少年陰陽師

□静かな音色を守り抜け
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 唸り声が屋敷に響きわたる。そこには呪詛が込められていた。
 しかし、太裳の結界により、発動することはない。

「安倍の屋敷で呪詛を行うなど、無駄なことを……」
 枕元に座り、騰蛇は物の怪の姿で一度も目覚めない昌浩を見守っていた。心情を表すように、尻尾が落ち着きなくそわそわと動く。
《………》
 そして、六合もまた沈黙を守りながら彼らを見つめていた。

 呼吸さえも聞こえるほどの中で、多少なりともされた会話。
《騰蛇、昌浩が倒れて何日になる?》
「今日で2日目だ。昌浩……」
《そうか。》
 騰蛇と六合、闘将が2人いながら守りきれない。
 目の前で眠る昌浩が、更に2人の心をえぐった。

 時ばかりが無駄に過ぎていく。その静寂は小さな呻き声を聞き逃さなかった。
「う…ぅん……」
「……昌浩?昌浩っ!しっかりしろ!!」
 耳元で叫ぶ物の怪の声がだんだん大きくなっていく。
 騰蛇だけではなく六合も腰を浮かせ、その様子を見つめた。

「ここ…は……?もっくん……だぁ」
「なぁにが……もっくんだぁだっっ!心配させやがって!!」
 つい口が悪くなる。しかし、その胸中が安堵で溢れているのを昌浩は知らない。
 床から起き上がろうと悪戦苦闘している昌浩に手を貸すため、六合も腰を上げるのだった。
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