SS.CROSS ROAD ♯1

□4U おまけ
1ページ/2ページ

※前編・中編・後編から先にお読み下さい。

SIDE RINDA-------------------------

春道は桐島の秘めた想いに気付いていない。
まぁ…あの桐島だからな。こいつが気付かないのは無理もない。
当の本人も周りには隠している様だったし。

俺も最初に気付いたときは、半信半疑だった。
ただ、あまりにも阪東を見る桐島の目が優しかったから。
その事をちょっと突いたら、意外にもあいつはあっさり認めやがった。

自分からは言うつもりは無い。でも聞かれたら答える。
わざわざ仲間に嘘をつく必要はねぇから。

俺なんかにも仲間という言葉を使ってこられて、
無性に、こそばゆかったのを覚えている。


**********************


家に着いても、春道は横で膨れたままだった。

「…いつまで膨れてるつもりだ。」
「………。」
「ハル。」

声をかけたら、への字に固く閉じていた口をようやく開いて、
まだ遊びたかった、とポツリと漏らした。

その拗ねる様はガキ以外の何者でもない。
でも、どう考えても、あの場は退散するべきだった。
桐島が、阪東との関係を変えようとしていたから。

でも桐島の恋慕をわざわざ俺から言うわけにもいかねぇからな…。

それに、あんな軽いキスひとつで俺が満足出来るわけがない。
お前を少しでも味わうと、全てたいらげないと気がすまなくなる。


ワガママだけど、可愛いお前を。
どろどろに甘やかして、食いつぶしてしまいたい。

誰の目にも留まらない場所で、俺だけのものに---------。


「阪東だけでも来れそうだったのに…。」
「俺は早く二人っきりになりたかった。」
「えっ…。」

戸惑う瞳ごと、一回り小さい身体を腕に納める。
黄金色の髪に鼻を擦りつけると、太陽の匂いがした。

「な…何…だよ…。」
「…嫌か?」
「い、嫌っつーか…そのっ…んッ!?ん…。」

騒ぎだそうとする口を塞いでやれば、すぐ大人しくなる。
俺は、そんなお前にいつも参ってしまうんだ。

舌で歯列を突いて、甘い舌先への扉を開けさせる。
その柔らかい舌を吸い込むと、春道は苦しそうに息を詰めた。

「り…んだ…。」

瞳の縁が桃色に染まって、とろんととろける。
その桜桃の様な口唇を舌先で更に可愛がってやれば、
ぎゅっと拳を握って、俺のシャツに縋ってきた。

ちゅ、ちゅ、と啄んでやる度に春道の心臓がトクトクと早くなる。

素直に、でも少しだけ恥ずかしそうにキスを受ける春道に、
柄にもなく胸が締め付けられた。

「ハル…。」

胸を襲う切なさに任せて、春道を力一杯抱きしめる。
加減しろと文句を言われるかと思ったが、春道は黙って俺の好きにさせた。


俺は、この甘い雰囲気を壊したくなくて、
メシの前に、ヤるか。と、春道の背中に手を差し込む。
途端、春道の身体が怯える様にひくっ、と震えた。

俺の意図を知らしめる様に、春道の耳を噛み、歯形を残す。
耳殻に尖らせた舌を這わせて擽ると、小さく“…ぁ”と鳴いた。

俺しか知らないコイツの可愛い声に、興奮が一気に高ぶる。
そのまま事に及ぼうと、壁に押しつけた瞬間------------。






ぐうううぅぅぅぅっ






「…………。」
「…………。」
「……………………ハルてめぇ…。」
「だ、だって俺…腹減ってて………。」

壁と俺の間で、悄々と小さくなる春道。

いや、鳴らすつもりは無かったんだ。別に我慢しても良かったんだ。
お前すげぇノリノリになっているし、あぁどうしよっかなぁって。
でも、すっげぇ腹減ってたし。だって、もうメシの時間じゃん。

俺に少しでも罪悪感があるのか、春道は、あわあわと
言い訳なのか何なのか分からない日本語を慌てて並べ出す。

身長差があるせいで、春道が俺を見上げると自然と上目遣いになる。
そんな顔で「怒ったか?」とおそるおそる訊ねられて、
首を縦に振れる奴が居たらお目にかかりたい。

春道の腹の虫に一気にその気を削がれた俺は、
取り敢えず、春道から身体を離した。

「リンダ…。」

すると、そんな俺の態度が不安になったのか、
春道が、か細い声で名前を呼んできた。

顔を見れば、寂しそうな頼りない表情。
コイツに、駆け引きなんて出来ないはずだ。
じゃあ、この顔は無意識か。クソ、なんて性質が悪いんだ。

「…怒ってねぇよ。」

そう言うと、曇っていた春道の顔がパアッと明るく綻ぶ。
ったく…何なんだお前は。寂しそうにしたり、バカ明るくなったり。
春道は、こうやって、いつも俺の調子を狂わせる。
何か変な電磁波でも出ているんじゃねぇか?

「まままリンダちゃん!そーゆーのは後でって事で、取り敢えずメシにしようぜ!」
「ったく…お前はいつも色気より食い気だな。」
「あんだとコラァー!!」

くるりと背中を向けると、春道はワァワァ騒いで飛びかかってきた。
文句垂れつつも、じゃれてきて。背中にべたりとくっつかれる。

こいつ…サルじゃなくてコアラだったのか…?

とりあえずメシの準備をするか…と思い、重たい背中を引きずりながら
台所に向かおうとすると、ポケットの携帯がヴヴヴと震えた。


『着信 桐島ヒロミ』


あぁ、と思って、春道を背中をくっつけたまま電話に出た。

『よう。今、いいか?』
「あぁ」

声の感じから、アイツと巧くいった事が分かった。
そして、本人の口からも想像通りの言葉が返ってきた。

「へぇ、あの猛獣をよく手懐けたじゃねぇか。」
『えぇ?その言葉、そっくりそのままアンタに返すよ。』

電話の向こうで桐島からクツクツと笑われて、思わず背中を振り返る。
すると、“何だよ”と眉を潜める春道と目が合った。


猛獣……か…。


『色々世話になったからな。一応、報告しておこうと思って。』
「ふん。ご苦労なこった。」
『もっと遅い時間だと邪魔だろうからな。今の方が都合イイだろ?』
「…嫌な勘だな。」

まぁ、その判断は間違っていないがな。
メシまで喰わせて、黙って寝かせるつもりはハナッから無い。

「せいぜい仲良くやるんだな。アイツは相当難しそうだぞ?」
『あはは、それはお互い様だろ?』

そんな桐島の言葉にウッと詰まったら、また電話の向こうで笑う気配。

思わず反論しようとしたら、袖をくいと引っ張られた。
視線を戻すと、すっかり拗ねた顔の春道が口を尖らせていて…。
その目は、“早く電話切れ”と訴えていた。


あぁ、しまった。話しすぎたか。


自分が居る時に、俺が他の事をすると、
春道は途端に不機嫌になる。


まったく…ガキというか、面倒くせぇというか……。


『…あれ?春道、もう拗ねた?』
「…生憎な。」
『あはは、それは悪ぃ事したな。』

お邪魔虫は退散するよ。桐島はそう笑って電話を切った。



携帯を置くと、春道はより一層不機嫌な顔を作った。
さて、このガキの機嫌をどうやって取り持とうか…。



とりあえず頭を撫でて、キスをして。

散々甘やかしたその後、好きなメシをたらふく喰わせてやればいい、か…?


END
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ