SS.Rock'n Roll ♯1

□ツネヒゴロ Vol.4【頑張れ常吉編】
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それから、数日経ったある日。

いつもの様にスタジオに登場した俺を出迎えたのは、
ヒロミと阪東と…もう一人見知らぬ男だった。

「お?何?何処のどちら様??」
「紹介する。ベースの綾瀬だ。」
「へっ!?ベース!?マジで!??」
「あっ…綾瀬です!宜しくお願いします!!」

アヤセと名乗ったその男は、ぺこんと小さく頭を下げた。

ここ最近、良いベースに縁が無かったのだが、
ここに来て、やっと阪東のお眼鏡にかなった男が出たらしい。

「昨日、加入した。仲良くな。」
「おおおっ!そーなのか?宜しくな、綾瀬!!」

新ベースの登場に、感激した俺は綾瀬の手を取り上下に振った。
こうして、俺はベースとの出会いをまた一つ重ねたのだった。


…そして。流石、阪東の選出と言った所だろうか。
年下にも関わらず、綾瀬は今までに無い程、演奏が上手かった。


演奏だけじゃない。ステージングもなかなかのモノで。
客を魅了し、どんどん煽っては引きつけていった。
だが、決してボーカル以上に出過ぎる訳じゃない。

もう、このメンツでメジャーデビューも夢じゃねぇんじゃねーの?
俺はこれ以上ない程の演りやすい逸材を手に入れた事が嬉しくて堪らなかった。


そして。同時に絶っっっ対に脱退は阻止しなければという使命感にも燃えていた。


誰の目から見ても、綾瀬のベースとしての存在は完璧だ。
プレイ同様、ヴィジュアルも悪くないから男女共に客がつき始めているし…。
ヒロミと阪東…奴らは絶対に綾瀬の前でイチャつかせないようにしねーとなっ!!
そう決断した俺はそれはそれはよく気を利かせ、目を光らせた。

いつもは暗黙の了解だった『阪東の隣はヒロミ』という定説だった座席関係も、
俺は頑なにヒロミの隣をキープし、ピッタリとくっついていた。
子どもの手の届く所に危険物を置いては行けない様に、
ヒロミの手の届く所に阪東を置いてはいけない。

勿論ヒロミはその度にブーブー文句を言ってきたが、オールシカト。
そういう甘いムードは二人っきりで、帰ってから存分にすればいいんだからな!


そんな俺の頑張りのおかげで、綾瀬はベース在籍期間最長者となっていた。


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夕方。俺と綾瀬はミーティングの為にヒロミと阪東の家に向かっていた。
最初の出会いから、結構な時間が経過していたが。
奴らの自宅に行くのは、綾瀬は今回が初めてだった。

…嫌な予感が俺の脳裏を過ぎる。
今までの元メンバーが逃げていく確率が、
あいつらの家に行った後…というのが格段に高かったからだ。

自宅、という状況が家主であるヒロミと阪東の気持ちを緩めてしまうのだろう。

断固して回避せよ!!G・H・D・T!シャキーーン!!


「ツネさん、聞いてます?」
「へぇっ?」

俺は使命感に燃える事に夢中で、どうやら綾瀬の話を聞いていなかった様だ。

「あっ、わ、悪い!考え事していて…何だっけ!??」
「あ、いや…そんな大した事じゃ無いんスけど。」
「はぁぁ?気持ち悪いなぁ〜遠慮せずに言えよ。」
「あ…その…ツネさんとヒロミさんって仲が良いな、って思って…。」

綾瀬の言葉に、俺はきょとんと目を丸める。
仲良し?ヒロミと俺が?まぁ、仲間っちゃー仲間だけどよ。
改めて言われると、何か違和感を感じてしまう。

「えぇ?そうかぁあ?別に普通だぜ?」
「仲良いですよ。ずっと一緒、っつーか…いつも隣に居るっつーか…。」
「か、考えすぎだって!!やだなぁ!綾瀬っち!!うはははは!!」

綾瀬の思わぬ指摘に、俺ははぐらかそうと綾瀬の背中をバシバシと叩いた。

まさかヒロミ達の関係がバレないようにやっている工作活動とは言えないよな…。
でも何で綾瀬はそんな事を気にするんだ?
ヒロミと俺が仲良しなのってそんなに都合悪い事なのか?
あ、もしかしたら仲良しな空気を出されるとに溶け込めない奴なのかも!!

逆に不信感を与えてしまうのなら、ヒロミばかりマークし過ぎるのも考えものだな。
上手く分散させてマークしないと駄目だ。うん。

ベース在籍を更に確たるものにするべく、計画を練り続けているうちに、
俺と綾瀬はヒロミと阪東の家に到着した。



約束の時間ちょうど。
呼び鈴が無いこのアパートの扉をガンガンと叩いて、到着を知らせる。
しかし、ドアの奥は動く気配が無かった。

「あれ?あいつら出てこねーな。」
「留守でしょうか?」

俺はドアノブを掴んで、ドアを開けてみた。…ドアは開いていた。

「お〜い、勝手に上がるぞぉ〜。」

奥に声をかけながら、玄関に乱雑に散るブーツを掻き分けて、
俺と綾瀬は部屋に上がりこんだ。


そして、こんな光景。誰が予想出来るだろうか。



ガチャっとリビングへの扉を開いたら…。


所属しているバンドのボーカルとギターがキスしていました…とさ。



さ……さ……

最悪だあああああああああああ!!!!



「くぉらテメェらああああああっ!!!」
「!?…ツ、ツネ…!?」
「あれ?お前らいつの間に。」

来訪に気付かないほど夢中になってんじゃねーよ、このバカップル…!

俺の怒号で、真っ赤になった阪東がヒロミを引っぺがしたが、もう遅い。
二人のキスシーンを、綾瀬にはバッチリ見られてしまった…。

綾瀬がポカンと目を丸くしている。
そりゃそうだよな。キョーレツですよ、この光景は。

「ヒロミ、さん…。」
「あ、ああああのっ、綾瀬!こ、これには…!!」
「あのっ、ヒロミさんって阪東さんと付き合っていたんですか?」

綾瀬のその問いに、ヒロミはあっけらかんと『そーだよ。』などと答えやがる。

何、呑気にホイホイ肯定していやがんだああああっ!!
そんな俺の思いが通じたのか、横の阪東がヒロミをゴチンと殴った。

「そうですか…ヒロミさんは阪東さんと…。」
「あはは。うん。俺、阪東大好き。」
「っ…!??」

出た。ヒロミの惚気。
そして、その惚気に赤面しながらも満更でない阪東。

見ているだけで胸焼けしそうなこの光景…!!

「全然、気付きませんでした。」
「黙っていて悪かったな。」
「あ、いえ…気にしないでください。」
「まぁ、座ってくれよ。何か持ってくる。阪東、手伝ってくれ。」

ヒロミが阪東を台所へと連れ出して。
リビングには俺と綾瀬の二人きりになった。

さ…最悪のパターンだ。
今までの連中は、このタイミングで逃げていたから。


絶望感に苛まれる俺。しかし、そこで奇跡が起こった。

綾瀬は、言われた通り、何事もない様にその場に座ったのだ。


「あ、綾瀬。平気、なのか?」
「え?何がですか?」
「いや、ほら…あいつらホモで…」
「あ…もしかして二人とも、男なら誰でもイケるクチなんですか?」
「いや、違うけど…。」
「あはは、ならホモじゃ無いじゃないですか。」


綾瀬の言葉に、俺は思わず天を仰いだ。

ベース上手い、ステージング上手い、ホモに理解もある。
神様…最高の人材をアリガトウ…!!!

一番の難関を突破しても尚留まってくれた綾瀬に、
俺は派手なガッツポーズをしたのだった。



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その日の夜。

ミーティングがちょっと長引いた事もあって、
俺と綾瀬はヒロミ達の家に泊まる事になった。

いつものベッドジャンケンの勝者は今日も俺。
あーもうツイている。俺、ツイてるっ!!!

いつもなら、ヒロミと阪東がまたやらかさねぇかとビクつく所だが。
そんな心配も、これからしなくていい、なんて。

あーーやっぱり綾瀬は掘り出し物だ!!最高のベーシストだああっ!!!

そんな事を思いながら、俺は布団の中で目を閉じたのだった。




『ん…?』

目を開ける。気が付けば、俺はピンク色の部屋に居た。
何だ?ここは。と頭にハテナマークを浮かべながら、周りを見渡す。
見れば、露出度の高い服を纏ったオネーチャン達が、笑顔で俺を囲んでいた。

『うわーーっ!!何だここー!!もしかして天国!??』

甘い香りと共に、柔らかい肢体が俺の身体に押付けられて。
四方八方から、白い指先が皮膚に張わされていく。

『うぁっ…!』

耳を舐められた瞬間、びくんと身体が縦に揺れる。
そんな俺を見て、オネーチャンは楽しそうにくすくす笑った。

服の中に手を差し込まれ、胸もまさぐられる。
最近果てしなくご無沙汰だった久しぶりの感覚に、
俺は下半身が重たくなるのを感じた。

右から、左から、前から、後ろから。
弄ばれる感覚が、泣きたくなるほど気持ちがいい。


あぁ…やっぱり…やっぱり…オンナノコって最高だぁ…!!!


そんな感覚に酔っていたら、すぐ後ろから野太い声がした。

『気持ちいいか?常吉…?』

聞き覚えの有る声にハッと振り向くと、
そこには何とオネーチャンじゃなくて、幸三が居た。

『いいいっ!??幸三!??お、おおおオネーちゃんはっ!??』
『そんなものは最初から居ない。』
『へっ!?』

再び聞き覚えのある声。
ぶん、ぶんと横を向くとそこには国見と木場が笑顔で居た。

えええっ!!?国見はともかく、木場には秀虎さんが…!!
つーか、まさか、まさか。俺はこいつらに気持ちよくさせられていたのか!??

『な、なな…!!ななななな…!!!』
『仲間の為だ。頑張ろうな、小鳥。』
『よーし!欲求不満なツネにひと肌脱ごうじゃないか!!』

最後に前を向くと、そこに鎮座していたのは小鳥と、涼…。

エ?頑張るって何ですか??
つーか、何でテメェら全員すっぽんぽんなワケですか?

まさか。まさか。


『優しくするよ、ツネ。』


うわああああああああああああああああ!!!!!


オネーチャン天国から一変、地元の仲間達の登場で、
俺はその場で大絶叫したのだった。
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