SS.PARALLEL ♯2
□ひそやかな俺達のデジャヴ〜Episode 7
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※この作品は完全パラレルです。自己責任で。
※Episode 1から順にお読み下さい。
夜になり、二人で夕食をすませた後。
ヒロミが「泊まっていけ」と言い出した時は流石に頭を抱えた。
しかし、しつこく引き下がってくるヒロミをあしらう事や、
今日一日で起こった出来事…とにかく色んなものに疲れていた俺は、
再び桐島家で朝を迎える事を了承してしまった。
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「おら、風呂湧いたぞ。入れ。」
朝と同じく、風呂の準備をしてやりヒロミを促す。
ヒロミは脱衣所へ。俺はリビングへ戻ろうと。
そのすれ違い様に、突然ヒロミがガシリと腕を掴んできた。
「…何だよ。」
「一緒に入ろうよ。」
「ーーーーっ!!???」
ヒロミのとんでもない言葉に俺は倒れそうになった。
「ふっ、ふざけんな!!な、なななな何で俺がテメェと…」
「??…何をそんなに慌ててんの?」
俺の過ぎた動揺に、ヒロミの目が丸く開いた。
あ…そ、そっか。コイツはヒロミだが、ヒロミじゃないんだった。
つい、いつもの下心のある誘いかと要らぬ勘違いをしてしまった。
「な、何でもねぇよ。つーか、何だよ急に。そんなガキじゃねぇだろ。」
「…け、怪我してて……。」
「あぁ?今朝は一人で入れたじゃねぇか。」
「………。」
俺の尤もな指摘に、ヒロミは俺の腕を掴んだまま、
居心地悪そうに黙って、俯いてしまった。
その反応に、俺は訝しげに眉を寄せた。
コイツ、何か企んでいやがったな…でも何をだ?
俺の事でも探ろうとでもしたのだろうか…。
…いや、でもそれなら、俺が一人で風呂に入っている内に、
持ち物を探った方が断然イイに決まっている。
「…何だ?他の目的でもあったのか?」
わざわざ断られた時の理由まで用意して…何なんだ。
ガキのヒロミの回りくどさに、俺は面倒くさく言葉を投げた。
「今朝…居なくなったから。」
「あ?」
「風呂入ってる間に居なくなったから…だから…。」
どうやらヒロミはまた俺が自分が入浴中の隙を狙い、
また出ていってしまうのかもと、疑っていたらしい。
俺に出ていって欲しくないという思いから、
目が届く様に、今の申し出をしてきた、と………。
そこまで整理した所で、顔の温度がガッと一気に上がった。
……もう…もう嫌だコイツ……!!!
俺は口元を掌で押さえ、熱を持ち始めた頬を慌てて隠した。
コイツと会話してると、いちいち心臓がもたねぇ…!
「…やっぱ行く気だったんだ。」
ヒロミの声のトーンが頼りなくなる。
黙ってしまった俺を、肯定の返事を受け取ったらしい。
「なっ…ち、違う!勘違いすんな!」
「どうかな。アンタ前科1犯だしな。」
「あ、あの時は…その…わ、悪かったよ…。」
罪悪感が全く無かったわけじゃなかった俺は、
ヒロミの責める様な言葉に思わず謝罪していた。
その事にハッと気付いたのは、ヒロミが意外そうに目を丸めたから。
「な…なんだよ。」
「アンタ、見かけによらずそういうの義理堅かったりす…いってぇ!!」
「煩ぇ!一言多いんだよ!」
俺の拳骨をモロに喰らったヒロミが涙目で苦悶する。
その隙を狙って俺は腕を振り解き、そのままヒロミを脱衣所に蹴り入れた。
「あっ、ちょっと!」
「出て行かねーから早く入りやがれ!!」
「マジで?命かけて?」
「しつけーんだよクソガキ!行かねぇっつったら行かねぇよっ!!」
俺の言葉を聞いたヒロミの、綻ぶ表情を見ない様に。
俺は、脱衣所の扉を乱暴にバタンと閉めてやった。
…さて。
まだ心臓は煩かったが、気を取り直して。
俺にはヒロミが風呂に入っている間にやる事があった。
ここまで懸命に身分をひた隠しにしてきたのが水の泡にならないように。
俺は財布を取り出すと、金や自分の身分を明かすものを抜き取った。
一晩泊まる以上、俺が寝ている間にヒロミが探る可能性がある。
まだガキとはいえ、ヒロミはヒロミだ。念には念を、だ。
取り敢えず今晩だけ誤魔化せればいい。
アイツとは明日の朝まで、だからな。
俺はそれらを袋に詰め、ヒロミの目が届かない場所にそっと隠した。
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入れ替わりで俺も風呂に入り、寝間着として借りたヒロミの服に腕を通した。
サイズは若干小さかったが、着られない事は無かった。
部屋の照明が落とされる。
「おやすみ。」
「あぁ…。」
クシャクシャと、ヒロミがベッドに潜り込む音を背に、
部屋には、しんとした静寂が訪れた。
…疲れた。
寝るだけ、となったら急に今日一日の疲労が襲ってきた。
俺の寝る場所はやっぱりというか、ヒロミの部屋だった。
…勿論、その寝床の指定者はヒロミだ。
ベッドを薦められたが、俺は断って床に敷かれた布団に潜り込んだ。
…そのベッドで眠れるわけがない。
そのベッドには、昔、色々世話になったからな。
当時若かった俺たちは、親の目を盗んでは身体を重ね合った。
主にその、…ヒロミのベッドで。
優しくされたり、酷くされたり。
ヒロミの熱に、俺は何も考えられなくて…。
そういやヒロミと初めてヤったのもこんな状況だった。
ヒロミの家に行って、泊まれと言われて、そして…。
「……!!」
迂闊にもヒロミとの初を思い出してしまい、
思わず、恥ずかしさに布団を鼻まで上げた。
ヒロミ…きっと心配している。…早く戻って安心させたい。
まさか公園が無くなっているなんて。俺はどうやって帰ればいいのだろう。
暗い部屋が、不安や心細さがふつふつと胸を淀ませていく。
俺は思わず布団の中で、ヒロミから貰ったリングを拳ごと抱き締めた。
こんな時は…ヒロミに抱き締められたい、とか。
いっそ、この横の男が5年分ばばっと成長しないだろうか、とか。
…そんな事まで考えだすなんて。
よっぽど切羽詰まっているらしい自分に俺は溜息をついた。
そういえば…コイツが追いかけてきたのも誤算だったな。
何でこんなに…このヒロミは俺を側に置こうとしたのだろう…。
元の世界に戻れるのか、とか。このヒロミの俺に対する固執とか。
もう考える事が多すぎて…何か面倒くさくなってきた。
考えるのはもうやめだ。今日は何も考えずに寝てしまおう…。
そう思った時、隣の気配がもぞりと動いた。
ヒロミ…?
背中を向けている為、音だけの判断だったが。
ヒロミは起きあがると、そのままベッドを降りた。
トイレか?
…しかし、扉が開く音がしない。
何だ?とベッドから降りたまま動かないヒロミの気配を訝しげに思いつつ、
狸寝入りが悟られない様に、息を潜めた。
…!??
俺は驚きで思わず目を見開いた。
ヒロミは何を思ったのか、俺の布団に潜り込んできたのだった。
俺は、戸惑いで思わず身体が不自然に反応しかけたのをぐっと堪えた。
何だ?何だ?つーか、何でだ?
ま、ままままさか夜這い?
いや、待てコイツはまだガキだ。落ち着け!俺の頭!!
思わぬ思考に飛んだ自分を心の中で叱咤する。
ヒロミの行動を考えあぐねていたら、次は背中から抱き締められた。
「ーーーーーーー!!!」
思わず叫びそうになった。
ヒロミは布団に潜ってきただけでなく、
まるで枕を抱く様に俺の身体を抱きしめてきたのだった。
そして、その回された掌に手を包み込まれた。
俺の知ってるものより…随分小さな手だった。
背中に感じるヒロミの気配にドッドッと心臓が早鐘を打ち始める。
こんな静かな部屋の中で、こんな大きな音をたてて、
後ろのヒロミに聞こえるんじゃないかと、俺は気が気で無かった。
何の嫌がらせだ、とヒロミの意図を考察していたら、
聞こえてきたのは、すぅ…と落ち着いた寝息。
ま、まさか…このまま寝るつもり、か?コイツ…。
何故か俺に懐いている、背後の子ども。
ヒロミ…一体、何なんだよお前はよ…。
身体も手も、小さく頼りないガキのもので。
でも、包みこむ体温は恋しくて堪らなかったヒロミと同じもので…。
そうだよな…こいつも一応ヒロミなんだよ、な…。
そう意識した途端に、更に煩くなった心拍数を誤魔化しながら、
俺は、頭の中で羊を何匹も何匹も数えたのだった。
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