SS.PARALLEL ♯2

□ひそやかな俺達のデジャヴ〜Episode 2
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※この作品は完全パラレルです。自己責任で。
※Episode 1から順にお読み下さい。



途方に暮れていた俺だったが、取り敢えずヒロミを家まで運ぶ事にした。

ヒロミの実家には、過去に何度か行った事がある。道も…勿論覚えている。
さっき、こいつの住所を確認したら、やはり見覚えのある住所だった。

ヒロミと同じ住所。ヒロミと同じ煙草の銘柄。そして、この学生証。
どう諦め悪く足掻いても、こいつがヒロミである事は間違いなさそうだった。



背中に担ごうとして、よいしょと持ち上げると、

その未成熟で、細くて軽い身体に不本意ながらドキリとした。




ヒロミの家は、当時と変わらず其処にあった。

しかし、部屋の中に人気は無く、しんと静まりかえっている。
ガレージにある、親父さんの車は無い。どうやら桐島家は全員留守の様だ。
母親が出ていったのは…確か今ぐらいの時期だったよな。

取り敢えず、鍵…と思い、背中のヒロミを振り返るが起きる形跡は無い。
つーか、さっき漁った時、鍵らしいものをコイツは持っていなかったよな。

以前、この家に来た時に確かヒロミはこの植木鉢の下に鍵を隠していた。
誰の趣味か、ヒロミの家は色とりどりの花の植わった植木鉢が所狭しと並んでおり、
その無数の鉢の中の一つに、この家のカギを隠していた。

その事を思い出した俺は、背中のヒロミをちゃんと捕まえると、
目的の植木鉢を、ガリリ…と、横にずらした。


鍵は、そこにあった。

つーか、いつから変えてないんだよ!鍵の場所!!


ったく、不用心な親子だ…鍵の場所はちょくちょく変えておけ。
俺はブツブツと溜息をつくと、玄関をカチャリと開けた。


久しぶりの、桐島家だった。




**********************




部屋に入った俺は、ヒロミをまず彼の部屋に運んだ。
そして傷の手当てをしようと、タオルを水で固く絞り、救急箱を持ち出す。


…悲しいかな、勝手知ったる桐島家。


蛍光灯の下、怪我している箇所をタオルで拭い、消毒していく。
血や汚れを拭い終わると、見覚えのあるヒロミの面影がはっきりとしてきた。
ま、本人だから当たり前だが…な…。



すぅ…すぅ……。



「………。」

ふん…無邪気に寝てやがる。惚れた弱みと言うのは恐ろしいもので。
こんな眉が殆ど無い顔を可愛いなどと思えるなんて、どうかしている。


長い前髪、長い襟足。剃られた眉に、まだ幼さの残る目元。


…中坊の頃のヒロミ…か。


そういえば、最初にヒロミと出会ったのは鈴蘭だったから。
この頃のヒロミを俺は写真でしか見た事が無かった。


つーか、あんな大勢に喧嘩吹っ掛けて…無茶なのは昔っから、か。


ヒロミの手当を終えて、俺はやっと落ち着いて考えを整理出来た。


未だに信じがたいが、俺はどうもタイムスリップの様なものをしたらしい。
それも…何故だかサッパリ分からないが×年前のヒロミの地元に。
このヒロミが中3なら、俺は高1…か。鈴蘭に転校した辺りか…。


思考を弄んでいると、ヒロミが『ん…』と小さく唸った。


ここに居ても騒がれるだけだ。

…とにかく、外に出よう。
そして、もう一度あの広場に行ってみよう。
もしかしたら、何か戻る手がかりがあるかもしれない。

中坊のヒロミも拝めた事だし…な…。


電気を消し、そのまま部屋から出ていこうと足を踏み出した所で、
後ろでヒロミが、何か声を発した。


「…ぁ…さん…。」
「…ん?」


…何だ、寝言か。

呼び止められたのかと思った俺は、拍子抜けしドアノブに手をかけた。

しかし、寝言なんて気に留めなくても良かったのだが、
次にハッキリと聞こえた言葉に、俺は思わず足を止めヒロミを振り返った。



“………母さん…”



…ヒロミ?

そう小さく呟かれた言葉に、俺は堪らない気持ちになった。


ヒロミの親が離婚して、母親が出ていった事は、
ヒロミと連む様になってから本人から直接聞かされた。
しかし、深刻そうにではなく、至って明るく普通に話された。


思い起こせば、今が丁度、出ていってまだ時間が経っていない頃だ。


ヒロミ…こんな夜をたった一人で過ごしていたのか?お前は。


仕方ない事とはいえ、この時期に側に居てやれなかった事を俺は少し悔やんだ。
…らしくない。居てやれたとしても、俺なんか何の役にも立たないのに。


このヒロミが、俺を必要とするはずはないのに。


ヒロミが…俺の事を好きになってくれるのは、何年も先の話なのに。


やり切れない思いで一杯になった俺は、開きかけたドアをパタンと元に戻した。
そして、ベッドの側で膝を折ると、ヒロミの枕元に頭を寄せた。


ヒロミ…。


頼まれもしないのに、せめて夢の中では、と。
祈る気持ちで、俺はヒロミの幼い手を強く握ったのだった。




**********************




瞼に刺さる陽射しで、俺は目を開いた。
気付いたら、もう窓の外は明るくなっていた。

「おはよう。」
「あぁ…。」

あぁ、横でヒロミの声がする。

あれ?ヒロミ…?お前、今日ちょっと声高くねぇか…?






「で?お前、誰だよ?」


ーーーーーーー!!!!


言葉通り、俺は『飛び起きた』。

し、ししししまった!!一緒に寝ちまって…!!


「つーか、手。何で握ってンだ?」
「あっ…!!」

更に言及されて、俺は慌てて握っていた手を離した。
もうヒロミの目に映る俺は、明らかに不審者だった。

「家は生徒手帳で分かるとして…どうやって入ったんだ?鍵は?」
「…っ……。」
「しかも此処が俺の部屋ってよく分かったな?」
「……!」
「タオルや救急箱の位置も把握してる。一体何者だよ、お前。」

重ねられる追求に頭が追いつかず、俺の思考は完全にフリーズしてしまった。
反論の余地を持たせない、ヒロミの声に狼狽えてしまう。

だが、どうしていいのか分からなかった俺は、
刺さる様なヒロミの目線に、ただただ黙る事しか出来なかった。


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