SS.WORST ♯3

□ほつれて、むすぼれ。
1ページ/2ページ

珍しいモノを見た。

本日の会合の前に、小用があり。
俺は、出先から集会場に向かった。
すると、いつもと違うルートだったせいで、
ちょっと早めに到着してしまったのだ。

ま、遅刻するよりかはマシだ。と、
中に入って皆を待とうと、ドアを開けたら。

我らが副ヘッド。
本間義勝がソファに横たわっていたのだった。


**********************


「ち、チィース!」

誰も居ないだろうと思っていて、実際居たら凄くビックリする。
しかも、それがチームNO,2の副頭だったら尚更だ。
俺は慌てて挨拶し、本間さんにぺこりと頭を下げた。

しかし、本間さんは何も言わなかった。


……あれ?


無言の返事に、俺は首を捻る。
本間さんは、確かに無口な人だが、
挨拶して何も反応を返さない人では無かった。


…おかしいな。


「ほ…本間さん?」

恐る恐る声をかけてみるが、返事はやっぱり無い。

不審に思って、トコトコとソファに近づいてみると、
本間さんは穏やかな寝息をたてていた。


寝てる…。


とても珍しいモノとはこれの事。
本間さんの…寝顔だった。

いつもクールで、表情を滅多に崩さないこの人が、
子どもの様に、無防備に寝入っている。
おそらく、会合まで時間があるから。
ちょっと横にと思い、そのまま寝入ってしまったのだろう。

まだ、会合まで時間があるし。それまで寝かせてあげようと、
俺はそれ以上、声をかけるのを止めた。


本間さん、眼鏡外すとこんな顔なんだなー…。


珍しいモノは、ずっと眺めていたいのがヒトの性分ってもので。
よく寝ている様だし、俺は椅子をそーっと側に持ってきて、
本間さんを、もう少し観察する事にした。

普段、眼鏡の奥にある、氷の様な冷たい切れ長の瞳も、
瞼が下りればそれは形を潜める。
眼鏡を外すと…というベタな設定では無いが、
本間さん自身、顔立ちは悪いものじゃない。


眼鏡かけてるから、そっちばっか目ェ行くけど。
このヒトも、なかなか男前な顔してるんだよなー…。


…あ、鼻に眼鏡の痕ついてる。


ビシッと隙の無いヒトの、ちょっと抜けた部分というのは、
副頭には申し訳ないが、ついつい可愛いと思ってしまう。
俺は声を殺して、クツクツと肩を揺らした。


「ん…。」

ふいに、本間さんの眉間にシワが寄った。

やばい!本間さん起きちまう!
そう思った俺は、この場からとにかく離れようと、
慌てて、身体を椅子から離した。

…だが。流石、本間さん。
野生の反射神経そのもので、
自分の枕元に居た俺の腕をガシリと掴んできた。

「わわわっ…!!」
「ん?藤…か?」

寝起きの、眼鏡の無い本間さんが顔をしかめながら、俺の名前を呼ぶ。

「は、はい。」
「…随分早いんだな。」
「あ。ち、ちょっと出先から駆けつけたモンで…。」

俺はまるで悪戯がバレたガキそのもので、
さっきから、アワアワと落ち着かない。

本間さんがのそりと、身体をソファから起こす。

「で?…何してたんだ?」
「あ、いや…その…。」

本間さんの視線が、俺の良心をチクチクと刺してきて。

俺は、本間さんの寝顔が珍しかった事と。
それを眺めていた事を白状した。

「寝顔…?俺のが?」
「や、その…スンマセン!!」

親兄弟…女とかならまだしも、野郎に…しかも部下に。
無防備な寝顔を、ジロジロ見られて良い気がするわけはない。
俺は好奇心からとはいえ、自分の行動をとても後悔していた。

しかし、本間さんは怒る事も、蔑む事もせず。
無表情のまま、俺の顔をじーっと見詰めていた。

その表情から、感情を読み取る事は皆無。
俺はもうすっかり針のムシロにぐるぐると包み込まれてしまっていた。

「藤。」
「はっ、はい!!」

感情の無い声で、名前を呼ばれて。
俺の背筋は無意識にピィーンと伸びた。

「ちょっとこっち来い。」
「へ?」

本間さんは、自分の隣をポンポンと叩く。
ここに座れと…いう事だろうか。

「…し、失礼します。」

本間さんの指示に頭を捻りながらも、
彼の言う通りに、隣に腰を下ろした。

すると、本間さんは、俺の膝の上に、
そのままゴロリと横になってしまった。

「え、ほ、本間さん!!??」
「誰か来たら、起こせ。」

意図も何も伝えず、本間さんは俺の膝を枕にすると、
再び、寝の体勢に入っていってしまった。

え?何?何?男の膝なんて固いし、そんな肉付き良くねーし。
女のみたく、そんなにイイものじゃないと思うんだけど…。
つーか、これって怒っているのか??どっちなんだ???

本間さんの腹の中を考えあぐねていたら、
膝の上の本間さんが、瞼を閉じたまま口を開いてきた。

「別にこんなの、いつでも見せてやるのに。」
「は、はぁ…?」
「但し…お前だけ、な。」
「え?」


何かを含んだ様な、本間さんの言葉が耳に引っかかった。
あれ?何か…今スゲー事言われたような…。


でも、本間さんは俺の頭をワシワシと撫でると、
再び穏やかな寝息をたて始めた。



つーか、今…。


俺ならいい、って言ったよな…?このヒト…。



本間さん、本間さん。
それって…どういう意味ですか?


俺は、どうすればいいですか??



結局。本間さんは俺に疑問だけ与えて、答えをくれなかった。

ただ、ただ。緩やかな呼吸と、長い時間だけを与え続けてきたのだった。


END
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ