SS.CROSS ROAD ♯1
□ケミカルリアクション〜Prologue〜
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どうしてこういう事になったのか。
事の発端は数時間前に遡る。
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『ツネ!一晩泊めてくれ!』
電話を取った途端に耳を通過したヒロミの声にツネは顔をしかめた。
藪から棒に何を言うんだ、と。ツネは思った事をそのまま口にした。
『ちょっと、ワケあってさー。家入れなくなっちまって。』
「一晩って…別にいいけどよ。何があったんだよ。」
鍵を無くした…と言っても、ヒロミは阪東と同棲している。
よって、鍵もそれぞれ持っているはずだ。
同時に2本も鍵を無くすなんて、そんなマヌケな事は無いだろう。
ってー事は…。
「とうとう浮気がバレたか?いい機会だ。これを機に落ち着けよ。」
『いや〜大家がよ、音がうるせーって言うからよ。』
あ、浮気の話を流した。…って事は横に阪東が居るんだな。
じゃあ、阪東も泊まりに来るってわけか…。
3人かー、ちょっと狭くなるけどまぁギリ大丈夫かな…。
ツネはヒロミの言葉や態度だけで、ふむふむと状況を把握していく。
ヒロミが言うには、毎晩鳴らされるギター音と、
ボリュームが盛大に上げられたスピーカーと、
ウーハーを通って響く重低音…つまり音がとにかく煩いと
大家から苦情を言われ、改善するまで出入り禁止を喰らったらしい。
「お前らさぁ…行く先々で問題起こすなよ。これで何件目だ?騒音が原因で追い出されたの。」
『あぁ?そんなの、いちいち覚えてねぇよ。まぁ取り敢えず今夜の寝床が居るワケよ。な?頼む。』
「ったく…しょうが…」
『あああーリンダ!てめぇ!今の最後の一本だったのに!!』
まぁ、2人位なら…と思い、ツネは了承の言葉を口にしようとしたが、
奥の方から、聞こえた奇声に口をつぐんだ。
「………おい、ヒロミ。」
『………ん?』
ツネの思う所をヒロミも察したらしいが、
ポーカーフェイス(?)を装う。
「お前…俺をハメようとしたな?」
『何のことだ?』
「…お前と阪東だけじゃねぇな?」
『あーもう、こら春道!あれだけ電話している間は黙ってろって言っただろ!』
電話の向こうで聞いた事の無い声が、“だってリンダがー”と言う。
ヒロミ、阪東。…春道…リンダ。ヒロミとの会話で出てきた名前だけでも4人。
「おおおい!てめぇ!6畳1間の俺の部屋に一体何人で来るつもりなんだよっっ!!」
『ん?4人。』
ヒロミの口からサラリと出た数は、やはり4人だった。
見事人数を当てたツネは、喜ぶどころか一気に肩を落とした。
「4人って…。」
『や、俺と阪東だけだったら野宿でも何でもイイんだけどよー今日、同じ高校だった仲間が大阪から泊まりに来る事すっかり忘れていてさ。』
ほら、普段モメ事ばっかり起こしているから、
そういう大事な日に、こういう事になるんじゃねぇか。
ツネは面倒くさそうに頭をかきながら、そう思った。
「4人は物理的に無理!!俺の部屋の狭さ知ってンだろ!??」
『何とかなるってー。』
「その判断をするのは俺だっつーの!とにかく無理!可愛い女の子ならまだしも、ムサ苦しい男ばかり所狭しと来られて堪るか!!」
『あぁ、リンダは女だぜ?林田メグミちゃんって言ってー。』
「くおらあ!何が女だ!オメェん所は男子校だろ!!」
げんなりと顔をしかめるツネを尻目に、
ヒロミは悪びれもせず、『あ、しまった。』と笑うだけだった。
「とーにーかーく!そんな大勢で来られても、寝るスペースすら無ぇんだよ。」
『ええー俺も阪東も上京してるから知り合い居ねぇしよ、頼れるのお前だけなんだよ〜。』
「あぁ?女どもが居るだろ?お前のおねだりで喜んで泊めてくれると思うぜ?」
『なぁ、頼むよ〜。』
ヒロミはまたNGワードを口にせず、ツネの精一杯の嫌味をキレイに無視した。
あ、また流した。身辺事情においてのヒロミの徹底さにツネは舌を巻くばかり。
「ったく、しょーがねぇな…。」
『おっ!話が分かるね、常吉くん。』
「俺ン所じゃねぇよ!」
ちょっと待ってろ、と。ツネは、ヒロミとの電話を切る。
そして、やれやれと息を吐きながら、
自分の所よりはるかに広い部屋を借りている、
面倒見のイイ、あの人の電話番号を液晶に表示させたのだった。
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