SS.CROSS ROAD ♯1
□4U 前編
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SIDE HIROMI-------------------------
事の発端は、リンダマンからの電話だった。
春道とリンダマンが、いい仲になって数ヶ月。
その流れで、俺もリンダマンと大分打ち解けてきていた。
今となっては、こうやって、電話を掛け合う程になっていて。
しかし、リンダマンから遊園地に誘われた時は、真剣に耳を疑った。
「ゆ、遊園地って…!?」
あからさまに狼狽えたら、向こうが春道の発案という事を伝えてきた。
ああ。なるほど。それで、ようやく合点がいった。
「それなら、二人で行けばいいじゃねぇか。俺が居ると邪魔だろ?」
『この煩いのが、大勢がいいんだとよ。』
リンダマンがそう言うと、電話の奥で、
何だとコノヤロー!!と、春道のギャアギャア喚く声が聞こえてきた。
…何だ、一緒に居るのか。相変わらず仲良しなこったな。
「あぁ、分かったよ。じゃあポンとマコも誘って…」
『…おい、桐島。“俺が”わざわざ電話してきてんだぜ?』
「ん…?」
『フッ…案外、鈍いんだな?』
リンダマンの何かを含んだ様な言葉に、思考を巡らせる。
そういえば、そうだ。そこに春道が居るのに、
何でリンダマンがわざわざ俺に電話してくるんだ…?
「どういう意味だ…?」
『アイツ、連れてこいよ。いい口実だろ?それだけだ。じゃあな。』
リンダマンはそう言い残して、一方的に電話を切ってしまった。
あぁ、成る程ね…確かにイイ口実だわ。
ったく…相変わらず面倒見のいい先輩だな。
俺は思わず、口唇に笑みを引いた。
いやでも頭にこびり付いている、絶賛片思い中のアイツの電話番号。
…さて、駄目もとで誘ってみますか。
俺はリンダマンの好意に、有難く甘えることにした。
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ジェットコースターのゴウ、と風を切る音と共に、舞い上がる黄色い歓声。
駅から歩いて、数分後。俺と例の“アイツ”…阪東は遊園地の前に立っていた。
そう、何の因果か、俺は数ヶ月前まで顔を見るのも嫌だったこの男、
阪東ヒデトに、惚れてしまっていたのだった。
自覚したのは、いつの日か。恋に堕ちる事に理由なんて無い。
同性相手という事で悩みもしたが、俺は何故か、不思議と、
阪東の事を諦めようという考えには行き着かなかった。
好きになって。欲しくなって。阪東にも俺を好きになって貰いたくて。
こんなエゴイスティックな感情を、一切曲げようとしないなんて。
何事に対しても、いつも一歩引いてしまっていたのに…。
俺にもこんな感情があるなんて、知らなかった。
上手く隠してきていたつもりだったのに。
リンダマンに、どうしてバレたのかは未だに謎だけど。
「まさか…お前の行きたい場所って…。」
「あぁ、ここだ。ほら、行こうぜ。」
俺は、目の前の光景に、ぽかんと呆気に取られる阪東の肩を叩いた。
遊園地の入場門の前で、リンダマンと春道の姿が見える。
静かに佇むリンダマンとは逆に、春道は嬉しくて仕方のないという感じで、
飛んだり跳ねたりしているのが遠目でも分かった。
あんなに浮かれて…春道のヤツ、よっぽど楽しみにしてたんだな。
そう思った途端、俺は横から胸ぐらを思いっきり掴み上げられた。
「ヒロミ、テメェ…俺をハメやがったな…。」
「何だよ。随分、人聞き悪いなぁ?」
「…何で俺を遊園地なんかに連れて来てんだよ!」
こめかみをヒクつかせた阪東が、俺に詰め寄ってくる。
無理も無いか、確かに行き先は伝えていなかったからな。
でも、阪東は俺の誘いを承諾して、こうやって来てくれた。
俺は、それだけでメチャクチャ嬉しかったんだ。
「え?あぁ〜…ま、いいじゃねぇか。たまには。一緒に童心に返ろうぜ。」
「よくねぇ!しかも春道やリンダも一緒なんて聞いてねぇぞ!!!」
「お〜!ヒロミ〜〜!!」
コチラに気付いた春道が、向こうから満面の笑みで走り寄ってきた。
見れば、金色に染め上げられている前髪は額にサラリと落ちていて、
それが、その表情を一層幼くしていた。
こう言うのも何だが、ここ最近の春道は可愛くなったと思う。
相変わらず、バカばっかやって破天荒なヤツだけど。
こういう、ちょっとした所でリンダマンの影響が出ている様な気がした。
「おおぉ、阪東!思いっきり遊園地が似合ってねぇな!」
「うるせぇっ!俺はヒロミに勝手に連れてこられたんだ!」
「何だよ、機嫌悪いなァ?もしかして、絶叫マシーン怖いのか?」
春道がニシシと意地の悪い笑みを浮かべて、阪東を挑発する。
「あぁ!?怖いわけねぇだろ!!俺は単車乗ってンだぜ!?」
「おお?じゃあ早く行こうぜ!時間が勿体ねぇからよ!」
「え?あっ、おい!」
そう言って、春道は阪東の腕を掴むと、
ズルズルと門の中へと引っ張っていってしまった。
何だよ、阪東のヤツ。文句垂れてた癖に思いっきり馴染んでるじゃねぇか。
まぁ、春道相手なら仕方ねーけどな…。
「やっぱりお前の誘いには乗ったな。」
「うあっ!?」
リンダマンが、いつの間にか横に立っていて俺は驚いてしまった。
春道は、阪東にこういう場所が似合ってねぇって言っていたけど。
一番似合ってないのはダントツで彼だと俺は思うんだが…。
「な…何がだよ?」
「上手くいってるじゃねぇか。」
「…藪から棒に何を言い出すんだよ。」
「いい事を教えてやろうか?」
ん…?いい事…?
リンダマンの出し惜しまれた言葉に、俺の興味は集中する。
「実は今日の事をお前に言う前に、先に阪東に声をかけた。」
リンダマンの口から出た事実に俺は思わず目を丸めた。
リンダマンは俺より先に阪東を誘っていたらしい。
と、いう事は…俺が阪東を誘ったのは、その後だ。
リンダマンの顔に浮かぶ意味深な笑みに、落ち着かなくなる。
「…ひでぇ話だ。俺の誘いは速攻で断ったんだぜ?アイツ。」
そう言って、リンダマンは薄く笑うと、入り口に向かって歩き出した。
阪東は、俺より先にかけられた、リンダマンの誘いを断った。
その後の…俺の誘いは……乗った。
残された俺は、リンダマンに教えて貰った事実を
頭の中で何度も何度も反芻する。
あーもう…可愛い事しやがって。阪東のヤツ。
ああ…ヤバイ。
当分、この緩んだ頬を隠すのに必死になる羽目になりそうだ。
沸々と、俺の中で決意めいた想いが産まれ始める。
今日は、まだ始まったばかり---------------。
END