SS.WORST ♯2
□泡沫を、もう一度だけ愛と呟く
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※『泡沫を、ただ一度だけ愛と呼ぶ』の続きとなります。
会いたくない奴ほど、よう湧いてくるっちゅー事か。
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「…なんの用じゃい。」
「随分、他人行儀なんだな?」
「他人じゃろうが。ワシとキサンが身内っちゅー方が無理があるわい。」
「まぁ、そう言うなよ。」
そう突き放してやれども、武田は肩をすくめるだけだった。
この前、武田をこの手に抱いた。
ワシじゃない誰かを想い、恋い焦がれる武田を、
誘われるがまま、無茶苦茶に抱きしめた。
抱いて、気付いた自分の思いを。
気付いたと同時に、殺した。
それなのに。ワシの気も知らずに、コイツは。
「…近くまで来たからよ。」
「ほうか。」
「謝りに来た。」
謝ってもいいか?
そんな武田の言葉が耳に刺さった。
謝罪は、罪悪感から来る行動。
心が痛んだ。
罪悪感、か…。
「なんじゃい、ワシに頭下げるっちゅーんか。」
「うん。」
「…じゃあ下げい。」
それでワレの気が済むのなら。
それで、…ワレの心が軽くなるのなら。
それなら、ワシは。
「そんな顔するなよ。」
武田が、小さく笑う。
慈しむ様な、心を揺さぶる微笑に血流が早くなる。
「…何の事じゃい。」
「すっげー寂しそうな顔。」
「この顔は生まれつきじゃ。」
「なぁ、俺を連れて逃げてくんねぇ?」
…?
武田の口から零れた、あまりにも唐突な言葉に
一瞬、何の事かと思考が飛んだ。
「なん、じゃ…?」
「逃げちまいてーの。何か。」
じゃり、と砂を踏んで。武田がワシとの距離を縮め始めた。
じゃり、じゃり。
ゆっくりと。武田の気配が身近に、色濃くなっていく。
頭の中で警報が鳴った。
「…アホか。」
「ジョー…?」
「戻れ。ワシは忙しいんじゃ。」
武田の視線から身を翻し、ワシはその場を離れた。
そんな役は要らんじゃろうが。早ぅ戻れ、あいつの所に。
“俺を連れて、逃げてくれ。”
…………アホが…。
ジョーが遠くに小さくなっていく。
そんな不器用な男の足跡を、武田はただ静かに見つめていた。
「あーあ、アイツは何であんなに優しいのかなー…。」
誰に聞かせる事もなく、武田は笑みを含んだ声でポツリとそう呟いた。
END