SS.Rock'n Roll ♯1

□ツネヒゴロ Vol.4【頑張れ常吉編】
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ハッと気付けば、暗闇。
普段と違う、見慣れない天井が俺の覚醒を若干遅める。

……あぁ、そうか。ここは、ヒロミ達の家だった。

なんだぁ…夢かぁ…。
ダチとR指定という、何ともおぞましい夢に俺は全身に疲労を感じた。

好きな奴は、男だろうが何だろうが好きなら好きでいい。
でも、俺はオネーチャンが好きで、おっぱいが好きな普通の男子なのだ。

アイツらは確かにイイ奴だ。でも、そういう関係は一切御免だぜ…。


ちゅく…ちゅっ、ちゅ…。


うん?

まだ眠りの世界から完全に覚醒していない頭が、聞き慣れない物音を察する。
あれ?つーか、何か胸とか腹とか、スゲー気持ちいいんだけど。

俺、まだ夢見ているのかな…?

寝起きで、ぼんやりとくすんでいた思考が次第にハッキリしてきて、
視界も暗闇に慣れて辺りが見えてくる。
すると、俺の布団の上で黒い影がゆらりゆらりと揺れていた。

「おうわぁああああっ!!!」

俺に乗っていた影に驚いて、思わず飛び起きると、
その影も驚いたように、その動きをピタリと止めた。

何?何?超常現象??幽霊??オバケ???
俺は、自分が措かれている状況に完全に目が覚めた。

「ツネさん…。」
「へっ?」

名前を呼ばれて、目を凝らせば。
なんと、その影の正体は綾瀬だった。

「な、なんだ綾瀬か…驚かせるなよ…。」

オバケの類じゃなかった事で、俺は安堵し、ほーっと息を吐いた。
もうマジで、こう見えて俺ビビリなんだからよー。頼むよー。

安心したと同時に、俺は次の問題が起こっている事に気付いた。
冷静になった頭に疑問が次々と飛び込んでくる。


1つ。
どうして俺の上着がこんなに、たくし上げられているのか。

2つ。
どうして床で寝ていた綾瀬が俺のベッドにいるのか。

3つ。
…どうして、綾瀬の目がこんなに血走っているのか。


あれ?ま さ か…?


「ツネさんっ!!」
「えええっ!?何でーーー!!?」

俺は流石に戸惑った。突然、綾瀬が俺に抱きついてきたのだ。

「ちょっ、ちょっと綾瀬!お前どうしたんだよっ!!寝惚けているのか!?」
「寝惚けてなんかいません。貴方が悪いんですよ。あんなに可愛い寝顔を無防備に晒して…!!」
「可愛…、って、え?ええぇっ!??」
「俺…俺…。ツネさんの事が好きなんですっ!!!」

へ…??

思考が飛ぶ、というのはこういう事なのだろうと思った。
今、今、綾瀬は何ていった??

好き?誰が?綾瀬が?誰を?


お、俺…を??


恥ずかしながら、奈良岡常吉。彼女居ない歴、早ン年。
久しぶりに頂戴したご好意が、何が悲しくて野郎からなんだよガッデム!!

「てっきりヒロミさんと付き合っているんだと思って、諦めていたんです。でも…ヒロミさんは阪東さんと付き合っている事を知って…俺、どうしても我慢できなくて…!」

突然の告白を熱っぽく並べていく綾瀬に、
俺は脳が付いていけなくて目を白黒させる。

ベース上手い。ステージングも上手い。ホモにも理解がある。
でも、まさか。まさか。綾瀬が同類だったとは…!!!



って、な…何か膝に当たってるんですけどーーっ!!!!



「ちょっ、ちょっと待て!落ち着けよ綾瀬!!」
「俺は至って落ち着いています!大丈夫…痛くしませんから…!!」
「!?い、痛く、って…?」

獣のような綾瀬の目線に怯えながら、恐る恐る訪ねると。
布団の中で、股間を布地の上からグッと掴まれた。

「うわ、うわわっ!?」
「静かにしないとヒロミさん達に見つかっちゃいますよ…?こんな姿、見られたいんですか?」
「くっ、…お、お前っ…!!」

一瞬ひるんだ俺に、綾瀬は微笑むと、
俺の耳朶をぱくりと口に含んできた。

「っ、…!」

その甘い感覚に、先程の夢がフラッシュバックする。

「ま、まさか、お前…さっきまで…。」
「すみません…ツネさん全然起きないからつい…。」
「こらっ!!つい、じゃねぇだ…うっ、ア…!!」

文句のひとつでも浴びせてやろうと、口を開くが、
快楽を的確に引き出してくる、綾瀬の指先に咽喉が締まる。

「ツネさん…感じやすいんですね…?」
「うぁ、ちょっ…あっ、やだ…、やだって…!!」

耳を舐められながら、乳首をこねられ、股間を上下に撫で付けられて。
さっきも言った通り、こういう状況にめっきりご無沙汰だった俺のムスコは、
俺の意思に反して、綾瀬の手の中で元気に主張していった。

「ふふ…堅くなってきました。あんまり抜いていないんですか?」
「うあっ、く…そ…っ、…あッ…!…あっぁ…!!」
「ツネさん…その声、とっても可愛い…。」

綾瀬の揶揄に、反論したいが叶わない。
そのもどかしさが、俺の顔をカッと焼いた。

「あっ…もう、よ…せ…!!」

女ならまだしも、野郎にこんな…!!

しかし、男というものは快楽にめっぽう弱い動物で。
悲しいかな、冷めた頭とは裏腹に身体はどんどん熱く火照ってくる。

「あっ、…やせ…!マジ…無理だって…!」
「大丈夫ですよ。気持ちよくするだけですから…。」

快楽に思考を蕩けさせられる中。
綾瀬に、ズボンを下着ごとズリ下げられる。


あぁクソ…俺、とうとうヤられちまうのか…?


そう、悔しさに顔を横に背けると……目が合った。
興味津々と、こちらを凝視する…ヒロミと、阪東、と………。


な…ななな…!!??


「うぎゃああああああああっっっっ!!!!!」


俺の悲鳴は静かな夜には不似合いに、
それはそれは遠くまで木霊したのだった。


**********************


「特上カルビ、追加。」
「ええっ?ツネ、まだ喰うのか!?」

目を丸めるヒロミを俺はジロリと睨んで制する。
その横で、阪東が『バカ』とヒロミを小突いた。

只今、俺はこの二人からの焼肉接待中。
肉は全て特上で、コイツらに次々焼かせては平らげている。
これ位しねーと、俺の腹の虫が治まらないのだ。


そう。俺らのバンドは、結局また三人に戻った。


あの時の夜の事は、よく覚えていない。
とにかく、ヒロミと阪東と目が合った後の俺は無我夢中だった。

俺は、俺にチョメチョメしようとしていた不届き者をブン殴ると、
自らクビを言い渡して、荷物ごと夜の外に叩き出した。
そして、狸寝入りを決めていた二人も勿論叩き起こすと、
正座させ、この宴の約束を取り付けたのだった。


「確かにお前は災難だったと思うけどよー、何で俺らが奢らないといけねーんだよ。」
「あぁ…?それを言うのか桐島ヒロミさんよぉ…?」

バキッ!!

ふふふふふ、と笑いながら、割り箸をへし折った俺に、
流石のヒロミもマズイと思ったらしく、その生意気な口を噤んだ。

「俺がピンチの時…助けずにデバガメしていたのは何処のどいつらだ?」
「あ、あぁ〜…なんつーか、盛り上がってるみたいだったし邪魔しちゃ悪いかな、って…。」
「ふざけんじゃねぇ!!あそこは普通助けるモンだろっ!」
「あはは、でもどっちかっつったら、ツネって意外とエロいんだなーと俺、感心してて…。」
「があああっ!!皆まで言うなっ!!言うんじゃねぇっっ!!!」

男からアンアン言わせられて、それをまさか仲間に見られるなんざ、
恥も恥!!人生の大恥だっつーの!!!

「マジで俺はノーマルなんだ!!野郎とメイクラブとか出来るかっ!!」
「おーおー、俺らの前でそれ言うか?モテモテの常吉くん。」
「うるせぇっ!!肉食ったら次はランパブだからなっ!!」

今夜。俺は腹を満たして、性欲も満たす!!

その事ばかりに気を取られていた俺は、
一人の無口な男の、秘めた動揺に気付けなかった。

「げっ、ツネお前、オネーチャンまで俺らに奢らせるのか!?」
「そ・う・で・す・が・な・に・か?問答無用だっつーの!」
「行くのか?」

へっ?

今まで、肉を黙々と焼いていた阪東が突然口を開いてきて。
睨みあっていた俺とヒロミは何事だと、阪東へと目線を外した。

「どしたぁ?阪東?」
「いくのか、って何が?」
「いや…そ、その、…オンナの所にはその……み、皆で行くのかと…。」

トングで肉を弄りながら、ぼそぼそと歯切れ悪く言葉を呟く阪東。
普通の奴が見たら。一見、肉をひたすら焼いている様に見えるが、それは違う。
その証拠に、阪東のこの顔。お通夜みてーに、しょげ返っている。


………皆さん、お分かりですね?

阪東は、大好きな大好きなヒロミ君をオネーチャンの所に連れて行きたくないと。
果てしなく果てしなく遠まわしに、申されているのですよ、えぇ…。


そんな天然阪東の、無自覚なヒロミ大好きオーラに、
俺の口からは砂がザァザァ溢れ出す。

そんな阪東の心の内を、この俺が気付く位だから、きっと…。

「俺は行くよ。財布出さねーといけねーみたいだし?」
「………。」
「気は進まないけどなー付き合わないと駄目じゃねーの?なぁ、ツネ?」

ほーら、出た。サディストヒロミ。けっ、何が『なぁ、ツネ?』だ。
絶対気付いていて、わざとこんな事を言っていやがるんだ。
その厭らしさ満載の笑顔が動かぬ証拠だっつーの!!!

俺は面倒臭くなって、阪東に助け舟を出してやる事にした。

「阪東、ヒロミは置いて俺らだけで行こうぜ。」
「なっ!何言ってンだよ、ツネ!!」
「いーじゃねーか。阪東にもたまには遊ばせてやれよ?」
「駄目だ駄目だ駄目だっ!!!阪東には誰も触らせねー!!」

そう叫んだヒロミは阪東の頭をぎゅーっと自分に抱き寄せると、
誰にも渡さないと言わんばかりに俺を睨んできた。

ったく、阪東相手だと果てしなく子供になるよな、お前。
いつものクールなヒロミさんはどうしたんだ?ファンが泣くぞ?オイ。

つーか、阪東オメェ…何だよその表情。
頬を染めて、俯いているのは間違いなく照れからだろ?
ヒロミの今の言葉が、相当嬉しかったんだな…。はは、ははは…。

「……ならテメェも行くな。ヒロミ。」
「えっ?阪東…そ、それって…。」
「かっ、勘違いするな!ツネの分しか出す金が無いだけだ!!」

おーおー、出た出た。ツンデレって奴なんだろ?コレ。

つーか、阪東さんよぉ…。
どんだけテメェはこのロクデナシが大好きなんだよっっ!!ええっ!??

「やっべ。阪東、今のメチャクチャキた。…キスしよ?」
「こ、こらっ!こんな所でよせっ!」

…特上ロースと上タン塩と、レバ刺し、ユッケ。
あぁ、このクソ高い黒毛和牛とやらも喰ってやろう。

目の前で惜し気もなく繰り広げられる、ホモのイチャイチャ。
それをオールシカトして、俺は次々とオーダーを通してやった。

勿論、新しい箸も忘れずに…。


マジで、ベース…いつかは決まるのかな…。ウチのバンドは。

悩みの無いニンゲンなんてこの世には無い。
そう自分を慰めて、明日も頑張ろうと思う。奈良岡常吉、ハタチの夜であった。

END
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