SS.CROSS ROAD ♯1

□4U 前編
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SIDE HIROMI-------------------------

事の発端は、リンダマンからの電話だった。

春道とリンダマンが、いい仲になって数ヶ月。
その流れで、俺もリンダマンと大分打ち解けてきていた。

今となっては、こうやって、電話を掛け合う程になっていて。
しかし、リンダマンから遊園地に誘われた時は、真剣に耳を疑った。



「ゆ、遊園地って…!?」

あからさまに狼狽えたら、向こうが春道の発案という事を伝えてきた。
ああ。なるほど。それで、ようやく合点がいった。

「それなら、二人で行けばいいじゃねぇか。俺が居ると邪魔だろ?」
『この煩いのが、大勢がいいんだとよ。』

リンダマンがそう言うと、電話の奥で、
何だとコノヤロー!!と、春道のギャアギャア喚く声が聞こえてきた。

…何だ、一緒に居るのか。相変わらず仲良しなこったな。

「あぁ、分かったよ。じゃあポンとマコも誘って…」
『…おい、桐島。“俺が”わざわざ電話してきてんだぜ?』
「ん…?」
『フッ…案外、鈍いんだな?』

リンダマンの何かを含んだ様な言葉に、思考を巡らせる。
そういえば、そうだ。そこに春道が居るのに、
何でリンダマンがわざわざ俺に電話してくるんだ…?

「どういう意味だ…?」
『アイツ、連れてこいよ。いい口実だろ?それだけだ。じゃあな。』

リンダマンはそう言い残して、一方的に電話を切ってしまった。



あぁ、成る程ね…確かにイイ口実だわ。

ったく…相変わらず面倒見のいい先輩だな。
俺は思わず、口唇に笑みを引いた。

いやでも頭にこびり付いている、絶賛片思い中のアイツの電話番号。
…さて、駄目もとで誘ってみますか。
俺はリンダマンの好意に、有難く甘えることにした。



**********************


ジェットコースターのゴウ、と風を切る音と共に、舞い上がる黄色い歓声。
駅から歩いて、数分後。俺と例の“アイツ”…阪東は遊園地の前に立っていた。


そう、何の因果か、俺は数ヶ月前まで顔を見るのも嫌だったこの男、
阪東ヒデトに、惚れてしまっていたのだった。

自覚したのは、いつの日か。恋に堕ちる事に理由なんて無い。
同性相手という事で悩みもしたが、俺は何故か、不思議と、
阪東の事を諦めようという考えには行き着かなかった。

好きになって。欲しくなって。阪東にも俺を好きになって貰いたくて。
こんなエゴイスティックな感情を、一切曲げようとしないなんて。
何事に対しても、いつも一歩引いてしまっていたのに…。
俺にもこんな感情があるなんて、知らなかった。

上手く隠してきていたつもりだったのに。
リンダマンに、どうしてバレたのかは未だに謎だけど。


「まさか…お前の行きたい場所って…。」
「あぁ、ここだ。ほら、行こうぜ。」

俺は、目の前の光景に、ぽかんと呆気に取られる阪東の肩を叩いた。

遊園地の入場門の前で、リンダマンと春道の姿が見える。
静かに佇むリンダマンとは逆に、春道は嬉しくて仕方のないという感じで、
飛んだり跳ねたりしているのが遠目でも分かった。

あんなに浮かれて…春道のヤツ、よっぽど楽しみにしてたんだな。
そう思った途端、俺は横から胸ぐらを思いっきり掴み上げられた。

「ヒロミ、テメェ…俺をハメやがったな…。」
「何だよ。随分、人聞き悪いなぁ?」
「…何で俺を遊園地なんかに連れて来てんだよ!」

こめかみをヒクつかせた阪東が、俺に詰め寄ってくる。
無理も無いか、確かに行き先は伝えていなかったからな。

でも、阪東は俺の誘いを承諾して、こうやって来てくれた。
俺は、それだけでメチャクチャ嬉しかったんだ。

「え?あぁ〜…ま、いいじゃねぇか。たまには。一緒に童心に返ろうぜ。」
「よくねぇ!しかも春道やリンダも一緒なんて聞いてねぇぞ!!!」
「お〜!ヒロミ〜〜!!」

コチラに気付いた春道が、向こうから満面の笑みで走り寄ってきた。
見れば、金色に染め上げられている前髪は額にサラリと落ちていて、
それが、その表情を一層幼くしていた。

こう言うのも何だが、ここ最近の春道は可愛くなったと思う。
相変わらず、バカばっかやって破天荒なヤツだけど。
こういう、ちょっとした所でリンダマンの影響が出ている様な気がした。

「おおぉ、阪東!思いっきり遊園地が似合ってねぇな!」
「うるせぇっ!俺はヒロミに勝手に連れてこられたんだ!」
「何だよ、機嫌悪いなァ?もしかして、絶叫マシーン怖いのか?」

春道がニシシと意地の悪い笑みを浮かべて、阪東を挑発する。

「あぁ!?怖いわけねぇだろ!!俺は単車乗ってンだぜ!?」
「おお?じゃあ早く行こうぜ!時間が勿体ねぇからよ!」
「え?あっ、おい!」

そう言って、春道は阪東の腕を掴むと、
ズルズルと門の中へと引っ張っていってしまった。

何だよ、阪東のヤツ。文句垂れてた癖に思いっきり馴染んでるじゃねぇか。
まぁ、春道相手なら仕方ねーけどな…。

「やっぱりお前の誘いには乗ったな。」
「うあっ!?」

リンダマンが、いつの間にか横に立っていて俺は驚いてしまった。

春道は、阪東にこういう場所が似合ってねぇって言っていたけど。
一番似合ってないのはダントツで彼だと俺は思うんだが…。

「な…何がだよ?」
「上手くいってるじゃねぇか。」
「…藪から棒に何を言い出すんだよ。」
「いい事を教えてやろうか?」

ん…?いい事…?
リンダマンの出し惜しまれた言葉に、俺の興味は集中する。

「実は今日の事をお前に言う前に、先に阪東に声をかけた。」

リンダマンの口から出た事実に俺は思わず目を丸めた。

リンダマンは俺より先に阪東を誘っていたらしい。
と、いう事は…俺が阪東を誘ったのは、その後だ。
リンダマンの顔に浮かぶ意味深な笑みに、落ち着かなくなる。


「…ひでぇ話だ。俺の誘いは速攻で断ったんだぜ?アイツ。」

そう言って、リンダマンは薄く笑うと、入り口に向かって歩き出した。



阪東は、俺より先にかけられた、リンダマンの誘いを断った。
その後の…俺の誘いは……乗った。

残された俺は、リンダマンに教えて貰った事実を
頭の中で何度も何度も反芻する。



あーもう…可愛い事しやがって。阪東のヤツ。


ああ…ヤバイ。
当分、この緩んだ頬を隠すのに必死になる羽目になりそうだ。


沸々と、俺の中で決意めいた想いが産まれ始める。
今日は、まだ始まったばかり---------------。


END
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