SS.PARALLEL ♯2
□ひそやかな俺達のデジャヴ〜Episode 1
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※この作品は完全パラレルです。自己責任で。
「ん…?」
気付いたら、俺は広場に居た。
辺りは真っ暗。そんな中、ベンチに一人で座っていた。
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「いつの間にこんな所に…。」
今まで寝ていたのか、誰かと居たのか。
自分が何をしていたのか、サッパリ思い出せない。
財布…ある。煙草…ある。衣服も…ちゃんとしている。怪我も無い。
酒を呑んだ覚えも無ければ、喧嘩に巻き込まれたりとかでも無いらしい…。
しかし、必死にこの場所に居る理由と経緯の記憶を辿るのだが、
この場所に何故いるのかも、どうやってこの場所に来たのかも。
俺はどういうわけか、全く覚えていなかった。
「っ、携帯…!」
一番肝心なモノの存在を思い出した俺は、慌てて衣服を探った。
そうだ。ヒロミに連絡して、迎えに来て貰えばいい。
俺は、明らかに徒歩で来ている。きっと近場の範疇だろう。
しかし、そんな希望の蜘蛛の糸はプツリと切れていた。
「無ぇ…。」
財布も…煙草すらあるのに。何で肝心の携帯電話が無いんだよ…。
何処かに落としたか、何なのか。
ヒロミの携帯ナンバーなんて覚えていない。ツネや他の奴のも。
どっちにしろヒロミに迎えに来て貰う線は消えた。
呆然と、頭を抱える。
一体、俺はどれ位気を失っていたのだろう。
つーか、酒入っているわけでも無いのに、記憶無いってどういう事だ?
夢遊病の類を一瞬疑ったが、今自分が身につけている服装は、
いつもの部屋着じゃなく、ちゃんとした外出着だ。
いくら何でも上下キッチリ着替えて、髪をセットし、
ブーツに足を通すほど、器用に寝惚けられるわけは無い。
それ以前に、そこまでゴソゴソ準備している物音に、
眠りの浅いヒロミが起きて、ちゃんと止めに入るだろう。
そこで、頭にピリッとした痛みが走った。
「あ…!」
記憶が少しだけだったが、フッとよぎった。
夜。ヒロミと一緒に寝た記憶。
生意気に腕枕をしてきて、俺の頭を抱きかかえて。
甘える様に細められた瞳の横で、俺は眠りについた。
そうやって寝た、その後の記憶が俺には無いんだ。
ヒロミ…。
ふと浮かんだ恋人の顔に、夜の広場で一人である事に心細さが増した。
とにかくタクシーでも探そうと、此処を離れる事にした。
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人気の無い所から、とにかく大きな道路に出ようと、
俺は、灯りの見える方向へとひたすら歩いていた。
そして、歩いている間。次第に感じる違和感を拭えなかった。
見知らぬ場所と思っていたが、俺はこの道を知っている。
どういう経緯かは知らないが、確実に何か確信を持って歩いているのだ。
どういう…事だ…?
「………!!!」
「…!!」
その時、遠くの方で人の声が聞こえてきた。
人の声…人が居るのか…?
人が居る事を確認し、何処か安心した俺は、
無意識に声の方へと足を進めていた。
近付くにつれ、声が次第にハッキリと明確なものになる。
「舐めたクチ利いてンじゃねぇぞ!あぁーっ!??」
「何とか言ったらどうなんだッ!?」
罵声と共に、ゴキッとかバキッとか鈍い音が響いている。
喧嘩か…?
俺は遠目で繰り広げられているその光景に、思わず息を呑んだ。
ただの喧嘩なら、無視して終わり所なのだが、
どうやら一人に対して複数が、挙って袋叩きにしているらしい。
「オイ、コラ!俺らに喧嘩売ってきて、寝てんじゃねぇぞ!?」
「おい、聞いてんのか!中坊!!」
中坊…?
どうやら袋叩きに合っているのは、中学生のガキらしい。
しかも、そのガキ一人を7人がかりでリンチしているのは、
明らかにその中坊より歳が上の…おそらく高校生か何かだろう。
くだらねぇ喧嘩しやがる…。
その粗悪な手段に嫌悪しながらも、自分には関係ねぇと俺は踵を返した。
話を聞いていれば、喧嘩を吹っ掛けたのはあの中坊らしいしな。
助ける、なんて事はしない。あいつが自分で撒いた種だ。
「二度と刃向えねー様にしておこうぜ。腕、へし折ってやれよ。」
「そうだなぁ…ま、これも人生経験って奴だ。」
「俺らが優しくて、良かったでちゅねぇ〜ボクちゃん?」
ちっ…。
俺は舌をひとつ打ち、返した踵を戻すと、
ガキ共の黒だかりの中に飛び込んでいった。
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大人である自分が飛び込み、2、3発お見舞いしたら、
リンチをしていたガキ共は蜘蛛の子を蹴散らす様に逃げていった。
…つーか、あいつら何なんだ。
同じ高校生でも、ヒロミ達の方がまだ骨があったぞ?
しかし…久しぶりにヒロミ以外の奴を殴ったな。
大人になり、久しく無かった喧嘩の空気につい懐かしさを覚える。
「ぅ…。」
らしくなく、思い出に浸っていたら、
横で地面に倒れていた中坊が呻いた。
「…ぃ……。」
「…おい、動けるか?」
顔も服も、ボロボロじゃねえか。ひでぇ格好だ。
自分より大きな力にひたすら立ち向かって、ケチョンケチョンにやられて。
傷を作っては、また新しい傷をそれに重ねて…。
そういえば、昔の俺も…こんな感じだったな…。
…ん?
俺は、その中坊の制服に思わず目を留めた。
ここは東京のはずだ。…どっかの…東京の中坊…だよな?
でも、こいつの制服…何処か見た事なかったか…?
上は私服だったから、ズボンを見ただけの判断だったが妙に引っ掛かる。
似ているのを昔見た様な…何処の中学だったか…。
「………。」
「!?…お、おい!」
だが、突然気を失った中坊にその思考は奥へと引っ込んでしまった。
一瞬、変な汗が出たが、呼吸はちゃんとしている事が確認でき、安堵の息を吐く。
額が切れているせいで、出血はそれなりにあったが、
特に酷い怪我は見られず、骨も折れてはいない様だ。
だが、このまま放っておくのもな…。
「仕方ねぇな…。」
…学生証か何か持っていねぇのか?
きっとこの辺のガキだろう。俺はコイツの自宅まで運んでやる事にした。
家の場所が分からなかったら病院に放り込めばいい。
ゴソゴソとポケットを探る。財布と煙草が出てきた。
ふーん、セブンスター…か。
ヒロミと自分の嗜好品である煙草を所持していた事で、若干の親近感が湧く。
ふん…中坊の癖に、イイ趣味してやがる。
尻のポケットを探っている所で、固い手帳らしきものが指先に当たった。
…あった。
抜き取って、パラパラとページをめくる。
「え…?」
そして、街灯の下に照らされた名前に俺は目を見張った。
『海老塚中学校 3年』
『桐島ヒロミ』
「桐島…ヒロミだと…?」
ヒロミと同姓同名…?いや、そんな在り来たりな名前じゃない。
それに、出身中学校まで同じなんてそんな偶然は…!
つーか、ここは東京じゃないのか。海老塚は俺の地元の…!
「っ…!!」
そういう趣味は無いのだが、状況が状況なので、
コイツの更なる身分証明を求めて財布の中身をパラパラと捲る。
この中坊がヒロミだとしたら…色んな事がありえない。
俺の想像を遙かに超えている出来事が起きている事になる。
しかし、メンバーズカードやポイントカードの類に、
書かれている名前は全て…。
「桐島…ヒロミ…。」
半ば愕然としながら、俺はもう一度学生証を見た。
正直言って見たくはなかった。
でも、ここを確認しなければ次に進めないのだ。
そして、やはりその小さな手帳はとんでもない現実を俺に突きつけてきた。
「昭和…××年度……!?」
夢なら覚めてくれ…!!
俺は学生証を握りしめ、横たわるヒロミの傍らで呆然と立ちつくした。
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