SS.WORST ♯2
□ふたりの庭
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「おいでよ、蓮次。月が綺麗だから。」
拓海から、そう言われて庭に誘われた。
花も寅も、迫田もマリ姉も政兄も居るこの家で。
何故、俺だけを誘ったのかは聞かない。
…聞いてはいけないからだ。
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…二人きりだ。
拓海は俺が好きで、俺はよく分からなくて。
密やかに向けられ続ける好意を、有耶無耶にしている事に、
若干、居心地悪く思いつつも。
俺は何故か、拓海を拒絶する事が出来なかった。
「綺麗だな。」
「あぁ…。」
「こんなに明るいのは珍しいね。ほら、影が出来てる。」
ホラと指をさされた方角を目線で辿れば、
細く長い、俺と拓海の影が地面を這っていた。
「あ。面白い事、思いついた。」
「?」
そう笑った拓海が、少しだけ首をこちらに伸ばしてきた。
急に接近してきた端正な顔に、心臓が止まりそうになる。
しかし、近付いただけで、拓海からのそれ以上のアクションは無かった。
「な…っ…!?」
「顔このままで。目だけでそっち見て。」
「え…。」
動揺する俺に、拓海が横目で『そっち』と方向を伝えてくる。
同じように横目で観ると、その二つの影は口唇を合わせているように見えた。
「っ…!?」
「ね…?キスしてるみたい。」
もっと近くまで。そんな目的を持った、迫る笑み。
俺はそれから逃げるべく、拓海の胸を押すと地面を蹴った。
「嫌い、ってヒトコト言えばいいのに。」
「可愛いなぁ…。」
俺が去った後。拓海は小さく、ふふふと笑うと。
夜風で渇いた口唇をペロリと舐めたのだった。
END