連載ブック
□最果ての空に溶けた想い
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「あんたの顔見るだけで吐き気がするのよ。」
顔を合わす度に言われていた、女の言葉。
「お前は部屋に戻っていなさい。」
その度に言われる父の言葉。
「早く売ってしまえばいいのに。」
「まぁまぁ、今はまだいいじゃないか。」
扉越しに聞こえた二人の会話。
冷たいベッドに、乾いた温もり。
父の取引相手。その大抵と夜を過ごした。
別に、嫌じゃなかった。
それでいいと思ってた。
父の役に立っていると思った。
一人になるのが怖かった。
彼の手は、温かかった。
その視線の先にあるのは、私なのだと思ってた。
「もう、泣くのは止めたのかぃ?◆」
奇術師の言葉。
私が聞きたいのは、その声じゃない。
『イルミに、会いたい』
「…会わせてあげるよ◆」
その言葉を残して、
奇術師は部屋から出て言った。
抱きしめて。
そんなことは言えなくとも、
それでも
彼に会いたい。
最果ての空に溶けた想い。
(奇術師は、嘘つき)