SS.WORST ♯2

□泡沫を、ただ一度だけ愛と呼ぶ
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※性的な表現が含まれています。自己責任で。

武田はフラリと野良猫の様に現れた。
何の用だと問えば、自分を抱いてみないかと言ってきた。

「カッカカ…何じゃいワレ。頭でも打ったか?」
「好きな様に解釈してくれて構わねぇけど?」

ギラついた瞳でこちらを射抜きながら、
ジャケットのファスナーを下ろしていく。
その漆黒を纏った肉体は、驚くほど白かった。

少し考えた後、ワシは武田に付いてこいと合図した。



連れ込んだのは、安っぽいホテル。

水槽の底の様な蒼い空間で、
果てしなく絡み合う獣が二匹。



**********************


「あ…も、…もう入ら…ね…。」
「そがんツレん事、言わんでくれ。」
「う、あッ…!!」

ワシのモノで腹を一杯にした武田に、更に腰をねじ込む。

「あ…あぁ…っ…。」

キュッと締まっていた尻の肉は、既に目一杯に広げられ、
ワシの怒張に辛うじて絡み付いている。

「ほう、まだ入るみたいじゃけ。遠慮すんな。」
「ああっ…!うああッ…!!アアアーッ…!!!」



ええ声じゃ、武田。


もっと聞かせぇ…?



「も、…イ…けねぇって…!」

武田を追い上げていると、泣きが入った。
さっきから、武田もワシも、何度も何度も射精していた。
固く勃ち上がっていた武田は、連続の射精に赤く充血して震えている。

だが、ワシは全く萎えなかった。自分自身が一番驚いていた。

こんなにぶっ続けにセックスしても終盤は全く見えなかった。
休憩なんて不要だった。それより、武田を抱きたかった。
武田の身体が。快楽に溺れる表情が。ワシは、もっともっと欲しかった。

抱けば抱くほど、逆に喉咽が渇いていく。
ワシの腹の奥底にある、負けん気がそうさせるのか。それとも…。

「あっ…も…無、理…ぃっ…!!」

さっきは挑戦的に光っていた瞳は、既に甘く濡れている。
腰を叩き付ける度に、武田の目からは涙が弾けた。
整った男前が、苦痛と快楽の熱に歪む。

最高じゃ。やっぱワレはワシをゾクゾクさせるわ。

「っく、…ジョー…もう…っ…!!」
「聞こえんなぁ…。誘ったのはワレやろうが?」


もっと、楽しませぇ…?

そう言って、武田の身体を抱き起こす。


「あ、ぐぅ…ああっ…!!!」

膝の上に抱え、武田の体重を使って更に繋がりを深める。
強すぎる快楽に、武田は理性に必死にしがみついていた。

ひゅ、と武田の喉咽が鳴って、涙に濡れた目瞼が震えた。

汗で光る、割れた腹筋がグッと隆起する。
先程放った体液に、新しいモノを更に重ねた。

「あぁ…、あああぁ…!!」
「っ…!!」

武田の柔らかい肉がきゅうと締め付ける。
ワシもその甘く淫らな体内に熱い欲望を注ぎ込んだ。


互いに、何度目か分からない射精。

腹に散った武田の精液は、既に薄く透明になっていた。


「はぁ…はぁ…っ…。」
「なんじゃい?イけん言うて、ちゃあんとイっとるやないけ…。」
「んっ…!」

耳元で囁いて。耳朶をちゅく、と含んでやる。
すると甘い息を吐いて、ぶるっと肩を震わせた。


…かわいいのう。


汗で張り付いた、長い前髪を払ってやる。
自慢のオールバックは既に乱れ、ザンバラに額に落ちていた。
そのせいか、凄みが利いた美貌は、あどけなくとろけている。

普段、後ろへと撫で付けていたから気付かなかったが、
下ろしたら下ろしたで、雰囲気が変わるモンじゃなぁ…。

愛おしさに胸を潰されそうになりながら、
武田の口唇に、自分の口唇を近づける。

「ジョー…。」


ブーン…ブーン…。


もう少し、という所で。
ベッドの向こうで携帯の、マナーの振動音がした。


「ん…?」
「………。」


それに、武田の表情が小さく強ばった。
それでワシの携帯が鳴っていない事が分かった。


鳴っているのは、きっと武田のだ。


「……電話じゃ。」
「………。」
「出らんでええんか?」
「なんで…?俺はそんなに野暮じゃねぇよ…。」

甘える様に腕を回してきた武田の顔は、もう元に戻っていた。
先程の緊張は気のせいだと錯覚させる程、見事な役者っぷりだった。


長い振動音が止む。そして、また振動音。


「武田…。」
「ほら、横になれって…。」

武田は、ワシの身体をベッドに押しつけ、
その隣にごろんと横になった。

再び戻った甘いムードに身を任せる。
その身体を抱きしめると、腕の中で武田が笑った。
その屈託の無い笑顔に、振動音は遠くにかき消された。

「ヤった後、イチャつくのって好き。」
「ほうか…。」
「うん…。」

武田が、胸にもぞもぞと頬を寄せてきた。
愛おしい気持ちと切ない気持ちがいっぺんに来る。

「…なぁ。」
「なんじゃ?」
「キスマーク、つけてくれよ。」
「あ?なんじゃい、急に。」
「記念に。な?」

ワシは誘われるまま、武田の首筋に口付けた。

舐めて、口付けて、舐めて。
そして、一番柔らかい肉を少しだけ舌にとる。

耳元で、武田の喉咽がゴク、と鳴った。


…何をビビッとんのじゃ。








わざと仕向けられた情事の痕。






のう、武田。

ワレは、ワシとの時間を誰に見せるつもりなんじゃ?







ワシは、その肉に口付けただけで、吸い込まずに離した。



「やっぱ、やめとこ。」
「えっ…?」


目を丸める武田。

その瞳の奥に安堵を見て、自分の判断が間違ってない事を悟った。


「何でだよ…。」
「けっ。男にキスマークなんか付けてられんわ。」


ワシは、武田を抱く手を離した。



「……優しいんだな…。」

武田がポツリと呟く。

「フン…ワシが優しいわけないやろ。」
「そっか…。」
「…お門違いじゃ。」

武田が薄く笑みを浮かべる。



ワシは、それから指一本武田に触れなかった。

武田もワシに触れてこようとしなかった。
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