SS.PARALLEL ♯2

□ひそやかな俺達のデジャヴ〜Episode 6
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※この作品は完全パラレルです。自己責任で。
※Episode 1から順にお読み下さい。


たった一人の、ガキの手によって。
俺は、振り出しに戻されてしまった。


一緒に居たい、とか。


…コッチの都合も知らないで。



**********************



振り出しに戻っちまったな…。


ほんの数時間前まで居た桐島家に結局戻った俺は、
ヒロミの傷の手当てをしてやっていた。


「ねぇ。いい加減に教えてよ。」
「…何を。」
「また、とぼけて…さっきからずっと言ってる。」

始まりの公園があったはずの、あの場所からの帰り道。
ヒロミは俺の名前をしつこく聞いてきていた。


…そんなモン、言える訳が無い。

来年になったら、嫌でもこの世界での俺と出会い、
かなり派手な抗争をする事になっているのに。
とにかく未来が変わるかもしれないという不安要素があるものは答えられない。


「…誰だっていいだろ。」
「権兵衛はヤだっつったのアンタじゃん。」
「なら権兵衛。」
「…むかつく。」

俺の軽口に、ヒロミは心底面白くないと言わんばかりにむくれた。

俺がヒロミに口で勝っているなんて、不思議な感じだ。
アイツは口達者というか、頭の回転が速いから。
コッチの都合が悪い事は鋭く言及されて、
ヒロミの都合悪い事は上手く誤魔化されて。
言い合いでは殆ど勝てた事がない。


まぁこの歳の差で、勝ちも負けも無いがな…。


包帯を巻いたり湿布を貼ったり、身体の傷は全て手当した。
残りは左目瞼の、上の傷。

そこにガーゼを当てようとしたら、フイとヒロミの顔がそっぽを向いた。

「?…何だよ。」

そう問いかけても、むくれ顔のヒロミは何も応えない。
気を取り直し、回り込んで当てようとしたら、またかわされた。
幾度も挑むが、ひょいひょいとヒロミは首を振るばかり。

「おい、何なんだよ。」
「………。」

あぁ…なるほど。ヘソ曲げちまったのか。
俺は、はぁとわざとらしく溜息をついた。

こういった事はよくあった。
ヒロミは怒ったらまず黙るタイプだ。

大人だ、と周りから好評判らしいヒロミの、
ガキ臭さ満載の、重ねてとても鬱陶しい癖。


そんな態度を取れば、俺が機嫌取るとでも思ったのか。

…だがな、こちとらこんな状況は馴れてんだ。悪いな。


「…じゃあ、自分でやれ。」

テーブルにガーゼを乱暴に放り、その場から立とうと膝を立てる。
が、ヒロミから腕をガシッと掴まれ制された。

「何だよ。」
「………。」

しかし、当のむくれヒロミは目を逸らし、無言のまま。


…どうやら「やめるな」「行くな」と言う事らしい。


一体、何なんだよこのクソガキ…!!!!!
ふて腐れたと思ったら、甘えてきやがって!!
名前くらいでグチグチしてんじゃねぇよ面倒くせぇ!!

そんなヒロミの我が儘に、こめかみが一瞬ヒクついたが、
とっとと手当てを終わらせてしまおうと放ったガーゼを拾った。

「…名前、覚えてるんだろ?」
「知らん。」
「…………。」

頑なに口を割ろうとしない俺に、ヒロミは折れたらしく。
首をまっすぐと静止し、今度は素直に治療を受け入れ始めた。

「…手当て終わったら帰るとか言わないよね?」
「あぁ?ったく、いい加減にしろ。一体いつまで拘束するつもりだよ。」
「帰るの?」
「あぁ。」


そう答えた後、ヒロミが急に俺の腕を掴んできた。


「こら、邪魔すん…。」
「…なら手当てしなくていい。」
「はぁ?」

突然のヒロミの拒絶に、俺は首をかしげる。

「馬鹿言うな。そんなわけには…」
「だって終わったらアンタ帰っちまうんだろ…?」


………は?


ゆっくりと、俺の脳内でヒロミの行動と今の言葉の意味が合致されていく。



こっ…。



こ、こ、ここここいつ…!!!



ヒロミの鬱陶しい癖、その2。
こうやって自覚無しで、俺の弱みにつけ込んでくる事。

ったく、何で俺はこんなガキにさっきから狼狽えなきゃいけないんだ…!


「わ、わかったから手ェ離せ。すぐには帰らねーから。」
「本当?」
「あぁ。」

俺の承諾にヒロミの表情が軟らかくなった。
末恐ろしい奴。って、…もう行く末は知ってるか。

つーか、このヒロミが俺にこんなに固執するのかサッパリなんだが。
幾ら倒れた自分を面倒見たからって、何故こんなに構ってくるのだろうか。



ショキン、とテープを切り、手当てがようやく終わる。
テープを押さえ、指を離した所でヒロミが口を開いてきた。

「アクセサリー凄いね。」
「あ?」

思わぬ話題をふられて、つい間抜けな返事を返してしまった。

アクセサリーの類はいつも身につけている。
大抵、付けたら付けっぱなしなので、
何か付けておかないと逆に落ち着かない程だ。

耳、首、腕、指。
付けられる所には、何かで必ず装飾してある。

「好きなの?そういうの。」
「…まぁな。」
「ねぇ、一番のお気に入りってどれ?」

???…お気に入り?

そう聞かれて真っ先に浮かんだ品は、薬指のリングだった。
…上京後、ヒロミが俺の誕生日に買ってくれたものだ。

指輪なんて、と。恥ずかしい事この上無かったが。
こいつは何だかんだで、ずっとこの場所から動いていない。


ヒロミ…。


「その指輪なんだ?」
「っ、…!?」

指輪を見つめたまま、ついヒロミとの思い出に浸ってしまい、
無言でコイツに教えてしまう形になってしまった。

し、しまった。つい…!!

「大事な人から貰ったの?」
「…し、知らねぇよ!覚えてねぇ!」
「きっと貰ったものだよ。…それもアンタの事が好きな人から。」

ヒロミのそのものズバリな言葉に、思わず、ぐっと声が詰まる。

「な、何でそんな事お前に分かるんだよ。」
「だって、それがアンタに一番似合ってる。」

ヒロミの洞察力の鋭さに、俺は思わず息を呑んだ。
そんな俺に、ヒロミは少し得意気な顔を見せた。

「…その事、覚えてるんだね?」
「…!!」
「秘密ばっかだな、アンタ。」

不思議だ、と。自嘲気味にヒロミは小さく言った。

また“教えろ”だのギャアギャア騒ぐんじゃねぇかと気を揉んだが、
ヒロミは、それから何も俺については言及してこなかった。




怪我のせいか、何なのか。

ヒロミはその日学校に行こうせず。
俺の側から片時も離れようとしなかった。


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