SS.CROSS ROAD ♯1

□ケミカルリアクション〜Episode 1〜
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※プロローグから先にお読み下さい。

「よう、よく来たな?まぁ、入れよ。」

突然湧いた大勢の来客を、秀虎は嫌な顔ひとつせず迎え入れた。
そう、ツネの手配した場所は秀虎の家だった。

面子は勿論、家主の秀虎。そして、ヒロミ、阪東、春道、リンダ。
そして、たまたまその家に居た秀虎の後輩、木場好晃の計6人。

春道とリンダは、秀虎や木場とは勿論今回が初対面。
ヒロミと阪東はツネと連んでいる関係で、
彼らに会うのはこれが初めてというわけでは無かった。
ツネの計らいで、何度か練習の後に秀虎の勤務先に食事に行っていたし、
その流れで木場とも、秀虎同様、年齢が近い事もあって割と仲良しだった。
…とは言っても、こうして家に訪れたり泊まるのは初めてだったが。

そんな共通点があるようで、無い6人が、
こうして秀虎のマンションに雁首揃える事となった。


**********************


元々世話好きの秀虎は、キッチンに立ち、料理を振る舞った。
大人数に美味い料理とくれば、やはり行き着く所は「酒」となるわけで…。

…その結果が、こうだ。


「くおらー!!俺のグラスが空だぞぁー!!」
ひく、と酔い特有のしゃっくりを一つ上げながら、
リンダに向かってグラスを突きだす春道。

「あはは、呑みすぎだぞ春道〜ほら、水!これ呑んで胃の中薄めろ〜。」
その横で、胃を薄めろと笑顔で焼酎が入ったロックグラスを渡すヒロミ。

「秀虎さん…秀虎さああん…!!」
そして…酒癖の悪さナンバーワンの木場好晃がグデグデとくだを巻いていた。


この年齢の連中は、酒癖が悪い星の下に産まれているのか。
阪東とリンダは同じ事をほぼ同時に思っていた。

木場を筆頭に、どうも春道やヒロミもそこまで酒に強い方では無いらしい。
それに引き替え、リンダや阪東、秀虎はケロリと顔色一つ変わっていなかった。
…特に阪東は日本酒を手酌で延々、水の様に煽っている。


「なーリンダ〜からっぽだって〜〜!!」
「うるせぇ!ハル!お前はもう呑むな!!!」
「わああぁぁ!リンダ大魔王がデター!秀虎助けてーっ!!」

リンダの激昂に、春道は横に居た秀虎にぎゅーっと抱きつく。

その行動が、リンダのこめかみに更に青筋を立たせる事になっている事を、
春道は残念ながら、全く気付いていない様だが…。

「あはは、わりぃ春道。大魔王までレベルアップされたら流石の俺でも自信ねぇわ。」
「…秀虎さん、そのバカザル相手にマトモに打ち合わなくていいッスよ。」
「くおらリンダ!!誰がサルだ!やんのかコルアァー!!!」
「いいからテメェは黙ってろ!!口縫われてぇのか!!!」
「秀虎あぁ〜〜助けて〜〜!!」

リンダが怒鳴るたびに、春道は秀虎の肩に顔を埋める。
春道はその得意の人懐っこさで、秀虎とすっかり打ち解けてしまっていたのだった。

2つも年上の、しかも秀虎会という不良集団の頭を張っていた男に対して、
敬いとか、はたまた緊張とか。そういった気遣いは一切見せず、
呼び捨てプラス、タメグチという彼を崇拝する秀虎会の面々や地元の後輩が見たら、吃驚する様な行為を、春道はフランクにこなしてしまっていた。

しかも秀虎の作った料理に感動した事もあり、
猛獣、手懐けるなら餌与えろ…というわけでは無いが、
春道は、彼にすっかり懐いてしまっていた。
そして秀虎もその飾らない春道をいたく気に入ったのだった。

「こら〜春道〜アニキにベタベタ触ってんじゃねぇ〜〜!!」
「ん…?おっ!」

そんな中。後ろから春道ごと秀虎に抱きつく腕が2本。正体は、木場。

「おあー木場〜俺が先だったんだぞ〜あっち行け〜っ!」
「駄〜目〜だ〜っ!!」
「こらこら、二人とも仲良くしろ?半分ずつな?」

…まるでガキの玩具の取り合いだ。
一人離れた所に座った阪東は、日本酒をチビチビ舐めながら、
(と、言ってもかなりの本数を空けているが)傍観者を決め込んでいた。

「秀虎さああん…!!」
「はは、木場も程々にしておけよ?」

秀虎は、完全に酒に呑まれた春道と木場を前と後ろにくっつけたまま、
にこやかにみんなの談話に参加している。…さすが、強者と言った所だろうか。



その時、秀虎に絡んでいた春道が突如「あ。」と声を上げた。

そして秀虎の顔を覗き込み、ヒヒヒといやらしい笑みを浮かべたのだった。



「…どうした?春道。俺の顔に何かついてるのか?」
「ん〜ふ〜ふ〜ふ〜秀虎もスミにおけねぇ〜な〜!グフフフ…。」

秀虎は春道の言っている意味がサッパリ分からない。
それは、他の面々も同じ事の様だ。各々、頭の上にハテナマークを浮かべている。
きょとんと呆ける皆の中で、春道だけがグフグフと笑っているのだ。

「秀虎のこれ、キスマークだろ!?」

そんな配慮も気遣いも何もかもが欠如した、開口一番。
阪東は日本酒を吹き出し、そしてとうとう例の大魔王はすくっと立ち上がった。

ヒトのプライベートに首つっこんでんじゃねぇ…!!
そして、未だ笑みを浮かべるその口元を押さえると、秀虎から引っ剥がした。

「わあああ!!離せバカリンダ!!」
「いいからお前は此処に居ろっ!」

リンダは穴があったら入りたい気持ちで春道を引っ張っていた。

秀虎は、誰が見ても納得する所謂『イイ男』なのだ。彼女の一人は居るだろう。
…それにしても痕付けるなんて。随分積極的な彼女だな、とリンダは思ったが、
余計な散策はするまいと、頭を振ってその思考をかき消した。

だが、そんなリンダの厚意は当の秀虎には要らなかったらしい。

「あーあ、わざわざ見えない所に付けたのに。見つかっちゃったな、木場?」
「ッス!」

「「!!???」」

リンダがフリーズし、阪東が二度目の日本酒噴きを決めたのを尻目に、
秀虎は呑気なもので、背中に貼り付いた木場に笑いかけた。

今…このヒト、凄い事を言わなかったか?

思わず、リンダは阪東を見た。すると、阪東もリンダを見ている。
『聞いたか?』『聞いた』そんなアイコンタクトが交わされる真ん中で、
リンダと阪東に代わって、ヒロミが口を開いた。

「秀虎さん、秀虎さん。何スか?今の。」
「え?今のって?」
「何で秀虎さんのキスマークが見つかる事と木場が関係あるんスか?」
「え、だって…。あれ?ツネから聞いてねーの?」

ヒロミは何も聞いていなかった。ついでに言えば阪東も、だ。
リンダと春道は勿論初対面だから、聞いているはずもない。



「実は俺、木場と付き合ってんだ。」



ガタガタガタァアアーー!!!

「ってぇ!何すんだよリンダ!!」
「わっ!阪東!何やってんだよっ!!」

そんな衝撃の告白によって、狼狽えたリンダは何故か隣の春道を突き飛ばし、
グラスを置こうとした阪東の腕は、テーブルを突っ切り、
卓上に並んだ空き缶をボウリングの様に蹴散らしたのだった。

リンダの反応も阪東の反応も、無理もない話。
自分たちの様な状況のカップルが、
まさか目の前にもう一組居たとは誰が想像出来るだろう。

「話戻すけど、マジで付きあってるんスか!?」
「うん。木場が卒業してからな。」
「すっげぇー!!」

呆然とするリンダと阪東とは打って変わり、春道とヒロミは興味津々だ。
口には出さないが、自分たち以外に所謂『同性の恋人』を持っている人間なんて
滅多にお目にかかれないからだろう。

「なぁなぁなぁ、秀虎ホモなのか!?や、木場がホモなんだろ!?」
「あぁ、きっと木場がホモだ!間違いねぇ!」
「春道!ヒロミ!お前ら〜何か俺にだけ失礼じゃねえか〜〜???」

年下達がギャイギャイ言い出し始めた頃、秀虎は未だ固まっている二人に声をかけた。



「…ビックリさせちまったかな?」

二人の空気があからさまに変わっているのに気付いた秀虎は、小さく詫びた。

詫びる必要は一切無い。
彼らの恋人もまさか目の前で騒いでいる中の一人なのだから。
…まぁ、そんな事情を秀虎は知る由もないのだが。

しかし、そういった事情を抜きにしても、
リンダと阪東には秀虎を蔑む感情は、一切湧かなった。
むしろ素面で堂々と交際宣言してしまう彼を頼もしいと思っていた程で。

「…俺らは気にしないっすよ。恋愛は自由だ。なぁ、阪東?」
「……ふん。」

リンダと阪東の反応を見た秀虎は、『さんきゅ』と無邪気な笑みを零した。
それは幸せに満ちた、同性から見ても可愛らしいもので。
その笑顔を見て、少しドキリとした事を、二人は気のせいにする事にした。


…しかし、その後聞こえてきた言葉により、
そこに居る二人は余計固まる事となるのだった。


「だからー阪東は、ああ見えてマゾなんだって〜!」


!!!!????
声のした方を、阪東は勢いよく振り向いた。
目線の先では、自身の恋人であるヒロミが春道や木場と談話していた。

今、すごくとんでもない事を聞いた様な…。
阪東の背中を、冷たい汗がつう、と落ちる。

リンダや秀虎の反応を見れば、彼らも目を見開いていて。
阪東は、自分の聞き間違いの線は断たれた事を嫌でも知る羽目となってしまった。


「普段あんなだけどな、二人っきりのときは可愛いんだぜ?俺にすっげぇ惚れてっからよ?あ、でも最初は嫌がってンだぜ?けどよ〜もうその後がメッチャ淫乱で…。」

「えええーーリンダの方が、すっげぇぞ!!?毎回壊れるかと思う程されるんだぜ!?この前だって、一晩で何回シたかなー…。」

「くぉらあああ!!秀虎さんが一番に決まってんだろ!!美人で強くて優しくて可愛くて…でもすんげぇエロいんだぞおおおっ!!」


何をお前達はベラベラ喋ってんだ…!!!!
ヒロミだけでなく、春道までもが暴露大会に混ざって赤裸々な告白をしている事に、阪東に続き、リンダも頭を抱えて俯いてしまった。



そう。ちょっと目を離した隙に、酔っ払いの三名は、
いかに自分の恋人との夜の営みが素晴らしいかを熱く討論し始めていたのだった。



「あの…。えっと…こういう場合何て言えばいいかな…?」

秀虎がこちらを気遣っている事がひしひしと伝わる。
しかし、リンダも阪東も顔を上げる事が出来なかった。

自分たちの恋人が目の前の酔っ払いどもという事が、秀虎にバレた挙げ句、
まさか、こんな形で自分たちの恋愛事情、しかもディープな部分が、
暴露されるとは思ってもみなかったのだから。


撃沈しているリンダと阪東に構う事なく、
討論はどんどんヒートアップしていった。

「ふぬぬ〜〜〜これじゃ埒があかねぇ!ヒロミ!木場!この場でハッキリさせようじゃねぇか!」
「んあぁあ?ハッキリ〜?」
「何だよ?」

ニシシと歯を出す春道に、木場が目を座らせたまま言葉の意味を問う。
ヒロミもまた、ロックグラスをくい、と空けて春道を見据えた。



「この場でヤれば、わかるだろ!?」



そして、春道の口から無邪気に零れた言葉に、
3名の年上達は更に固まる事となったのだった---------------。


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