SS.CROWS ♯1

□雑種の迷える羊たち SIDE H
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※SIDE Bからお読み下さい。

走る。走る。
感情のまま、俺を投げ散らかした場所から猛スピードで。

嗚呼。この勢いでこの青臭い皮がズルリと脱げてしてしまえばいいのに。
ガキくさいこの余計な感情から脱皮さえ出来れば俺はもっと大人になれるのに。

そうすれば。一つ年上のアンタを、身も心も俺から逃げられなく出来るのに。





バイクで飛ばしまくっていたら、高ぶった感情が落ち着いてきた。
突然帰ると、殴られる可能性があるから、
伺いも兼ねて、阪東に詫びの電話を先に入れようとしたが、
携帯を忘れてきてしまった事に気付く。
なりふり構わず飛び出してきたからな。ついてねぇ…。
『まぁ、2、3発位は覚悟するか。』と、
俺はバイクをUターンさせて帰路についていた。

相変わらず、何も感情表現をしない阪東に
俺は何故か今頃になって酷くキレてしまった。
元々、あいつは、そういうのが苦手なのに。
そんな事、言われなくても分かってたはずなのに。
今夜の俺はちょっとだけおかしかった。
疲れか、何か。かなり情緒不安定だった。

普段からクールに生きていたはずなのに。
阪東に関しては、稀にだが、こんな風に見境が飛ぶときがある。
押さえつけていた感情がコントロール出来ないなんて。
アンタが俺に本気で惚れているのは分かっているんだけど。
言葉でも行動でも、表現が下手なアンタは凄く不透明で。
その、中身はよくよく目を凝らさないと分からない。
アンタの『好き』は、俺の五感が衰えたら分からなくなるもの。

だから、俺はアンタを試してしまうんだ。
俺はガキみたく、浮気したとき、怒ってくれるアンタを見て安心するんだ。
我が儘を言って、甘やかしてくれるアンタを見て安心するんだ。
自分が安心したくて。俺は、わざとアンタの感情を揺さぶる。
こんな、歪んだ感情。ガキ以外の何者でもないんだろうけど。

俺はね、アンタの事が…凄く凄く好きなんだ。


**********************


部屋は真っ暗だった。電気は点けずにこっそり中に入る。
見れば、阪東は寝ている様だ。ホッと胸を撫で下ろす。
一人なら真ん中で、ゆったりと大の字で寝ればいいのに。
ちゃんと俺がいつも寝ているスペースを空けて、狭そうに布団にくるまっていた。

寝顔はこんなに穏やかなのにな。

起こさないように、ゆっくりと寝顔に指を伸ばす。
顎に、口唇に、頬に、指を滑らせて…ん?
頬に残る涙の痕で指が止まる。

あぁ、俺。またアンタを試しちゃっていたんだね…。
見た感じ、相当泣いたらしい。明日は絶対腫れるだろう。
そんな事を想定する余裕もなく、泣いたんだね。
…俺の事で泣いてくれたんだね。

「……泣かせてごめんな。」

ノドに張り付く小さな声で呟いて。俺は熱を持った目瞼にキスを落とす。
温もりの横に身体を滑り込ませ、痩せた身体を後ろから抱きしめた。

早く。早く大人になるから。
明日は、ちゃんと謝らせてくれよな?
プライドの高い、可愛いアンタの、
この目瞼の腫れは知らないふりをしてやるから。


END
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