SS.WORST ♯3

□月本ミツマサの憂鬱
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今日は、輝がウチに遊びに来る日だ。

今度の日曜日のデートはどうする?という話題になったが、
二人とも、特に行きたい所が見つからなかったから。
じゃあ二人きりでイチャイチャしようかって話になって。
なら、輝の家…と言ったけれど。輝の家はたまたま都合悪くって。

って事は俺の家ってわけだけど。…だけど、俺の家は。


…だから、家に招待するのは嫌だったんだ。


**********************


ピンポーン。
扉の奥でインターホンが鳴った。

輝だ…!!
俺は、ベッドからガバッと身体を起こした。


しかし。


「あら、輝くんじゃない!」
「えっ!?輝さん!?」
「輝兄ちゃんだぁー!」

やっぱり…!!!
下で聞こえた、母親と二人の妹らしき声にげんなりと肩を落とす。

輝を家に招待したくなかった原因はコレ。
母ちゃんと、妹達。

ウチの女どもは、輝をとても気に入っているのだ。
確かに、輝は礼儀正しいし、格好イイし、優しいし。
母ちゃんや光穂達が気に入るのはとおおおっっっても分かるんだけど!
輝は俺の彼氏なんだ。その彼氏に家族とは言え、
ベタベタされるのは見ていて気持ちのいいものでは無い。

輝は元々鈍感だから、気付いていない様だけど。
特に光穂なんて、恋愛感情に近い何かまで持っている。
正直、会わせたくなかった。

おっと、いけね。このままだと、輝をあいつらに取られてしまう。
絶対、俺に声をかける前にリビングにお茶でもいかがと引き込むに決まっている!
今まで実際、そうなった事は何度もあった。
俺は、輝と二人きりでイチャイチャしたいのに!


…光政。輝を救出して参ります!!


「おいコラ!!お前達!!」

「久しぶりねぇ。丁度お茶煎れていたのよ。」
「そうそう!!一緒にお茶しようよ!ね?」
「ささ。あがって、輝さん!」
「あ、あぁ…。」

無視かよ!!!

心の中で盛大にツッ込んでみる。
階段の上で、ヒーローよろしく登場したのに、
ウチの女どもは、聞く耳どころか、振り向きもしなかった。

見れば、輝は笑顔の光穂と光希に、片方ずつ腕を取られている。
ほっほー…何だそれは?俺だって、ンな堂々と腕組んだ事ねぇのに!!

「こら!お前ら!輝に触ってんじゃねぇ!!!」
「何よ政兄ィ!うるさいわね!」
「政兄ィ、うるさい!」

光穂と光希が、キッと睨む。
その表情を輝に見えないようにしている所が女の怖さか…?
でも、そんな事でひるんでられるか!!

「ったく!勝手に騒いでんじゃねぇよ!輝は俺に用があって…!!」
「いいじゃん!政兄ィは毎日学校で会ってるんでしょ!?」
「そうだそうだ!」

妹達が、輝に両方からきゅっとしがみついた。

「ぎゃああああーーーー!!!!俺の輝に何してんだお前らあああああ!!!」
「輝兄ちゃ〜ん!政兄ィが超コワイ〜!!」

更にぎゅぎゅーと抱きつく妹'S。

「だ〜か〜ら〜!輝に触んじゃねぇっつってんだろぉおお!!!」
「うっさいわね!何でイチイチ政兄ィに許可取らないといけないのよ!」
「輝兄ちゃんはみんなのモノだもん!」
「ほらほら、貴方も一緒にお茶すればいいじゃない?ね?」

母ちゃんが、俺達の間に割って入ってくる。

「っせーな!何で茶なんか…」
「なぁに?光政…?」
「うっ……!!!」

母ちゃんが笑顔を向けてくる。が、目の奥は一切笑っていなかった。

身体中の細胞が、けたたましく警報を鳴らす。
これは母ちゃんをこれ以上怒らせてはいけない目だ。
この目をしている母ちゃんには、ウチの家族で勝てる奴は居ない。

「な…何でもアリマセン…。」
「そう。いいダージリンが入ったの。みんなで頂きましょ?」

そんなこんなで俺の輝とのイチャイチャ計画は、儚く散っていった。


**********************


「…いつまでフテ腐れているつもりだ?」
「フテ腐れてなんかねぇもん…。」

ようやく輝と二人っきりになれたのは、輝を送る帰り道だった。
高かった太陽は、だいぶ落ちて。辺りを茜色に染めている。

「どうせ、明日学校で会うじゃないか。」
「気にしてねぇって言ってんだろ!!」

俺の大きな声に、輝が瞳を丸める。
あ。くそ、空気悪くしちまった。



「ご…ごめん……。」


何で、うまく立ち回れないんだろう。
相手に必死になればなるほど、空回ってしまって。
いっつもそうだ。俺がガキみたく拗ねて、輝を困らせる。
輝の事が好きなのに。誰より大事にしたくて。迷惑かけたくなくて。
ああ。マジ、すげぇ、自己嫌悪…。




「バルサン…もう終わってるかな。」
「へ?」

輝がポツリと呟く。は?バルサン??
バルサンって、あの煙がブワーッって出る、あの?

「俺の家、バルサン炊くから追い出されていたんだ。」
「はぁ…。」
「もう終わっているだろ。」

んん??何を突然言い出すんだ?
輝のちんぷんかんぷんな発言に頭を捻る。

でも、その後の。
『っつー事で、今夜泊まれ。』という輝のヒトコトで。
俺の機嫌は一気に浮上したのだった。

END
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