捧げ物・宝物
□好きな色
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結界で覆われている安倍邸。それは、どんな妖も侵入を許さない。
しかし、ここに例外が一匹ーー
前足を交差させ、そこに顎を乗せている。
目を閉じピクリとも動かない。動くのは風で揺れるフサフサの白い毛並み。
そして、夢の中の映像のみーー
夕暮れ時ーー
部屋は暖かな赤色一色に染まっている。しかし、簀には異なる色が佇んでいた。
《昌浩、そろそろ部屋へ戻らないか?》
『やぁ!まだいるの。』
風邪などひかせたら、彼を溺愛している主に何を言われるか……
『れん、降ろして!』
急に高くなった視点ーー
それに抱き上げられたと分かったのか、バタバタと暴れる昌浩。
《ダメだ。風邪でもひいたら大変だろ。》
自分のためを思って言われているのが分かるのか、急に大人しくなる。
《部屋に戻るぞ。》
『………ぅん。』
どこか棘のある返事だったが、それに構わず自室へ戻る。
自室の妻戸を閉めると同時に、消えていく部屋を染めている赤い色。
それを見た昌浩の一言が、騰蛇を混乱に落とし入れることとなる。
『閉めちゃダメッ!れんが少なくなっちゃう!』