SS.CROSS ROAD ♯1

□俺たちの七日間戦争〜終わりの日
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※始まりの日から順にお読みください

終わりの日



「…おう、心配かけたな。え?あぁ、大丈夫…うん。」

あれから、ヒロミは斜線が引かれたリストを手に、
俺が電話をかけた所、全箇所に弁解の電話を入れ続けていた。

一通り、言い合って殴りあった俺たちは、東京に戻ってきた。
それによりこの部屋にも、またいつもの日常が戻ってきていた。



帰路の途中。ヒロミに、何で菅田さんの墓に行ったのか、
理由を聞いてみたらこんな返事が返ってきた。


『アンタを俺にくれって言いに行った。』


ったく…大人ぶってたかと思ったら…。面倒くせぇ奴だ。



「うん、じゃあな。あーい。…ねぇ、アンタ一体何件かけてんだよ。」
「さぁな。」
「ったく…これ全部にかけんのー?…って、げ。まだ半分もいってねぇ…。」

電話を切る度に、横で肩を落とすヒロミに同情の余地は一切無い。


それだけ心配して、必死になって探したんだ。俺は。

少しは反省しやがれ、ボケ。


「ほら、無駄口叩いていないで。次。」
「へいへい。」

ヒロミも自分が悪いと自覚がそれなりにあるらしく。
文句は多いが、素直に電話をかけ続けている。

来月の電話代が楽しみだな?………お互いに。


「えぇ?ここ、打ち上げで使っている居酒屋じゃん。こんな所も電話したの?」
「…あぁ。」
「あぁ、って…アンタ。家出中に、居酒屋なんかに行くわけないじゃん…。」

確かに、言われてみればそれもそうだな。

まぁ、よく利用しているし。俺たちの風貌は目立つから。
そこの大将は覚えてくれていて、今回の相談も快く承諾してくれた。

「!」

そこで、俺にある考えが閃いた。

「…わかった。そこは俺がかけよう。」
「え!?何?手伝ってくれんの?」
「いや、そこだけ電話してやるだけだ。」
「えぇ〜〜…でも、まぁいいや。一件でもかけてくれるなら助かる。」


朝から電話をかけ続けているせいで、ヒロミの頭はそれなりに疲労しているらしく。
洞察鋭いはずのヒロミだったが、今だけは俺の意図が読めなかったらしい。


俺はリストを受け取り、居酒屋の番号を押す。
ヒロミの顔が青ざめるまで、あと3分弱。


「あ、もしもし。阪東です。はい…見つかったんで。連絡をと…はい。」


「で、急なんですけど。今日、7時から3名予約いいですか?」


「大丈夫ですか?じゃ、3名で。はい、お願いします。」


「あ、それと刺身の舟盛りを3人前用意しておいて下さい。じゃ。」


いきなり店の予約をし始めた俺を、ヒロミは何事だと顔を上げた。

でも、もう遅い。諦めろ、ヒロミ。


店の予約を終えた所で、俺はメモリからツネの電話番号を呼び出した。


俺たちの一番近い『仲間』だって、お前を心配してくれたんだ。
きっと俺とヒロミが地元に帰っている間も、探してくれてたんだと思う。


っつー事で、好意には誠意で返せよ?ヒロミ。



「えっ…ば、阪…?」
「あ、ツネ。今日7時から酒盛りするぞ。あぁ、いつもの所だ。」
「ちょっ…ちょっと待て!阪東!何を…」
「あぁ、心配かけた侘びにヒロミが奢るそうだ。」

そう言った直後、ヒロミの顔からは血の気が失せる。

「ちょっ…お、おいっ!何だよ奢りって!」
「じゃ、また後で。」


ピッ。


「ば、阪東…!!」
「これ位してもらわねぇとな?」
「マジかよ…ザルのお前を居酒屋なんか連れていったら破産しちまうじゃねぇか…!」


そう頭を抱えるヒロミの身体に、俺は小さく笑う。

膝を立て、ヒロミの隣に座り直すと、そのまま俺はぴたりとくっついた。


「ん?」
「………。」


黙ってくっつく俺に、一瞬ヒロミは何事かと目を丸めたが、
俺の意図を理解したらしく、目元を綻ばせた。



今回の件で分かった事だが。
どうやら、俺達には『意思表示』が欠落しているらしい。


怒る時は怒る。甘えたい時は…甘える。

帰ってきた俺達は、二人のルールとして、そう決めたのだ。



ヒロミが猫の様に、俺の首に擦り寄ってくる。

その黄金色の毛並みに、俺は柔らかく口唇を寄せたのだった。





END
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