SS.CROWS ♯2

□仰げば尊し、青い春。
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アイツの卒業の日が近付くごとに、俺は何故か弱ってきている。

リンダは、卒業した後の事を何も言わない。俺も何も聞かない。
だって、俺も卒業したらどうなるとか、何がしたいとか分かんねぇから。

感傷的になるなんて、そんなガラじゃねぇのに。

屋上で大の字になって、流れる雲をぼんやりと見つめていた。



**********************


コン。

突然、頭のつむじを蹴突かれた。

「だっ…!誰だコノヤロウ!」

起きあがって、後ろを振り向くと、そこには仁王立ちのリンダ。
つーか、今一番会いたくねぇ奴が、何でここに!!

「何しやがる!痛ェじゃねぇか!!」
「おお、床が喋った。」
「テメェ!リンダ、このやどー!!!」

頭にキて、飛びかかった所をフイと避けられる。
そのまま、べちゃっと床に這い蹲ってしまい、鼻をしたたか打つ。

「あいてて…!」
「…何だ、元気じゃねぇか。」
「へ…?」
「桐島から様子見てくれって言われた。」

青空を背に、リンダが煙草に火を点ける。

ヒロミ…?アイツには、何も言ってなかったのに…。
そういや、ポンが言っていたな。ヒロミは頭がいいって。

やっぱポンの言うとおり、ヒロミは頭がいいわ。
今の俺に、ちゃんとリンダを寄越して来やがった。


「あんまり心配かけてんじゃねぇよ。ガキじゃあるまいし。」


カチン。リンダのヒトコトで、俺の頭の奥で鈍い音がした。

ああもう…なんで寄りによって、こんなイライラしてるときに。
張本人のコイツが突っかかってくるかなぁ…。


「テメェには関係ねぇだろ?説教してンじゃねぇよ。」
「…あ?」

俺の態度にリンダが眉を寄せた。
言葉に棘があるのが自分でもわかった。

「………。」
「…何だよ。」

ぴき、と空気が重くなるのが分かった。

俺は別にテメェなんか怖くないんだ。
殴りたければ、殴ればいい。殺したければ、殺せばいい。

あぁ。これは八つ当たりだ。でも、そんなのわかっている。
今は他人の事なんて気にしていられない。
自分が止められない。自分を守る事で精一杯。


放っといて欲しい……でも、構って欲しい。

そんな矛盾がぐるぐる渦巻いて、脳味噌をつぶしにかかって来る。




なぁ、リンダ。

俺は、テメェの事で頭が一杯なんだぜ…?笑っちゃうだろ?





「…ハル。」

突然、二人きりのときの名前で呼ばれた。
驚いて見れば、リンダは俺に向かって腕を広げていた。

それは“ぎゅってしてやるよ”の意思表示。

リンダは、俺がヘソ曲げてたり機嫌が悪い時に必ずこうしてきた。
そうすれば俺の機嫌が直ると、コイツは信じて疑ってねぇ。


「な…なんの真似だよ。」
「今は授業中だ。誰もココには来ないだろ…ほら。」



…ムカつく。




ムカつく。ムカつく。




コイツの思い通りになってしまう自分がムカつく。




…………………やっぱり機嫌が直っている自分がムカつく…。




すべてコイツの思い通りになってたまるか。
腹立ちまぎれに、腕を広げるリンダに突進してやった。

でも、ガタイのいいリンダは、動じる事なく、
俺をぎゅーっときつめに抱き締めてきた。


「相撲じゃねぇんだ…甘えるなら、もっと可愛く甘えろ。」
「うるへーんだよボケ…。」



胸の奥がほぐされる。



何だよ。どうしてこんな時に優しくするんだよ。
俺、オマエにすっげぇ嫌な態度とったんだぞ?




つーか、俺…何で涙出そうになってんのかなぁ…。




ぽろん、ぽろんと零れかける何か。

堪えきれなくなって、リンダの胸に顔を埋める。
リンダの背中を掻き毟ると、反対に背中を撫でられた。


「…こら。痛ぇだろうが。」
「うっせぇ…。」



こっちが痛ぇよ…。



心の中で、いっぱい叫んだ。

行くな、とか。寂しい、とか。



……好きだ、とか。




視線だけでリンダを見ると、空を仰いで煙草の煙を吹き出していた。




青い空に、白い雲。それにリンダの吐く煙が同化する。



その風景が、その姿が。

目に沁みて痛かった。



END
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