SS.Rock'n Roll ♯1

□ツネヒゴロ Vol.2 【スィートパフェ編】
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あ。どうも。新メンバーの佐藤です。
昨日から、晴れてベースに就任しました。
みなさん、宜しくお願いします。

今日はファミレスで昼メシを兼ねたミーティングです。
ヒロミさんと阪東さん。俺とツネさんに別れて座りました。
俺の目の前は、ヒロミさんです。怖いという噂と違って、意外と優しい人でした。
とはいえ、やっぱり緊張してしまいます。
彼の凄惨な武勇伝は色々飛び交ってますからね…。

でも…特におっかないのは阪東さんです。
無口だし、常に不機嫌そうだし。ニコリともしません。
俺は、このバンドで本当にやっていけるのでしょうか…。

「ほら。佐藤、メニュー。これとか美味そうじゃねぇ?」
ガチガチに緊張している俺にツネさんが、話しかけてくれました。

ヒロミさんと阪東さんに比べて、ツネさんは話しやすい人です。
俺が最初に打ち解けたのも、このツネさんでした。
同じバンドのメンバーである俺が、こういうのも何ですが。
他の二人には、どうしても、まだ距離を置いてしまいます。

もうツネさんがいないと、俺はもう怖くて怖くて…!!!

…で、でも頑張ってビッグになります!!みなさん、応援してくださいね!!



**********************



「あ〜腹減った〜。俺チキン南蛮定食〜。お前らどうする?」
「ん〜…じゃあ。俺、焼肉。」
「…………。」
「阪東どうした?まだ決めきれない?」

無言のままメニューを凝視する阪東さんをヒロミさんがヒョイと覗き込みます。

「もう、二個とも頼んじゃえば?」
「…二個も入るか、バカ。」
「いつも余裕でそれ位、食うじゃん。アンタ。」
「食ってねぇ。」
「もおおおお!!!俺は腹減ってんだああっ!呼ぶぞ!!」

ヒロミさんと阪東さんの攻防に、焦れたツネさんが、
呼び出しのインターホンをテントーンと叩きました。

ええ?いいんですか?ツネさん!阪東さん待たなくて!!
つーか、ヒロミさん…阪東さんに二個食えって…。
阪東さん、細いのに結構食べる人なんだ?そうは見えないけどなぁ。
一緒に暮らしているらしいし、割とそのへん熟知しているのかも。


教育の行き届いているウエイトレスは、すぐに駆けつけてきました。
ツネさんとヒロミさんと俺と。次々とメニューを言っていきます。

そして…とうとう阪東さんの番になってしました…。

「阪東〜決まったかぁ〜?」
「………。」

ツネさんが聞いても、阪東さんはまだメニューをにらめっこしています。
やっぱり、まだ何にするか、決めきれていない様です。
ウエイトレスのお姉ちゃんも不安そうな面もちで待っています。

「メシは何にするの?」
「…鮭定食。」
「鮭定食、ひとつ。」

ヒロミさんが、阪東さんの代わりにオーダーを通しました。
え?鮭定食??食うモノ、決まってるんじゃないですか。

一体何をそんなに迷っているんだ…???

「で?何と何で迷っているの?」
「フルーツパフェか、…抹茶パフェ。」


は…はい…?フルーツパフェか…抹茶パフェ…?


まさか…デ、デザートを迷っていたんですかっっ!???
しかもいつも二個くらい平気で食うんですか!???


ばっ…阪東さんがっ…?あの、阪東さんがっっ!?????


「ひゃははは!本当見かけによらず甘党だよなぁ〜阪東は。」
「じゃあ、俺が勝ったらフルーツな。佐藤、はいジャ〜ンケン。」
「え、えええっ!?」

ヒロミさんにいきなりジャンケンを振られて、
俺は、慌ててパーを出しました。

ヒロミさんはチョキ。ヒロミさんの勝ちです。

「じゃ、フルーツパフェで。」
「あっ…かしこまりましたっ…!お食事の後で宜しかったでしょうか!」
「うん。…ごめんな?待たせて。」

ヒロミさんのニコッとした笑顔に、ウエイトレスは頬を染めて離れていきました。

ヒロミさんは、かっこいいし、優しいから、女性にとてもモテます。
でも、男相手には、とことん容赦無いという話なので、
俺は、まだやっぱりビビッているんですが…。

そして…これは俺の気のせいでしょうか。
阪東さんの顔がいつにも増して怖くなっているのは…!!!
や、やっぱり…やっぱり抹茶が良かったんでしょうかっ…!!!

「何だよヒロミ〜!ジャンケンは、いつも俺がしてやっているのに!」
「お前、最初絶対チョキ出すだろ?楽勝なんだよ。」
「ええ〜〜?そんな事ねぇって!!この前のパフェん時はグーだったぞ!」

阪東さん…以前も同じ様にデザートで迷っていたんですね…。
そして…その度ヒロミさんとツネさんに決めて貰っていたんですね…。

阪東さんのギャップに、痛くなりだした頭をぶんぶん振って、
俺は始まったミーティングに集中する事にしました。


**********************


「あ。阪東、この煮物食って。」

頼んだメシが来て、各々箸を付けだした時。
ヒロミさんが小鉢をコンと阪東さんのお盆に置きました。

「あぁ…?好き嫌いしてんじゃねぇ。」
「それ、味付け甘ぇんだよ。」
「ざけんな。食え。」
「無理。アンタが作ったものだったら食えるけど。」
「ちっ…面倒臭ぇヤツ…。」

ブツブツ文句を言いながらも、阪東さんは小鉢を返そうとはしませんでした。

つーか、阪東さん料理するんですね。
しかも煮物とか…そんな家庭的なモノ作られるんですね。

「阪東が料理って、意外だろ?佐藤。」
俺の頭の中を察したのか、ツネさんが話しかけてきました。

「そうですね。驚きました。」
「俺もビックリしたぜ〜?この、人殺してそうな男がだぜ?」
「…ぶっ殺すぞ、ツネ。」
「こいつらの家に泊まったらよ、朝メシ出てくるんだぜ?しかも3品おかず付きで!」
「おいっ!ツネ!聞いてんのかっ!」
「いや〜あのアサリの味噌汁には感動したなぁ〜。」

ツネさんは阪東さんの眼光に怯むことなく、話を続けます。
ツ、ツネさんって、やっぱすげぇ…!!!

「ヒロミなんてさぁ〜阪東のメシしか受け付けねぇんだぜ?なっ?」
「そうだなぁ。コイツのメシが一番美味ぇな。」

話を振られたヒロミさんは、穏やかに笑って同意しました。
すると、阪東さんは急に照れた様子で、鮭に箸を入れ始めました。

「ちっ…ベラベラと要らん事を…。」
「んだよぉ〜ヒロミに誉められて嬉しいくせ…いでっ!!」

ドガン、とテーブルに下で鈍い音がしたと思ったら、
その直後、ツネさんが身悶えました。足を蹴られたみたいです。

「テメェ阪東!痛ェじゃねぇか!!!」
「今度の新曲…16ビートのフル演奏をブチ込んでおいてやろうか…?」
「いいいっ!??勘弁してくれよ!」

そんな、ドラマーにとって鬼の様な脅しをかけた後、
阪東さんは涼しい顔で、味噌汁をずずっと啜りました。


**********************


空の食器を下げられて、阪東さんのデザートがやってきました。

「デザート、お持ちしました…。」
「サンキュ。あぁ、いいよ。重いでしょ?」

さっきのウエイトレスがマニュアル通りに、
片手でパフェグラスを持ち上げようとした所を、
そっと、ヒロミさんは受け取ってあげました。

「あ、すみません…!」
「いいえ。」
「あ、有難うございます。ごゆっくり!」

ウエイトレスは、足早に去っていきました。
な、何故でしょう…阪東さんの機嫌がまた急降下している様な…!!

「げっ、なんだ?そのパフェの量!」

ツネさんが驚きの声を上げました。
見れば、アイスクリームは大盛り。生クリームは5段巻き。
カラースプレーとコーンフレークびっしり振りかけられ、
フルーツ達は大ぶりに切られたものが鎮座しています。
確かに、明らかに見本より1.5倍のボリュームです。

「さては…あのウエイトレス!ヒロミにホレやがったな…!」

なるほど…。すげぇ…!ヒロミスマイル恐るべし…!!

しかし、バリバリのパンクロッカーの前に…パフェって…。
やっぱり…すげぇギャップがあります。

「よかったな、阪東。大盛りにしてくれたんだってよ。」
「………ちっ…。」

大盛りになったとはいえ、阪東さんの眉間のシワが取れていません。
どうして、ヒロミさんとウエイトレスが仲良くする度に、
阪東さんは、そんな怖い顔になるのでしょうか。
ツネさんに文句言っていた時との顔とは、
明らかに次元が違う、恐ろしい顔になっています。

右手だけでテーブルの上に出した状態で、
阪東さんは、何処かダルそうにパフェを食べ始めました。

その横でヒロミさんが、もぞりと動いてライターを取り出しました。
煙草に火を点けて煙を吐き出した後、ヒロミさんは少しだけ腰を浮かせて、
突然、右隣の阪東さんにピタリとくっつきました。




あ、れ…??な、何ですか、今の。
野郎同士で、くっつく必要ってありますか…?

二人の間に生まれた不穏な空気に、俺はちょっとした違和感を覚えました。
自然でしたが、その自然さが逆に俺には不自然に見えました。

あ、ちなみに俺、割と昔から勘がイイって言われるんです。
ほら、あるじゃないですか。クラスとかで秘密で付き合ってる連中とか。
そういうの気付くの、結構、俺得意だったんです。


付き合っている…連中とか…。



付き合って………?



あれ?何でしょう。何か…凄く…何か引っかかってくるんですが。




「ねぇ。リンゴ頂戴。」
「あぁ?」
「リンゴ。」

険しい顔でパフェを崩していく阪東さんに、ヒロミさんがリンゴをねだりました。
あぁ、もしかして。パフェのフルーツを貰う為に近付いたんですかね??
あぁ〜なるほど。まぁ、そんなにくっつかなくてもいいじゃないかと思いもしますが、
もしかしたら、一緒に暮らしている程の仲良しです。
割とそういう過度なボディランゲージも二人にとっては普通の事なのかもしれません。
男友達の家に泊まる時とか、一緒の布団に寝たりとかするもんな。うん。

「ったく…しょうがねぇな。」

阪東さんは山盛りのクリームに突き刺さった、
ウサギ型のリンゴをヒロミさんに差し出しました。

「…ほら。」
「あ、クリームは取ってよ。」
「ああ?ちょっとしか付いてねぇだろ。」
「俺、甘いの嫌い。」
「…ぶっ殺すぞテメェ。」

ヒロミさんの我が儘に、阪東さんの顔が一段と険しくなります。
ひえええええ!!こ、ここここ怖ええええええ!!!!!!!!!


しかし、怯えたのも束の間。


「……ぃっ!???」

俺は思わず声を上げそうになりました。


阪東さんがリンゴに付いているクリームを舐め取ったのです。

そして……。


「……ほら、これでいいだろ。」
「さんきゅー。」


ぱくり。


甘い部分が綺麗に取り除かれたリンゴを、
ヒロミさんは躊躇いもせずに食べました。


しかも…阪東さんの手から直接……。


ええええええええええええええ!!!??????


あっ、あのっ!あの、スミマセン皆さん!
え?あれ?うそ、こういうのって普通するもの?いやでも…。
あああっ、すみません!!動揺しすぎですね、いや、でも…!!!
俺は、完璧頭がパニくりだしました。


だって…舐めますか?普通!!!いくら嫌いだって言われたからって!!


そんな中、阪東さんの顔つきがピクリと動きました。
少しだけパフェのスプーンを持つ手が狼狽えた様に見えたのですが…。
その横で、ヒロミさんは涼しい顔でリンゴを囓っています。


カン!

「あっ…。」

動揺しすぎたせいか、俺はライターをうっかり床に落としてしまいました。

「…いけね。」

見れば、俺の足下にライターは落ちていました。





そして。そこで、見てしまったのです。





ヒロミさんと阪東さんが、テーブルの下で手を繋いでいる所をっっ!!!





見た光景があまりにも衝撃的すぎて、俺は一瞬動けなくなりました。



さっきの、阪東さんの動揺したのは…もしかして…!!!


ヒロミさんに…手を…握られた、か・ら…???




うぎゃああああああああああああああああ!!!




そんな時、ピリリリ…と、阪東さんのケータイが鳴り始めました。

「ライブハウスからだ。ヒロミ、どけ。」
「あ〜い。」

ヒロミさんが立ち上がって、奥に座っていた阪東さんを通しました。
阪東さんは、そのまま携帯を持って店の外へと出ていきました。

「あ。自販機発見。ちょっと煙草買ってくる。」

ヒロミさんも席を外しました。




逃げるなら…い、今しかない…!!!!!!


「ツ、ツネさんっっっ!!!!!」
「お?おう!?ど、どうした?佐藤。」
「すんません!俺っ…俺、脱けます!!!」
「え!?ええええーーーー!??」
「俺の代金…いや、もうココは奢らせて頂きます!失礼しますっっー!!」
「えええ?さ、佐藤!?一体どうした…、って!おぉーーーーい!!」

ツネさんの呼ぶ声を振り切って、
俺は「ツリはいらねぇ!」とレジに樋□一葉を置いて、外に飛び出しました。


だって…だって…!!!!彼らは…彼らはっっっ!!!




**********************




「おい、佐藤どうしたんだ?かなり慌てて外に出ていったが…。」
「あれ?ツネ、佐藤何処行ったの?」

「もおおおぉぉぉっ!!またメンバー逃げちゃったじゃねぇかあああ!」


END
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