SS.WORST ♯3

□舌先3分ゲーム
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※性的な表現が含まれます。自己責任で。

「へっ?」

集会場に入った途端、俺は不自然に声を上げてしまった。
何故なら、ここは俺たちの集会場。重ねて、集会時間間際なのである。
いつもなら、その条件が揃ったのならこの場は賑々しくあって然るべきなのに。
部屋の中に居たのは、何故か我らが副ヘッド…本間さんただ一人だけだったから。

「あっ、…チ、チィース!!」

副ヘッドを前にしての第一声が、間抜けな声だった事に気がついて。
俺は慌てて、本間さんに向かってぺこりと頭を下げた。
そんな俺を本間さんはチラリと一瞥し、“あぁ”とだけ声を発する。

本間さんから少し離れた壁に背を凭れて立つ。
椅子の類は先輩方、つまりは幹部の席なのだ。
つーか、頭や先輩達もだけど。タメの他の連中までも居ないとか。
一体どうしたんだろう。もうとっくに集会の時間だよな…。

「藤。」

この状況に頭を捻る俺の目の前に、本間さんから一枚のメモ紙が差し出される。
とことこと本間さんに近づき、そのメモを受け取って見れば、
そこには頭の字でこう走り書きされていた。


本間へ

おふくろの車が路肩に嵌って出られなくなったらしい。
ちょっと居るもの全員で手を貸して来る。
終わったら連絡する。留守番しておいてくれ。


「あぁ…なるほど、それで…。」
「そういう事だ。取り敢えず、連絡あるまで留守番だ。」
「ッス。」

しかしながら。俺以外、居るのは無口な本間さんだけ。
…という事で、この部屋はとてもとても静かなものだった。
静か、となると。やはり暇、という事になって。
自慢じゃないが、俺はこういう空気がとても苦手だった。

しかし、本間さんはこの沈黙すらも味方につけているらしく。
特に居心地の悪さを感じている様にも見られない。


あーあ…暇だ。皆、早く戻ってこねーかな…。


「…退屈そうだな。」
「えっ!?」

この空気を弄んでいた所、ふいに本間さんにズバリ言われて。
俺は思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。

「い、いやっ、…そんな事無いッスよ!!」
「嘘つけ。退屈だと顔に書いてあるぞ。」
「えっ!?マジッスか!??」

顔中をペタペタ触りだした俺に、本間さんは目を丸めた後、プッと噴出した。
本間さんの突然の笑顔に、俺は頬の温度が上がるのを感じる。
ちょっとだけ困ったように笑うその表情に、出会う確立はとても低いから。

「物の例えだ。本当に顔に書いてあるわけ無いだろう?」
「あっ、…そ、そうなんスか!?」
「ふふっ。お前、可笑しいな。」
「す、すんませんっ!!俺、バカで…!!」
「っ、はははっ。」

俺は、自分の失態に恥ずかしくて死にそうになっているのに。
本間さんは、そんな俺を見て楽しそうに肩を揺らす。

こんな本間さんが見れるのなら、バカでもいいかな、とか。
そんな風に思う俺は、やっぱり可笑しいのだろうか。

「退屈なら、一緒にゲームでもどうだ?藤。」

熱くなった頬を隠していると、本間さんからそんな提案。
元々、静かな空気が苦手な俺としては願ってもない。
拒むなんて、そんな選択肢は最初から無かった。

「いいッスね!どんなゲームッスか?あ、でも頭使う系は勘弁して下さいよ?本間さん相手だったら最初から勝負付いてるようなモンですから。」
「そんな事は無いと思うが…まぁ、でもコレは簡単だぞ。」

ほら、と出されたのは2本の割り箸。先端は本間さんの拳の中だ。

「??…これで、何をするんスか?」
「これのどちらか一本に赤い印が付けてある。それを引いた人間が、もう一人に何でも命令できるんだ。」
「ちょっ、ちょっと待って下さい!それって王様ゲームじゃないッスか!!」
「あぁ、そうだが?」

何事も無いようにケロリと答える本間さんに、流石の俺もたじろぐ。

別にゲームの内容云々はポピュラーなものだし、文句は無い。
しかし、これは決して二人でやるゲームでは無いだろう。
ましてや、この人数でそれが楽しいゲームになるのかなんて怪しい所だ。

「や、でも二人でやっても…。」
「いいじゃないか。シンプルだし、何より勝負が早くつく。」
「ま、まぁ、そうですけど…。」
「試しに一回やってみればいいだろ。」
「…分かりましたよ。」

何か、ゴリ押しされた感が否めないんだが。
でもコレって意外とチャンスなんじゃないか?と。
そんな不届きな考えが俺の中で頭を擡げてきた。

だって、あの本間さんに色々命令出来る、とか。
ちょっと…いや、かなり面白そうじゃねぇか?
何して貰おうかな〜。メシ奢れ?ヘン顔を写メとか??
いや、あの眼鏡を逆さまにつけて皆を出迎えるとかでも面白そうだな…。

「ほら、先に引かせてやるから。」

ぐいと目の前に割り箸を握った拳を出される。
俺はじっくりと二本を交互に見据え、その内の一本を手にした。


確立は二分の一。

勝負です!本間さんっ!!


**********************


そして、それから数分後。
俺は本間さんの隣で首をぶんぶん振り続けていた。

「や、ややや、絶対つまんないですってぇーーーー!!!!」
「王様の言う事を何でも聞くルールだろ?往生際が悪いぞ、藤。」

結論から言わせて貰えば、勝負は見事に本間さんの勝ちだった。
俺が勢いよく引いたクジは、ものの見事に無印のハズレで…。
結果、王様は本間さんになってしまった。
あぁもう…何で俺って二択を外す運命なんだろうか。

そして、王様となった本間さんが出してきた命令とやらが、
さっきから俺の首を横に動かす内容だったわけで。

キング本間の命令内容とは…『俺とスキンシップ』。

場所は椅子からソファに移動し、
思いっきりそれ目的な状況下に置かれてしまっていた。

「だ、だってっ!!俺の…。お、男の身体を触っても…。」
「…人肌が恋しい季節なんだ。」
「ガッツリ夏間近ですけど!!???」
「何だ?お前、王様に盾突くのか?」
「うっ。そっ、それは…。」
「ゲームに乗ったのも、負けたのもお前だろう?」
「〜〜わ、分かりましたよ!ちょっとだけですからねっ!」

承諾の言葉を告げたと同時に、ヒョイとサングラスを取られ、脇に放られる。
それによって、色付きだった光景から、視界がクリアになって。
本間さんの表情もキレーに見えてしまって居た堪れない。

つーか、何だよ。この手際の良さは…!!

本間さんが、ぎゅっと俺の身体を抱き締めてくる。
スラリと長い、尖った鉛筆の様だと思っていた身体。
それが意外と温かくて逞しい事に、俺は初めて気が付いた。

う。何か…ちょっと気持ちいいかも…こういうの…。

抱き締められる、という行為はここ最近ご無沙汰だった事もあって。
リラックスした俺は、ふにゃふにゃと腕の力が抜けていくのを感じた。

「………。」

本間さんが、俺の首筋に鼻を擦り付けて深く息を吸う。
何か匂いを嗅ぎ取られている様で、何処か居心地が悪い。
汗臭く無いよな?俺。香水もつけてるし…。


…って、あれ?

何で本間さんの顔がこんなに近くにあるんだ…?


突然、近づいてきた顔に驚いて、俺はつい固まってしまった。
その隙を突いて、本間さんは俺の口唇に自分のそれを重ねてきた。

「んんっ!??」

反射的に本間さんを突き飛ばそうとしたが、この行動は予想の範疇だったらしい。
俺の拳は本間さんの掌に捕まって、ソファの背に押し付けられた。

「んふ、んっ…ーーー!!!」

おしおき、と言わんばかりに。キスが先程から深いものとなる。
本間さんの握られた拳は、相変わらずびくともしない。
一体、あんな華奢な腕の何処からこんな力が出てくるのか。

いやいや、問題はそこじゃない。
あの本間さんが俺にキスしている事の方が大問題なんだって!!

「ぷはっ!!〜〜〜なっ、ななな何するんスかっっっ!???」

口唇が解放されたと同時に、俺は驚きも相成って全力で抗議した。
でも本間さんは、呑気に唾液で濡れた口唇を親指で拭うだけ。

「…お前がいいって言ったんじゃないか。」
「い、意味が違いますよっ!!まさかこんなのとは思わないし…」
「お前の思い込みだろ?…ほら、ジッとしてればすぐ終わる。」
「えっ、ちょっと…ほ、本……わっ、うあっ…。」

ふいに胸を撫でられて、思わずヘンな声が出てしまった。
頬の温度を上げる俺を尻目に、本間さんはくすりと笑う。

「…可愛い。」

今まで聞いた事のない様な、熱っぽい囁きに腰が砕ける。
…何て声を出すんだ、この人は。

「ちょっ、…本間さん…少しはオレの話をっ…!!」
「『待て』と『やめて』以外なら聞いてやる。」
「そん…な…っ!」
「ほら…たくさん甘やかしてやるから。」

再び、俺は本間さんの腕の中に捕まった。
本間さんの声が、言葉が。俺の胸をガンガンと撃ち殺していく。
それは、ぼそりぼそりと小さいものだけども、とても低くて、重たい。
まるで殺傷能力の高い弾丸の様だ。

「口、開けて…。」

言われるがまま、無意識に本間さんの舌を口腔に許してしまい、
いつのまにか、俺はその甘さに縋るしかなくなっていた。

体温が低そうなこの人の舌先は、
意外と火傷しそうな程に熱い事を俺は知った。

「んふっ…ん、…っ…!」

濡れた肉に、口の中をザラザラと愛撫されて。その気持ちよさに視界が潤む。
甘い息が鼻を通り、呼吸する事が次第に苦しくなってくる最中に、
背中をザワザワと上下に撫でられるて、俺の心臓の音はどんどん煩くなっていった。

「ふぁ、…んく…!!はっ…!」
「こら。零したら駄目だろ?」

本間さんが、唾液で汚れた俺の顎を拭いながら苦笑する。
そんな事言ったって。それはアンタのキスが激しいからで…。

「ほら、今度は零さないように。…もう一度、な?」

口唇の皺を、ゆっくりと啄ばみながら。
本間さんは何かの先生の様に、俺の舌を導いていく。
その力に、俺は知らず知らず、自分を委ねていった。
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