SS.WORST ♯2
□泡沫を、ただ一度だけ愛と呼ぶ
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※性的な表現が含まれています。自己責任で。
武田はフラリと野良猫の様に現れた。
何の用だと問えば、自分を抱いてみないかと言ってきた。
「カッカカ…何じゃいワレ。頭でも打ったか?」
「好きな様に解釈してくれて構わねぇけど?」
ギラついた瞳でこちらを射抜きながら、
ジャケットのファスナーを下ろしていく。
その漆黒を纏った肉体は、驚くほど白かった。
少し考えた後、ワシは武田に付いてこいと合図した。
連れ込んだのは、安っぽいホテル。
水槽の底の様な蒼い空間で、
果てしなく絡み合う獣が二匹。
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「あ…も、…もう入ら…ね…。」
「そがんツレん事、言わんでくれ。」
「う、あッ…!!」
ワシのモノで腹を一杯にした武田に、更に腰をねじ込む。
「あ…あぁ…っ…。」
キュッと締まっていた尻の肉は、既に目一杯に広げられ、
ワシの怒張に辛うじて絡み付いている。
「ほう、まだ入るみたいじゃけ。遠慮すんな。」
「ああっ…!うああッ…!!アアアーッ…!!!」
ええ声じゃ、武田。
もっと聞かせぇ…?
「も、…イ…けねぇって…!」
武田を追い上げていると、泣きが入った。
さっきから、武田もワシも、何度も何度も射精していた。
固く勃ち上がっていた武田は、連続の射精に赤く充血して震えている。
だが、ワシは全く萎えなかった。自分自身が一番驚いていた。
こんなにぶっ続けにセックスしても終盤は全く見えなかった。
休憩なんて不要だった。それより、武田を抱きたかった。
武田の身体が。快楽に溺れる表情が。ワシは、もっともっと欲しかった。
抱けば抱くほど、逆に喉咽が渇いていく。
ワシの腹の奥底にある、負けん気がそうさせるのか。それとも…。
「あっ…も…無、理…ぃっ…!!」
さっきは挑戦的に光っていた瞳は、既に甘く濡れている。
腰を叩き付ける度に、武田の目からは涙が弾けた。
整った男前が、苦痛と快楽の熱に歪む。
最高じゃ。やっぱワレはワシをゾクゾクさせるわ。
「っく、…ジョー…もう…っ…!!」
「聞こえんなぁ…。誘ったのはワレやろうが?」
もっと、楽しませぇ…?
そう言って、武田の身体を抱き起こす。
「あ、ぐぅ…ああっ…!!!」
膝の上に抱え、武田の体重を使って更に繋がりを深める。
強すぎる快楽に、武田は理性に必死にしがみついていた。
ひゅ、と武田の喉咽が鳴って、涙に濡れた目瞼が震えた。
汗で光る、割れた腹筋がグッと隆起する。
先程放った体液に、新しいモノを更に重ねた。
「あぁ…、あああぁ…!!」
「っ…!!」
武田の柔らかい肉がきゅうと締め付ける。
ワシもその甘く淫らな体内に熱い欲望を注ぎ込んだ。
互いに、何度目か分からない射精。
腹に散った武田の精液は、既に薄く透明になっていた。
「はぁ…はぁ…っ…。」
「なんじゃい?イけん言うて、ちゃあんとイっとるやないけ…。」
「んっ…!」
耳元で囁いて。耳朶をちゅく、と含んでやる。
すると甘い息を吐いて、ぶるっと肩を震わせた。
…かわいいのう。
汗で張り付いた、長い前髪を払ってやる。
自慢のオールバックは既に乱れ、ザンバラに額に落ちていた。
そのせいか、凄みが利いた美貌は、あどけなくとろけている。
普段、後ろへと撫で付けていたから気付かなかったが、
下ろしたら下ろしたで、雰囲気が変わるモンじゃなぁ…。
愛おしさに胸を潰されそうになりながら、
武田の口唇に、自分の口唇を近づける。
「ジョー…。」
ブーン…ブーン…。
もう少し、という所で。
ベッドの向こうで携帯の、マナーの振動音がした。
「ん…?」
「………。」
それに、武田の表情が小さく強ばった。
それでワシの携帯が鳴っていない事が分かった。
鳴っているのは、きっと武田のだ。
「……電話じゃ。」
「………。」
「出らんでええんか?」
「なんで…?俺はそんなに野暮じゃねぇよ…。」
甘える様に腕を回してきた武田の顔は、もう元に戻っていた。
先程の緊張は気のせいだと錯覚させる程、見事な役者っぷりだった。
長い振動音が止む。そして、また振動音。
「武田…。」
「ほら、横になれって…。」
武田は、ワシの身体をベッドに押しつけ、
その隣にごろんと横になった。
再び戻った甘いムードに身を任せる。
その身体を抱きしめると、腕の中で武田が笑った。
その屈託の無い笑顔に、振動音は遠くにかき消された。
「ヤった後、イチャつくのって好き。」
「ほうか…。」
「うん…。」
武田が、胸にもぞもぞと頬を寄せてきた。
愛おしい気持ちと切ない気持ちがいっぺんに来る。
「…なぁ。」
「なんじゃ?」
「キスマーク、つけてくれよ。」
「あ?なんじゃい、急に。」
「記念に。な?」
ワシは誘われるまま、武田の首筋に口付けた。
舐めて、口付けて、舐めて。
そして、一番柔らかい肉を少しだけ舌にとる。
耳元で、武田の喉咽がゴク、と鳴った。
…何をビビッとんのじゃ。
わざと仕向けられた情事の痕。
のう、武田。
ワレは、ワシとの時間を誰に見せるつもりなんじゃ?
ワシは、その肉に口付けただけで、吸い込まずに離した。
「やっぱ、やめとこ。」
「えっ…?」
目を丸める武田。
その瞳の奥に安堵を見て、自分の判断が間違ってない事を悟った。
「何でだよ…。」
「けっ。男にキスマークなんか付けてられんわ。」
ワシは、武田を抱く手を離した。
「……優しいんだな…。」
武田がポツリと呟く。
「フン…ワシが優しいわけないやろ。」
「そっか…。」
「…お門違いじゃ。」
武田が薄く笑みを浮かべる。
ワシは、それから指一本武田に触れなかった。
武田もワシに触れてこようとしなかった。