SS.CROWS ♯1

□アンチクライマックス
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※性的な表現が含まれています。自己責任で。

スタジオ練習を終え、ツネを機材車で家の前まで送ってやる。
4時間にも及ぶ練習のせいで、辺りはすっかり暗くなっていた。
ずっと弾きっぱなしだったから、流石に疲れたな…。

機材車を運転するのはヒロミ。助手席に座るのは俺。
で、後部座席に乗るのが、後から入ったツネ。
何回も繰り返されたメンバーチェンジによって、
俺とヒロミの乗車席のポジションはそう決まっていた。

おかげで運転するヒロミの横顔を盗み見る事が、俺の癖になってしまった。


**********************


「じゃあな。ヒロミ、阪東。お疲れさん!!」
「おう、またな。」

ツネを降ろした後、クラクションを1回鳴らして車が発進する。

すぐそこの最初のカーブを曲がり直線道路になった途端、車内の空気が変わった。



ヒロミが、いきなり俺の手を握ってきたから。



「……!」

驚いて横を向く。が、ヒロミは前を向いたままで何も言わない。

ああもう。二人きりになった途端に、こんな風に触れてこないで欲しい。
恋人特有の接触に、心臓がドクドクと五月蝿く脈打つ。

骨が節くれ立った太い指。かさついた掌。
この手に何度慰められただろう。なんど傷つけられただろう。

…苦しい。

胸に鉛を埋め込まれたみたいだ。


「………………………何だよ。」
「ん?何が?」


俺の意図を含んだ問いかけに、ヒロミがサラリと惚ける。
普段通りの表情と普段通りの声に、カッと頬が熱くなった。

…くそ。俺ばっかり振り回しやがって。

しかし、その甘くて切ない温もりを振りほどく事が俺に出来るわけもなく。
結局、そのままヒロミの好きに手を握らせる羽目になってしまっていた。

夜の暗闇で表情は見えないけれど。ヒロミが微かに笑ったような気がした。
俺は、この緊張と、照れくささと、動悸の激しさが、
捕まえられた箇所から、この男にバレるのではないかと。
そっちの方が、気が気でなかった。


**********************


スタジオから家まで、車だとそう遠くない。
俺とヒロミは特に言葉を交わすことも無く、無事に駐車場に到着した。

捕らえられていた手が解放されて、俺は息を小さく吐く。
少しだけ温もりを追い求めてしまった事には、気付かない振りをした。
何を残念がっているんだ、俺は。

ヒロミが慣れた手つきで駐車スペースに車を入れる。
エンジンが切られると、辺りがしんと静かになった。
虫の音が聞こえる。ああ、もう春なんだな。

ふいに、車内の時計がピッと鳴る。
気がつけば、蛍光塗料で浮かんだ数字は結構な時間を指していた。

「…すっかり遅くなっちまったな。」
そう言って、車から出ようとドアを開くと、室内灯がパッと点った。
暗闇に慣れていたせいか、この光が少し目に痛い。

「阪東。」
「…あぁ?」

ふいに名前を呼ばれて、振り向いたら。
微笑んだヒロミが室内灯をパチリとゆっくり消した所だった。

どきんと一つ心臓が揺れる。その仕草にちょっと見惚れた。
今から何をするのか。今から何をされるのか。
ヒロミの次の行動が、何故か俺には容易に感じ取れた。

灯りが落とされて、ヒロミの顔がゆっくりと近づいてくる。
伏せかけられた瞼につられて、俺も瞼をゆっくり閉じる。


故意に作られた暗闇の中で、ヒロミの口唇が俺の口唇に重ねられた。

始まりの…合図だ。


**********************


車から出ようとしていた足は再度車内に引き戻された。

深い深い口づけの後。
ファスナーが下ろされたヒロミの下腹部に頭を押しつけられた。

「っ…ふ、うん…!!」

ヒロミの先端を濡れた肉に擦りつける。
舌を厚く尖らせて、浮き出た裏筋を何度も何度も押し上げた。


ああ。俺達は車の中で何をやっているんだ。

少し歩けば、誰からも干渉されない部屋も、
好きなだけ抱き合えるベッドもすぐ其処にあるのに。


「は…っ…す、げぇ…イイ…。」

頭を掴むヒロミの手がぐっ、と力んだ。
…感じてくれている証拠だ。
込み上げた嬉しさを、胸に甘く広げていく。

「…上手く…なったじゃねぇか。」

ガキを誉めるように頭を撫でられ、耳の後ろをくすぐられる。
ああ。こんな事で喜ぶなんて。俺は、どうかしてる。

「俺のカタチ、ちゃんと覚えた?ねぇ。」
「…早くイけよ。」
「くくっ、相変わらずムードねぇなぁ…。」

くすくす笑って流される。
そんな俺の悪態も、照れ隠しの延長と理解しているのだろう。
その証拠に、頭を撫でる行為はそのままだ。

畜生。こんな風に優しく撫でられたら、もっと頑張ってしまうじゃないか。
ヒロミは絶対分かっていてやっている。
…だから、頭がいいヤツは嫌いなんだ。

「一回イくから…。」
「…っ!!?」

優しく撫でていたはずの手が、急に髪を手荒に掴んできた。
そして、そのまま俺の頭を乱暴に上下に動かし始めた。

「…っん!!?んぐっ!ん、ん、ん、ん…っ!!」
「ほら。もっと舌使えって。」
「うっ…んっ…ふ!んふ、んんっ…!!」

言われたとおりに舌を使うと、ヒロミが笑った気配がした。
迂闊にも、言うとおりに動いてしまった事が恥ずかしくて。
ばつ悪く、銜えたまま上目遣いでヒロミを睨んでやった。

「ははっ、アンタのその顔サイコー…ゾクゾクする。」

ハァと熱っぽい息を吐いたと思ったら、更にぐっと頭を押さえ込まれた。

「んんっ…!!?」

喉咽の奥まで肉棒が押し込まれ、鼻に特有の青臭さが抜ける。
そう思ったら、どろりと濃い体液が舌の奥に叩き付けられた。

「ん!?ぐ、ふっ…!!」

痛くて、にがくて、苦しくて。思わず、目尻に涙が浮かぶ。
ケホケホむせる俺の髪をヒロミが乱暴に掴んで、無理矢理に顔を上向かせた。
さっきまで優しく撫でていた手が、今度は髪に荒々しく食い込んでいる。
引っ張られた頭皮が、ズキンと痛んだ。

「ん、ぅ…っ…!」
「飲んで、全部。」

興奮して、ギラついた獣の様な目に射抜かれながら、
俺は恥ずかしさに目を瞑り、喉咽をゴクリと上下に動かした。

「ふふっ。スゲェ可愛い…。」

素直に飲んだ俺を見たヒロミは満足そうに、
唾液で汚れた俺の口元を親指でぬぐった。

「ばんどう…。」
「あ…っ…。」

肩を抱き寄せられ、首筋に口付けられる。
ワックスで立てられた髪が、頬にあたってくすぐったい。
シートがガコンと後ろに倒され、そのまま上にのし掛かられる。
服の上からまさぐられ、シャツのボタンを片手で器用に外された。

「お、お前…っ…まさかココでする気か…?」
「うん。」

俺の質問に、あっけらかんと答えやがる。バカだろう、お前。
露出した肌や胸の飾りを、ちゅくちゅくと赤ん坊の様に吸い上げられた。

「あ、んんっ…!!」
「…気持ちいい?」
「あっ…?あ、んあ…あ…。」

少し歩けば、誰からも干渉されない部屋があるのに。
好きなだけ抱き合えるベッドもあるのに。

そんな思考が再度頭をよぎったが、
どうやら、俺達はその数メートルさえ惜しかったらしい。



場所なんかどうでもいいんだ。…お前と抱き合えるなら。



ズボンと下着は、既に足下にくしゃくしゃになって落ちていた。
左足から、ブーツを靴下ごと引き抜かれ、肩に担がれる。
そして、固く結ばれている蕾を、唾液と舌先で、やわやわと解された。

「っ…!や…だ、やだっ…んあ…あ…!!」

ぞくぞくぞくっと背中に快楽が走り、跳ねた足が天井に当たった。
嗚呼、こんな狭い場所で絡み合って。抑制が利かない獣の様だ。

「あっ…あ、んあ…あああ…!」

解し終えた所で、今度は入り口にヒロミの固い欲望がくちくちと擦りつけられる。
丁寧なソレに、俺の身体も受け入れる為に開き出した。

「んっ…んぁ…ッ…。」
「ねぇ…もう入れてもいい…?」
「あ…ゴム、つけ…ろ…。」
「えええ〜。」

俺の申し出にヒロミが口を尖らせる。何だそのガキみたいな顔は。
こんな表情をする時ばかりは、こいつが年下だと改めて実感させられる。
だが、そんな顔をされてもコレばかりは譲れない。

「ええ、じゃねぇ!こんな所で中出しされてたまるか!!」
「ナマの方が気持ちいいんだけどなぁ。」
「…つけるか?やめるか?」
「はいはい。わかったよ。」

地を這うような声で睨むと、俺が譲る気が無い事を悟ったらしい。
ヒロミはしぶしぶ身体を起こし、財布から常備しているらしいゴムを取り出した。

どうやら今夜は満月らしい。
逆光に、ゴムを口に銜えて、ベルトを引き抜くヒロミのシルエットが浮かんだ。
俺に跨り、口に銜えたままピッと封を切って中身を取り出す。
その抜け殻は、ヒロミの口を離れ、ポトリと俺の胸に落とされた。

くそ、何でこんなにドキドキするんだ。

正方形の包みからするりと滑り出した濡れたゴムは、
そのまま俺の手に渡された。

「?…んだよ。」
「つけて?」
「……!」

こいつは何処まで甘えれば気が済むんだ!!?
自ら受け入れの体制を整えさせられている感じがして、奥歯を噛んだが、
自分から言った事だと、流されることは目に見えていた。

俺は恥ずかしさに顔を焼きながら、おずおずとヒロミの怒張に触れた。

「…っ…!」

固く反り立つソレが、俺の手が触れた途端ピクリと震えた。
ヒロミの反応にドキドキしながら、熱いソレに冷たく潤んだゴムを被せていく。
薄いスキンを根元までなぞらえ、それを確認したヒロミが口の端を上げた。

暗闇に目が慣れ始めたせいか、とても愛おしそうに見つめる瞳と目が合う。
こいつも俺の事を好きなんだという事が、十分実感出来る眼差し。
とてつもなく甘くとろけそうな優しいそれに胸がぎゅっと締め付けられた。

それが、獲物を誘う麝香とも知らずに墜ちてしまう。
瞬く間に鋭い牙に噛みつかれた俺は、歓喜の悲鳴を上げた。
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