ねぇだろうが!」


ちょっと傷付いたぞ、くそぅ。

イーッ!と睨んでも、リンダは気にした様子もなくベットに腰をかけた。
濡れた髪を、タオルでガシガシと乱暴に混ぜる。
その度に、リンダの髪の毛が空中にふわふわと浮いた。

水気を一通り拭った後、リンダが、ふぅと溜息をついた。


「幸せ逃げるぞー。」
「は?」
「溜息つくと幸せ逃げるって言うじゃん。お前、今溜息ついた。」

へへーんと笑ってやると、リンダは顔を嫌そうにしかめた。

「お前…馬鹿だろ?」
「っ!うっせーな!何だよ、心配してやってんのに!」
「…心配?」
「っ…!?」

うっかり口をついて出てしまった言葉に、慌ててリンダから目を逸らす。
熱を持ち出した頬を隠す為に、再度夜空に顔を突っ込んだ。

「な、何でもねぇよっ!バカッ!」
「五月蝿い、騒ぐな。近所迷惑だ。」
「〜〜〜〜ッ!」

もう何も言わねーよ!!


リンダが後ろを向いた隙に、背中に向かって再度イーッと歯を出す。

「そういうカオはバレないようにやるんだな、ガキ。」

するとリンダが突然くるりと振り向いて、俺の顔はバッチリ見られた。
呆気に取られる俺をリンダは小馬鹿にした様に、口の端っこだけで笑った。

「なっ…!?お、お前!後ろに眼でもついてんのかよ!!」
「馬鹿の気配でわかった。」
「あんだとコラァア!!!」
「近所迷惑。」

ぬぬぬぬぬぅうううう〜〜〜〜〜!!!!

口の前に人差し指を立てて、涼しく笑うリンダに
もういい!!と返して、俺はまた空を見上げる。

すると、上から、ふと影が落ちてきた。
思わず見上げると、空より手前に見えたのは、
リンダの着ている服とシャンプーの匂い。


ドクンと胸が高鳴った。


突然、密着されて動けなくなる。
こういう時、『あぁ、俺はやっぱりコイツにホレてんだな』と思い知らされる。


悔しいけど…事実だ。




その存在に見惚れてたら、パタンと窓が閉められた。

「あっ!何すんだよっ!」
「閉めろと言った筈だ。」
「流れ星探してんだって!」
「硝子越しにでも見えるだろ。風邪引く気か?」
「へ…?」

ジッと目を見つめられて言われたもんだから、
俺はビックリして、ついつい間抜けな声が出てしまった。



…何だ心配してくれていたのか。

そう思ったら、少しだけ機嫌が直ってきた。



「そうなったら俺が迷惑だ。」



…期待した俺が馬鹿でしたっ!!

いっつも一言多いんだよコイツは何時もよ…!!バーカ!バーカ!



「なぁ。やっぱ硝子だと見え辛ぇよ。」
「だからって夜風に当たってこんなに身体を冷やしてどうする。」



ふわりと包まれた。


リンダの腕と、…リンダが肩からかけてる毛布に。




一瞬ビックリしたけど、俺はリンダの胸に凭れかる事にした。
心配してくれた事が嬉しかったし、リンダの腕の中が温かかったから。



抱きしめれる腕が強くなった。




現金な俺。

もう…機嫌直っちまった。




「あったけー。」
「其れほど冷えてたって事だ、馬鹿。」
「へへー。」

リンダの“馬鹿”は、抱きしめてくれてる腕と同じで優しい。
俺は、その腕の中にぬくぬくと甘える。
見上げると、頬にちゅっとキスされた。

肩にリンダの顔が乗ってきた。

頬と頬がくっついて、何もかもがくすぐったくて身を竦めた。




「で?ご所望の流れ星は見えたのか?」
「いいや。あぁ〜流れ星見てぇ〜。」


でーてこい、でーてこい、ナ〜ガレ〜ボシ〜

そう即興で唄い出すと、“うるせぇよ”と手で口を塞がれた。


「まさか3回願いを唱えたら、願いが叶うと思ってるのか?」
「へ?叶うんじゃねぇの。」


そういうと、リンダは、フンと耳元で笑った。

………鼻で。


「おいクソリンダ。今お前、俺の事馬鹿にしたろ。」
「叶うわけ無いだろうが。」
「あぁ?夢の無い奴だな!そう思ってた方が楽しいじゃねぇか!」
「楽しい楽しくないの問題じゃねぇだろ…。」
「………。」

ぷい、と前を向いて膝を抱える。

リンダは不思議そうにオレを覗き込むけど、顔を逸らす。
横髪を梳かれるけど知らんふり。

「またヘソ曲げたのか?テメェは…。」
「ふん…。」
「…相変わらず、気分屋だな。テメェは。」

リンダはまた溜息をついて、オレの頭を抱き込んできた。

「星が流れているうちに3回願いを言うなんて無理に決まってるだろう。」
「無理、だろうけどよ…でもよ…。」
「そんな事をする位なら願いを叶える努力をしろ。」

リンダの腕が解けて、くるりと後ろを振り向かされる。
そして、きゅっと今度は正面から抱きしめられた。

「こら!見えねぇって…」
「もう寝ろ。俺が探しておいてやるから。」

思わぬ言葉に、リンダを見上げる。

いつもは体格差のせいで上目遣いになる事が気になるのに。
今だけはキレイサッパリ吹っ飛んでいた。

リンダはさっきの俺みたく夜空を見上げていて。

そして、すごく優しい顔をしていた。






なんだよ…。



…お前も結局馬鹿なんじゃねぇか。






リンダが俺の方を見る気配がして、慌てて胸に顔を埋めた。


大きい手が頭に乗る。

そして、俺の眠気を誘う様に、何度も髪を梳かれた。


「り、リンダ。」
「…ん?」
「…オレ、どっちも頑張る。」
「フッ…そっちがお前らしいな。」

そう言って優しく笑ったリンダは、
口唇に触れるだけのキスを落としてきた。








なぁ、なぁ。流れ星様よ…。



「で?願いは何だ?」
「へっ!?」
「知らないと、見つけたとき言えないだろう?」
「だっ…誰がテメェに教えるかっつーの!」
「?」



俺、ずっと一緒に居たい奴がいるんだけどよ…。



END
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