SS.CROSS ROAD ♯1

□4U 中編
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※前編から先にお読み下さい。

SIDE HARUMICHI-------------------------

大勢が楽しい。
賑やかで、バカやって、笑って。

でも、その大勢の中にお前が居たらもっと楽しいんだ。


「おお〜結構高いトコまで行くなぁコレ。」

カンカンカンカンと俺達4人を乗せたジェットコースターが空に近付いていく。
生身の身体が普段触れない場所の外気に晒されて、
神経の奥底が、ざわざわと騒ぎ出す。あぁ、たまらねぇな。

先頭部分、野郎4人。端から見たら異様な光景だろうけれど。
やっぱ来て良かった。すっげぇ楽しい!!

「あっ!阪東、しりとりしようぜ!」

俺は隣に座っている阪東に声をかけた。

最初は不機嫌そうにしていた阪東だったが、
今はもうすっかりこの空気に馴染んでいた。
ヒロミ曰く、阪東は絶叫マシーンの類が大好きらしい。

…まあ、武装の幹部やってた位だからなぁ。
元々スピード狂な所があるんだろうな。
毎度、先頭を陣取る俺の隣で、叫びはしねぇが、
空気を切り裂く感覚に、ギラギラ目を光らせて楽しそうにしている。

「あぁ?何でテメェとンな事しねーといけねぇんだよ!」
「いいじゃねぇか!ジェットコースターでしりとりは基本だろ!?」
「ったく、うるせぇな。分かったよ!」
「よっしゃー!!」

俺らのやりとりに、後ろで声を殺して笑う気配。あ、ヒロミが笑ってンのか。
それに目敏く気付いた阪東が、後ろを振り返ってヒロミを睨んだ。

そういやコイツら、いつの間にかこんなに仲良くなってたんだな。
ここ最近、やたらリンダがヒロミや阪東をセットで誘うようになってるし…。


…ま、いっか。仲が良いって事はイイ事だ!!


「あ、ヒロミとリンダも参加な!」
「あ?俺らもかよ。」
「…俺を巻き込むな。」
「じゃあ、俺、阪東、ヒロミ、リンダの順な!」

後ろからの二人の文句は綺麗に無視して、強制参加を決める。
…えーと、えーと。

「イルカ!!」
「か…か…って、ヒロミ!さっきから何笑ってンだ!」
「っ…!?…え?別に笑ってねぇよ?」
「もう既に笑ってるじゃねぇかっ!」
「あっはっはっ!だってよ〜!付き合ってやるなんて、随分優しいなぁって。」
「うるせぇっ!ブッ殺すぞ!!」

阪東がヒロミに突っかかりだし、前と後ろで攻防が繰り広げられ始める。
どーでもいいから、イルカの次を早く言ってくんねぇかな…。

「ほら、“か”なんだろ?」
「ヒロミ、テメェ…地上降りたら覚えてろよ!!」
「だああああっ!!早くイルカの次ぃぃぃっっ!!!」

元々、血の気の多い連中ばかり。
さっきから乗り物に乗るたびにこの有様だった。
言い合い、掴み合い、睨み合いは日常茶飯事。
これの前の、ゴーカートの係員の兄ちゃんの慌てっぷりは酷かったな。

「チッ…!か、…火事!」
「じ?じ…ジェットコースター!」
「おーい、リンダ、“あ”だってよ〜!」
「仕方ねぇな…。」

今も結構高い所に来ているのに、リンダは相変わらず余裕だった。
阪東の様に、一緒に騒ぐというより、まるで保護者の様だ。
騒いでいる俺らとは正反対。こいつ…本当に1コしか違わねぇのか?

カンカンカンという、恐怖を煽るあの特有の音も、
段々とペースダウンしていき、一番高い場所でとうとう止まった。

高い場所で渦巻く、風のゴウウという音に紛れながら、
発せられたリンダの言葉は--------。


「…アイシテル。」
「ぶうううううっっっ!!」

狼狽えて吹き出す俺。
正面向いて固まる阪東。
絶句するヒロミ。

一気にその場が凍った後。
俺達は勢いよく地上へと、くねくねと降下していった。


結局、その後言葉が続くわけはなく。

しりとりは、俺の負けになってしまった。



**********************



…地上到着。


あんなに殺すとか息巻いていた阪東も、
リンダが変な事を言ったせいで、それ所じゃ無くなっている様だ。


ったく、リンダのヤロー。
ヒロミ達の前で、いきなり何て事言い出すんだっつーの…。

オメェが言うと、シャレになんねーっつーの…。


「あぁ…もうこんな時間か。」

俺が落ち着かなくなっている事に微塵も気付かないリンダは、
呑気に時計を見上げたかと思えば、ポツリとそう呟いた。

気が付けば、辺りは夕方になっていて。
園内も賑やかさが薄れてきている。
遊園地は楽しいけれど、この閉園間際のこの空気は、
まだ遊びたいのに、もう終わりって言われている様で、
寂しくてあまり好きじゃない。

「次で最後かな。最後、何に乗る?」

ヒロミが煙草を消しながら、話に入ってくる。
そうそう。この最後に乗るモノっていうのが結構重要なんだよな。

「もう、これでいいじゃねぇか。」
「あぁ?」

リンダの指さしたモノに、阪東が明らかに嫌な顔をする。
それは、すぐ目の前にある観覧車だった。

「何で野郎4人で狭苦しくこんなの乗らなきゃいけねぇんだよっ!」
「じゃあ、お前は桐島と乗れ。じゃあ後でな。」
「あぁっ!??なっ、何で俺がヒロミと…あっ!おいっ!」

リンダは阪東の制止をものともせず、俺をひょいと肩に担ぐと、
そのままスタスタと観覧車に向かい出した。

「うあっ!お、おいリンダ!何すんだよっ!下ろせッて!」
「うるせぇ。黙って担がれていろ。」

俺は御輿かっつーの!!

つーか、そんなに細くもねぇ、ふっつーの一般体格の俺をこうも軽々と。
…何か同じ男として、ちょっと複雑だ。正直な話。


顔を上げると、阪東とヒロミもちゃんと付いてきていた。

でも、阪東はまだ観覧車を渋っている様で、
苦笑いのヒロミが、そんな阪東の腕を引いて歩いていた。

何を話しているのかは、遠くて聞こえねーけど。
阪東が何か話すたびに、ヒロミの表情が崩れる。

あれ?ヒロミって、あんなに楽しそうに笑うヤツだったっけ?

そう思った所で、ようやくストンと地上に下ろされて。
そして、あれよあれよという間にゴンドラに押し込まれてしまった。



**********************



切り取られた窓から地上を見ていたら、
ヒロミ達が何個か下のゴンドラに乗り込む姿が見えた。

ゆっくりゆっくり、更に空へと近付いていく。
この時間帯のせいか、あまり人は残っていないようだ。

地上を眺めるのに飽きた俺は、
真向かいに座るリンダの足をコツンと小突いた。

「…何だ?」
「べっつにー。」

目的も意図も無く、ただコツコツと小突き、暇を弄ぶ。
それを察したらしいリンダは、俺の好きにさせた。

ああ、そういえば腹減ったなー…。

「なぁ、今夜のメシ、何?」
「…何だ?ウチに来るつもりだったのか?」

きょとんと目を丸めるリンダに、ハッと我に返った。

リンダに甘える様な言葉を口走った事で、一気に恥ずかしくなる。
な、何か俺が期待してたみたいになってるじゃないかっ!!

「…っ…!そ、そんなんじゃねぇよっ!!!」
「ふーん…。」
「何でもねぇってば!」
「はいはい。」

こっちは否定してるのに、クツクツと肩を揺らすばかり。
くっそー。いつもガキ扱いしやがって。リンダのバカ…。

赤くなりだした頬を隠す為に、
俺は再度、外へと目線を向けることにした。


「…おっ。」
「ん?」
「あそこのカップルすっげぇ!チューとかしだすんじゃねぇ!?」

夕暮れも近づきだした、この時間帯だと観覧車の客の大半はカップルだ。
(…ま、まぁ俺とリンダもそんなモノと言えばそんなモノだけど。)
もう暗黙の了解なのか、はたまた二人の世界で気付いていないのか。
上も下も、なかなか恥ずかしい事になっている。

「おっ!?頑張れ男!いけっ!いけっ!」
「…覗きなんて、相変わらずいい趣味してるな。」
「うっせぇな!見えるんだからしょうがねぇだろ!?」

分かってはいるけれど、ついつい見てしまうのがヒトってモンで。
俺は、すっかり別のゴンドラのカップルの行く末に夢中になっていた。


カシャン!


…ん?
突然聞こえた、何かが落ちた様な音に思わず振り返る。

見れば、ゴンドラの床にリンダのサングラスが転がっていた。

「あ…落ちたぞ?」
「落とした。」
「へ?」
「拾え。」
「はぁああ???」

テメェ、明らかにわざと落としてるじゃねぇかよ!
意味不明なリンダの行動に、考えあぐねる。

「つーか、何、命令してンだよ!俺はテメェの奴隷じゃねぇっつーの!」
「グダグダ言ってねぇで、拾え。ほら。」
「あぁ??あんだよ!これ位テメェで拾えってーの!!」

ブツクサ言いながらも、サングラスを拾おうと俺は身体をかがめた。




すると大きな手が頭の後ろを掴んできて。



でもって、いつのまにか同じ位の位置にあったリンダに、

口唇をやんわりと吸い込まれた。




「はっ…恥ずかしいやつ……。」
「あぁ、そうだな。」
「…そんなに俺にキスしたかったのかな?メグミちゃんは。」
「そうだ。」


うっ…!!

つ、つーかイヤミ言った俺の方が動揺してどうする!!!!
照れもせず、サラリと恥ずかしい事を宣うリンダに心臓がドコドコと煩い。

外から見えない様に、わざわざあんな小細工までして。
ったく…余計恥ずかしいっつーの…。

今になって、口唇にリンダの感触が沸々と蘇ってきた。
意外と…やわらけーんだよな…アイツの…。

うわぁああっ!!何考えてンだ!?俺はっ!!
へ…平常心、平常心だっ。俺っ!


「アハハ、な、何だそれ…オメェ、俺にベタ惚れじゃねぇか。」
「何だ?知らなかったのか?」
「へ…っ?」


こ、肯定してきやがるし…!!!

落ち着かせようと必死になっていた心臓は、
平常心どころか、どんどん忙しなくなっていく。

リンダはやっぱり余裕そうに笑っていて。
俺は、この情けなく火照る頬を必死に隠してばっかりで。



や、嬉しいけど…めちゃくちゃ嬉しいんだけど。

タイミングとか、少しは気を使えってーの…。



オメェにそんな事言われたら。

ほら見ろ、俺はこんなにブッ壊れちまうんだよ…。



「で?今日のメシは何がいいんだ?」
「え?」
「ウチ来るんだろ?お前が好きなモン作ってやる。」
「ーーーーっ!?」


も、も…もういやだああああっ!!!!

突然、甘やかしモードに入られて、頭が混乱し始める。

リンダに甘やかされる事が、恥ずかしくて、恥ずかしくて。
優しくされる度に胸が苦しくなって、心臓が何度も止まりそうになる。

や…た、確かに先にコクってきたのはテメェだけどよ!
いっつも、そんな素振りちっとも見せねぇじゃねぇか!!
何で今、そんな事言うんだよ!!ああ、早く地上に戻りたいっっ!!



しかし、観覧車はまだ半周近くも残っていて。

俺は、一気に、このノロマな密室が恨めしくなった。


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