SS.PARALLEL ♯2

□ひそやかな俺達のデジャヴ〜Episode 4
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※この作品は完全パラレルです。自己責任で。
※Episode 1から順にお読み下さい。



「…あんたも何か喰う?」

腹の虫を聞かれた照れからか、頬を赤く染めて、
ぶっきらぼうに早口でまくし立てるヒロミに、
噴き出しそうになるのを俺は必死に堪えた。

ヒロミっつっても、ガキはガキか。

俺の知っているヒロミは、基本的に頭が良くて、
春道とかに比べるとかなり落ち着いている男だった。
甘えや我が儘も見せる事も勿論あるが、
俺を真剣に困らせるような突発的な事は一切無かった。

…メシ位、作ってやるか。俺も腹が減ったし。
ここまで連れてきて、手当してやったんだ。
朝食くらいご馳走になっても罰は当たらないだろう。
そう考えた俺は、ヒロミの申し出を有難く受ける事にした。

「好き嫌い何かある?チャーハンでいい?」
「はあ?」

思わぬヒロミの言葉に思わず間抜けな声が出た。

い、今…こいつ自分で作る、みたいな事を言わなかった、か?

「何?朝っぱらからチャーハンは嫌?」
「い、いや…そうじゃなくって…お前料理出来たのか?」
「?…人並みになら。」
「っ、…!?」

俺はヒロミの言葉に驚きを隠せなかった。
あの野郎…料理は出来ないとかぬかしやがって…。

洗濯や掃除は分担で。気付いた者が、という感じだが、
炊事だけは基本的に俺の担当になっている。
あいつが俺の所に転がり込んできてから、それはずっと変わらない。

当初は炊事も分担にしようと、俺は掛け合ったのだが、
これだけはヒロミは頑なに俺にさせようとしてきた。
その時のヒロミの理由は確か「料理だけは苦手」だった。

器用で、何事もそつなくこなすヒロミにも、
苦手な分野ってあるんだと少しばかり驚いた記憶がある。

でも、何でヒロミは出来る癖に出来ないとか言いだしたんだ?
この様子を見ていれば、別に料理嫌いな風にも見えないが…。

しかし…まぁイイ事を聞いた。
現代に帰ったらどういう事かキッチリ説明して貰おうじゃないか。


こめかみに青筋を立てる俺をヒロミはきょとんと見つめていたが、
ごそごそと汚れた制服から、部屋着に着替え始めた。

「っ、…いっ、て…。」

着替えの度に軋む身体にヒロミが小さな悲鳴を上げる。
大人数で、よってたかってだったからな…痣も酷かったし。


「…俺が作ってやるよ。」

本来ならば、礼をされて然るべきなのだけれども。

青痣だらけの身体を見た俺の口からは、
そんな言葉が、自然とついて出ていた。



**********************



米を炊き、味噌汁を湧かし。
おかずを色々と作ってやろうと思ったが、一応人の家なので。
ちょっと控えめに材料を使い、俺はおかずを2品こしらえた。

2つとも、ヒロミが大好きなものだった。


「美味い…。」

俺のメシをひとくち喰ってから、ヒロミがぼそりと呟いた。

そりゃそうだ。お前の好みの味付けは叩き込まれているからな。
俺は半ば得意気に、メシをかっ込むヒロミを見ていた。
ヒロミは美味いの一言の後は、無言でもぐもぐと頬を膨らませている。
喰い方は昔から変わってねぇんだな…。

俺の知るヒロミに比べて、このヒロミはとても静かだ。

まぁ、そんな年頃なんだろうな。
俺もこれ位の頃はそんな率先的に人と話そうとはしていなかったし。

「…ねぇ。」
「ん?」
「まだある?おかず。」

ヒロミの、突然の強請りに俺は驚いた。

おかしいな。多めに作ったはずだけど。
ヒロミの量は大抵これ位で満腹になるはずなのに。
これが育ち盛りのガキの食欲って奴か?

「た、足りなかったか…?」
「いや…美味かったからもっと食べたいと思っただけ。」
「っ…。」

ぼそっと出された可愛い要求に、思わず胸がぎゅっと締め付けられる。
そんな子供っぽい素直な反応が妙にくすぐったかった。
しかし、残念ながら。コイツと俺ので、残りは無かった。

「あ…じゃ、じゃあ俺のをやるよ。」
「…なら、要らない。」
「??何でだよ?」
「アンタの分が無くなるじゃん。」
「いいんだよ俺の事は。ガキが遠慮するな。」

ほら、と俺は自分の皿をヒロミに差し出した。

「いいの?」
「あぁ。朝はあんまり喰わねぇんだよ。」

腹は減っていたが、何度も伺いを立ててくるヒロミに、
俺は気を使わせない様に振る舞ってやる。

何で礼を受けるはずの俺が白飯と味噌汁だけなんだと、この光景に苦笑しながらも。
俺を知らないはずのこのヒロミの要求が俺は何処か嬉しかった。


「…ありがと。」


そんな言葉と共に、ヒロミの表情がふわりと柔らかくなった。


っ…!!!
小さく笑みが浮かんだヒロミに、頬の温度が一気に上がる。

今まで生意気で無表情だった癖に。
不意打ちで、その顔は反則だろうお前…。
思わぬ破壊力に、心臓が忙しなくなってしまう。

俺は少しでも気持ちを落ち着けようと。白米を慌ててかっ込んだ。

「あんた、料理人なの?」
「…へっ?」

ヒロミに対する妙な緊張感に悪戦苦闘している最中に、
突然話しかけられた俺の語尾が思わず間抜けに上がった。

「そ、そんなんじゃねぇし…。」
「そうなんだ。こんな美味いモン作れるのに勿体ねぇの。」
「〜〜〜〜〜っ!!//////」

意識するな。意識するな。

しかし、そう思えば思うほど、
この中坊時代のヒロミが気になって仕方なくなる。

髪型が違うから、俺の中での今までのヒロミの印象は大分違うが。
これはこれで…悪くねぇな、とか思ったりして…。
と、いうか…うん。その、なんだ…。
…ガキの頃のヒロミはふとした表情がやっぱり幼くて。


……可愛い。


つ、つつつつつーか何をドキドキしているんだ俺は!!!
幾ら相手がヒロミだからとは言え、コイツはまだガキだぞ!!!

先程から胸を甘酸っぱくする衝動を、俺は必死にぐぐぐと堪えた。


「母さんも料理が上手かった。」
「あ…そ、そうか。」

「…先月出ていったけど。」


そんな言葉の後の虚ろいだ瞳に、俺は息が苦しくなった。

トーンは変わらなかったが、何処か寂しげに響いた声だった。
俺の頭には昨夜のヒロミが過ぎっていた。


「親父さんはどうした?」
「…出張。」
「あぁ、そう…か。」

親父さんが当分帰ってこない事を知って、俺は思わず安堵の息を吐いた。
流石の俺でも大人を誤魔化す程の気力や頭の回転を持ち合わせていない。
見つかったら、とっとと110番をダイヤルされて一巻の終わりだ。

「正体、聞いてもいい?」
「え?」
「アンタの正体。」

ヒロミが茶碗越しに目線を向けてきた。

そりゃそうだよな。俺はヒロミの事を知っていても、
ヒロミは俺の事を知らないんだよな。

…しかし、何て答える?
未来から来た、お前の恋人だとか正直に言えばいいのか?

「………。」

……良いわけが無い!!!!

俺に言い寄ってきたのはコイツからだが、
幾らなんでもそれはもっと先の話だ。

「もしかして記憶喪失?」

何て答える…?と頭の中でぐるぐるしていたら、
そんな俺の様子で推測したらしいヒロミが口を挟んできた。

……これだ!
思わぬ助け船に俺は思いっきり飛びついた。
この辺りの土地勘はある事だけを伝えて、後は口を噤む事にした。

メシを喰ったら兎に角、ここを離れる。

ここで俺が要らん事を言えば、映画や漫画の物語でありがちな
『未来が変わる』事もあり得るかもしれない。


ヒロミが…俺の恋人じゃなくなるかも…。

それだけは…絶対に嫌だ…。


「お前、それ喰ったら風呂入れよ。」

俺は簡単に食事をすませると、
ヒロミの食事が終わるまでの間に風呂を溜めてやる事にした。

…ヒロミが風呂に入っているその間に、ここを出ていく為に。

流石のヒロミも汚れたままなのが気になったのだろう。
俺の裏のある申し出を、何も思わずに承諾した。


台所を片付け、浴室の水音を確かめて。


…じゃあな、ヒロミ。


俺は、黙ってそっと桐島家を後にした。


END
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