SS.WORST ♯2

□はなつまむ
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俺も人間なのだから。

いつでも普段どおり、と言う訳にはいかない。



こんな日だって、…ある。






向かった先はいつものスクラップ置き場の更に奥。



積み重ねられた金属の上をよじ登り、プレハブ小屋の屋上にゴロリと横たわる。








ここは俺の、ちょっとした逃げ場。








少しでも現実から逃げてしまいたくて。







俺は大空の下、寝転がり目をただただ閉じていた。








そんな時。カシャン…と、錆びた屋根を踏む音。

目だけでその方向を見れば、ついこの間、俺の右腕としてスカウトした男。







…柳…臣次。







とにかく他人に弱っている所を見せたくない俺は、即座に寝たフリをした。








あいつと俺は何処か似ている。でも、同時に正反対でもあった。

ひと言で言えば、「いい奴だけど友達には居ないタイプ」って感じ。













素直さ。冷静さ。













そして、誰にでも分け隔て無い、博愛的な優しさ。












あいつは俺が持ってないものを沢山持っていた。












「ん?…なんだ、寝ているのか…。」












そうだよ。だから俺の邪魔をするなよ。今は誰とも話したくねぇんだ。












そう念力を送るも、無駄だった様子で。柳は、俺の隣に腰掛けた。












「………。」







気配だけで、凄く見詰められている事がわかる。












くそ、顔に穴が開きそうだ。











「泣く子も黙る武装の頭も、寝顔は可愛いんだな…。」


そうクツクツと笑われ、複雑な気持ちになる。















ったく、男相手に何言ってるんだ…?













うぷっ………!??


そんな時、急に鼻をつままれた。これじゃ、息が出来ない。












「うっ…ぷはっっ!!!」
「おはよう。好誠。」
「柳お前っ…!お、俺を殺す気かっ!!!」
「お前がいつまでも寝たふりするからだろう?」











ぐっ、と息を詰まらせる。














…馬鹿だ俺。こんな反応、肯定している様なものじゃないか。














欺こうとしていた事が気まずくて、俺は柳から目を逸らす。












そうしたら、急にその長い腕の中に抱き締められた。











「なっ…お、おい…!」
「ちょっとでいい。…動かないでくれ。」









女じゃなくて申し訳ないとは思っているから、と言う柳。











俺は、思いのほか心地いい、この男の腕の中に驚く。











あぁ、こんな風に人に抱き締められたのっていつ以来だろう…?












頭をぽんぽんと撫でられて、わかった。











あぁ、こいつ。弱ってる俺を慰めに来たんだ…。











でも何で…?何で分かったんだ…?











弱った心に甘い棘が刺さる。















泣いては駄目だ、と思った途端に涙が溢れた。













俺の涙を見るのは初めてだろうに。











柳は何も言わなくて、抱き締める腕もそのままで。











「誰にも言うな」と言ったら、「わかってるよ」と言われた。












秘密の共有。初めて他の誰かに見せた弱い自分。









それは信頼関係がひとつ積み上がったと同時に、










俺達の不器用な恋の始まりでもあった。






END
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