SS.Rock'n Roll ♯1

□ツネヒゴロ Vol.4【頑張れ常吉編】
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※性的な表現が含まれます。自己責任で。

おっす!俺はG・H・D・T!
グレイド・ハイパー・ドラマー・常吉だ!!宜しくな!

『音楽で食っていきたい。』

それを目標に上京して、俺は阪東達のバンドを紹介して貰った。
当時、ヒロミと阪東は『ヤバイ』と専らの噂で、評判は最悪。
だが俺らは意気投合し、このバンドで世に出るべく日々共に音を鳴らし続けていた。

実力があり、音楽性の合致した仲間達。
ライブの動員数も徐々に増え、俺は充実した毎日を送っていた。

…しかし、悩みの無いニンゲンなんてこの世には無いわけで。


**********************


「…おい、テメェらいい加減にしろよ。」

ここはヒロミと阪東の自宅。

しかし、俺はその家主達を雁首揃えて正座させ、
それを仁王立ちで見下ろしたまま、怒りでこめかみをヒクつかせていた。

「つーか、ヒロミ!何で俺がこんなに怒っているか分かっているかネ?」
「えっ!?俺?…えーっと…。」

俺に名指しされたヒロミは、宙に目線を泳がせながら思案を巡らせる。

「…ははっ、わっかんねぇ。」
「ベースがまたテメェらのせいで逃げたからだろうがぁぁぁっっ!!!」

ちっとも悪びれた様子が無いヒロミに、俺は遠慮なく堪忍袋の緒をブチリと切った。
それでようやく、ヒロミにも罪悪感が出たらしく申し訳なさそうに首を竦める。
その横で阪東が『バカ』と、ヒロミを小突いた。


…そう。俺の悩みとは、とにかくこのバンドに入ったベースが続かない事。
今まで何人も新メンバーとして加入したが、早い奴は3日程で消えてしまう始末なのだ。


ひとくくりにベースと言っても、弾くのは人間。
十人十色という言葉があるように、人それぞれ弾くときの癖や音の特徴がある。
その癖や特徴と合わせる、という事がどれだけ神経を使う事か。
つまり、ベースが変わる度に俺はその埋め合わせを余儀なくされているのだ。

根性無い連中は、大抵加入前に叩き落とされる。
だから、ウチに加入できた時点で音楽技術には問題は無いと見ていい。
それなのに何故だ?何故ウチのバンドはベースが続かない?

そこで、これまでのベース脱退の経緯を思い起こし、
原因を一つひとつ明確にしていったら、とある考えに当たった。
もしやヒロミと阪東の恋仲が原因ではないか、と…。

元々俺は、その類に理解があるというか…。
つーか、そもそも。奴らは『男』が好きなわけじゃなくて、
好きになった相手がたまたま男だっただけで。
恋愛は自由だしなーと、思って。俺は普通に接していた。

別にホモだからってダチには変わらないし。
涼とか、木場とか。そういうのが周りに居たもんだから、
俺は変に免疫が付いちまっていて気付けなかったのだが。


じゃあ、ダチじゃない連中がホモを見たらどう思う…?


そう。その事に俺はようやく気付いたのだった。
同じバンドのメンバーが恋仲だ、とか。同じ男としてはやっぱビビるよなー。
いくらヒロミと阪東が無差別な男好きじゃないと言っても、
一般論で、ホモを理解しろというのが無理な話だ。
あーもー何でこんな大事な事に気付かなかったんだよー!俺の馬鹿ちん馬鹿ちん!!

その事に気付いた俺は、それ以来、頑なにヒロミと阪東の事を隠し通していた。
隠す、というか。もっと信頼関係を築いてからカムアウトすればいい話であって。
最初っからヒロミと阪東の関係を教える事も無いだろう、と。
新メンバーを迎える度に頑張っていたんだ。俺は。


でも…。残念な事に非協力的な輩が居るわけですよ。ここに。


「ヒロミ。今日はミーティングって事で、集まったんだよな?」
「はい。そうです。」
「で、俺たちに泊まっていけっつったな?このワンルームに。」
「はい。そうです。」
「俺と織田が、同じ部屋に居たな?」
「…で、でもよ…佐々木ン時みたいに一緒のベッドでは寝なかったぜ?」

あ、織田っつーのはついさっきまでメンバーだった奴の名前な…。
ついでに佐々木ってーのは織田の前に居たベースで…あぁ、何かもう悲しくなってきた。

「あぁ…一緒にベッドに入らなかった事は誉めてやるよ。」
「だろだろっ?」

俺の『誉める』に、ぱっと表情を明るくしたヒロミを俺はギッと睨んで制した。


「俺が怒ってンのはソコじゃねぇええええええ!!!」


そう、この一件の問題点は『その後の二人』。
つまり…ヒロミの行動なのだ。


皆で泊まる事となり、ジャンケンで勝った俺はベッドを使わせて貰う事となった。
残りの面々はそれぞれ床の上で毛布にくるまり、眠りについた…はずだった。

だが…この馬鹿野郎どもは何をトチ狂ったのか。
俺らが居るにもかかわらず。…何と、その場でおっ始めやがったのだった。

この事の発端は、確実にヒロミだろう。阪東からというのは考えがたい。
むしろ阪東自身には「隠そう」という意志は元々あるのだ。
ただ…その隠し方がド下手くそなだけであって。

思うに、自他共に認めるサドのヒロミにとって。
横で眠る俺たちなんて、いかがわしいプレイの一環だったのだろう。

そう、きっと…。



『ほら…声ちゃんと我慢しないと皆が起きちゃうよ?リーダー…?』
『っ、テメ…っ…わざと、…っ…!!』
『人聞き悪いなぁ…?わざとならコレくらいするっつーの。』
『くぅんっ…!??んぐっ、んふぅっ…くぅうぅっ…!!』
『ふふ、相変わらず可愛い声出すよね…?もっと虐めたくなっちまう…。』
『!!?…んくっ、うんっ、んうぅーーっ!!!』



…想像が付きすぎる。

そして。どうやら、そのワ〜オな現場をどうやら目撃してしまったらしい織田は、
盛り上がっていたヒロミ達の隙を見て俺を起こし、脱退を告げ、
そのまま夜の闇へと消えてしまったのだった。

「ヤるなとは言わねぇ!だがな、TPOはちゃんとわきまえろっ!!」
「な、なっ…○△×□☆◎!!!????///」
「あれ?何だ、バレてたの?」

サラリと流すヒロミとは対照的に、阪東はこれでもかと言わんばかりに目を見開いた。
予想的中。…やっぱり、ヒロミから手を出したんだな。

「だーーかーーら織田が消えたんだろうがあああっっっ!!!」
「だってー4日もヤってなかったんだぜ?そりゃ少し位手も出したく…」
「何ベラベラ喋っていやがんだバカッ!!」

ゴギンッ!!と鈍い音と共に、ヒロミの頭が前に倒れる。
おいおい阪東。今の、首いったんじゃねーか…?

「とにかく次のベースは絶対辞めさせねーからな!!テメェら協力しやがれっ!!」

そんな俺の、渾身の絶叫はこの部屋に木霊し、
痛みに悶絶するヒロミと、顔を真っ赤にした阪東は各々頷いたのだった。
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