SS.PARALLEL ♯2

□ひそやかな俺達のデジャヴ〜Episode 3
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※この作品は完全パラレルです。自己責任で。
※Episode 1から順にお読み下さい。



こんなに動揺していたら、ヒロミは俺に対して、
完璧に不信感を募らせてしまうだろう。

しかし、俺ですら状況がよく分かっていないのに。
巧い言い訳なんて思い付く訳もなかった。


**********************



「なぁ…俺、アンタに身に覚えねぇんだけど。」
「…………。」

ヒロミの目線がチクチクを痛い。
あぁ、クソ…何であの時、寝ちまったんだ俺は。


“母さん…”

ヒロミが、あんな事さえ言わなければ…。


…とは言っても、後の祭り。
俺の頭の中には「後悔」の文字がぐるぐると充満していた。


「まぁ、いいけど別に。テメェが何者でも俺には関係無ぇしな。泥棒なら取るモノ取って、出て行けよ。」
「…!?」


ヒロミが、ふらふらとベッドから降り、絶句する俺の横を通り過ぎる。

無気力な喋り方をする。
それが、俺の中坊時のヒロミに対する第一印象だった。
仮にも自分の知らない人間が鍵の開け、部屋に居るというのに…。
この態度は、何だというのだろう。


「…おいコラ。」
「ん?何?」
「知らねぇ奴が家ン中居て、何者でもイイってわけはねぇだろうが。お前一人なんだろ?ちったぁ危なくねぇように用心しろ。テメェが思っているより世の中はイイ奴ばっかりじゃ…」
「何だ、喋れるんじゃん。」

ヒロミのそのあっけらかんとした言葉に、俺は思わずウグと言葉を引っ込めた。

「は、話を聞け!!俺はな…」
「ああ〜〜わかったから。つーか取り敢えずアンタはその危ねー奴とかじゃねぇんだろ?」

ヒロミは俺の説教を面倒くさそうに遮ると、着替えの為かクローゼットを漁りだした。

思わぬ展開に俺は戸惑っていた。
ここまでの説明もしないないのに、ヒロミは何故か全く俺の事を警戒していないようだ。

「そ、そんなの分からねぇだろうが…。」
「何で?危ねぇ奴が赤の他人をわざわざ家まで運んで、手当なんかしないだろ?」
「俺が言っているのはそういう事じゃねぇよ。俺がどうの、じゃなくって…」

てっきり不審者扱いだと思っていたのに、こいつが賢いのは昔からだったのか…。

いや、でも。これとこれとは話が別だ。
部屋に上がり込んでいる俺が言うのは何だが。警戒心はあるに越した事は無い。

只でさえ、コイツは一人で大勢にフラフラ喧嘩売って、
こんな怪我してるんだから…。


ガタッ


「痛っ…てぇ…!!」
「!?…ヒロミ!?」

クローゼットの前でヒロミが脇腹を押さえて、その場にしゃがみ込んだ。
俺は慌てて膝を立てると、崩れ落ちたヒロミの身体を抱きかかえた。

骨は折れていないと思っていたが、もしかしたら素人判断だったか?
心配だから、やっぱり病院に連れて行こう。
成長期の怪我は後々何かと面倒になる……。


「…ほら、危なくねぇじゃん。お前。」


は?

苦痛に歪んでいた表情が、俺の目の前で一瞬で元に戻る。
けろりと元の無気力な表情に戻ったヒロミに、俺は呆気にとられた。


な…、な…ななな…!!!


「つーかさ、初対面でファーストネームとか馴れ馴れし…」
「てっ…てっ、てめぇヒロミ!!」

こんなガキにいっぱい喰わされた事が分かった俺は、
頭の中にある、とても短い導火線を一瞬で全て灰にした。

「痛ぇっ!ちょっ、何だよ!!」
「お前は…マジでいい加減にしろ!さっきから!」

俺はヒロミの胸ぐらを掴み上げた。
いい加減、我慢の限界だった。

「な、何だよ急に…。」
「俺がどれだけお前を心配したか分かってンのか!あぁっ!??」

鼻先が付くんじゃないかという程、顔を近づけて怒号を浴びせた。
そんな俺の剣幕に、流石にヒロミの顔にも戸惑いが浮かぶ。

相手は中坊だ、とか。ここは俺の住む世界じゃないのに、とか。
そんなモンは全部どっかに飛んで行っていた。

「め、ん…。」
「あぁっ!?」


「………ごめん…。」


急にしおらしくなったヒロミに我に返った俺は思わずパッと手を離した。
ヒロミの顔が、年相応にしょげている。

し、しまった…!つい…!!!


「…わ…分かればいいんだけどよ…。」
そんな煮え切らない言葉で、ヒロミを宥める。

ったく、ガキ相手に何をやってんだ俺は…。
勢いのまま掴みかかってしまった事に、俺は思わず自己嫌悪に陥った。

「…アンタ、変な人だね。」
「ん?……何か言ったか?」
「いや…。何も。」

聞き取れなかったヒロミの言葉に頭を捻りながらも、
俺はもういい加減この家を出ていこうと、考えていた。


そんな時だ。



ぐうぅっ…。



突如、聞こえた腹の虫。

腹を押さえて、居心地悪そうに目線を泳がすヒロミによって、
俺は更に桐島家に足止めを喰らう羽目になった。


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