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□the アンパン
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 真夜中の公園。何かの漫画のお約束通り、ここにはヤンキーの兄ちゃん達がたまっていた。
「あー、アンパン吸いてー」
 そのヤンキーのうちの一人、会社でいう部長クラスの男がこう呟いた。……その一言が破滅への第一歩になるともしらずに。
 彼は昨日このグループに入ってきたばかりの新入りに命令をする。
「おい新入り。お前アンパン買ってこい」
「はい、分かりました!」
 そう言って新入り君は夜の町の中に消え、十分後に戻ってきた。
「アンパン、買ってきました」
「分かった。こっちによこせ」
 そう言うと男は、アンパンを口に頬張った。
「そうそう、あんこはやっぱりつぶあんだよな。……ってバカ!!」
 見事なノリツッコミをかまして男は新入りを怒鳴る。
「手前(てめえ)なに本当にアンパン買ってきてんだよ!! アンパンつったらシ○ナーのことだろ、このアホ!!」
「スンマセン!! なんせ自分、昨日ヤンキーになったばかりなんで」
「昨日ヤンキーデビューかよ!! まあいい。とにかくアンパンつったらシ○ナー。これヤンキーの常識だから覚えとけ」
「ハイ、わかりました! ……ところで何でシ○ナーのことをアンパンって言うんっすか?」
 新入りの問いに男は答える。
「それはだな、シ○ナー吸ってる格好がアンパン食ってるときに似てるから、シ○ナーのことをアンパンって言うようになったんだよ」
「へえー。先輩って物知りなんっすね!」
「おう、ヤンキーの事から恋の悩みまで、何でも聞けよ!!」
「恋の悩みは俺彼女いるから大丈夫っす。それに先輩、年齢=彼女いない暦じゃないっすか」
「……手前殺す!!」
 完全な八つ当たりだが男は新入りに制裁を食らわせようとした。まさにその時だった。
「お前ら、何してるんだ?」
彼等の目の前にこのヤンキーグループのリーダー、袋小路 翔太(ふくろこうじ しょうた)が現れた。
「あ、袋小路さん! ちょっと聞いてくださいよ。さっきコイツにアンパン買わせに行かせたんっすよ。そしたらこいつこんなの買ってきたんすよ」
 そう言って男は袋小路にアンパンを渡す。それを見た袋小路の顔は怒りの色に染まり、新入りの胸倉をつかんだ。
「手前なめてんのか? こんなもん買いやがって」
 リーダーである袋小路に胸倉をつかまれ、顔を真っ青にする新入り。
(へん、ざまあ見ろ)
 男は心の中で呟く。袋小路はさらに言葉を続けた。
「こんな、つぶあんなんか買いやがって、俺が純粋なこしあん派だと知っていてこんなことしたの!?」
(えええええ!? そっちぃぃぃ!?)
 本当は声に出して叫びたかったが、袋小路が怖いので男は心の中でツッこむ。
「スイマセン!! 何せ自分、昨日ヤンキーになったばかりなんで」
(いや、ヤンキーとあんこは関係無いだろ!!)
「それに俺も、あんこはこしあん派です!!」
(じゃあ何でお前つぶあん買ってきたんだよ!! 完全に意味分かんねー!!)
「そうか、お前も同士か! 気に入った!! お前の名前は?」
「はい! 越川 安次郎(こしかわ あんじろう)、あだ名はもちろん『こしあん』です!!」
「マジで!? ますます気に入った!!」
(しかも何か袋小路さんに気に入られてるし!! つぶあん派かこしあん派かってそんなにこのグループで重要なことなのかよ!!)
「ところで。おい、お前も当然こしあん派だよな?」
 急に袋小路に話を振られ、慌てながらも男は答える。
「は、はい! 俺ももちろんこしあん派っす!!」
「あれ? でも先輩さっき『あんこはつぶあん』って言ってたじゃ」
「ああ、あれは冗談だ。あんこはこしあんに決まってるだろ!」
 ぶっちゃけ、つぶあんだろうがこしあんだろうがどうでもいいのだが、変に損しないように取りあえず袋小路に合わせた男。人間という生き物は本当に醜い生き物である。
「おーし、お前ら! 今からこの辺りのヤンキーをシメに行くぞ!! そして奴らに、こしあんの素晴らしさを知らしめるのだ!!」
『オオ―――!!』
すさまじい声が公園に響く。袋小路や越川だけでなく、どうやらこのヤンキーグループ全体がこしあん派らしい。
(無駄にテンション高えな)
 男はそう思った。だがこの叫び声は
「そうは行きませんよ」
 という、知的な声に消された。ヤンキー達は声の主に顔を向ける。
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