十年後

□病にかかっている男
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彼の名はトライデント・シャマル。

333の対になる病を666身体に宿す闇の医者。

しかし彼にも治せない病があるらしい。





































【 病にかかっている男 】






































「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
荒れ果てた部屋…
否。
部屋があった空間に立ちながら、青年は確信した。

「やっぱ俺って・・・」












今更だが、これは。
「二重人格、だよな?」

二重人格。
一人の人間の中に二つの全く異なる人格が交代して現れること。
三つ以上の人格が現れる場合は多重人格という。

医者なんだから専門違うとか硬いこと言わないで相談乗ってよと久しぶりに其処へやってきた青年は、真剣な顔をしながら相手の解答を待つ。
しかし見つめられている方の医者はかなりやる気がなかった。
ついでに言うと青年を見てもいなかった。
「んーー」
「やっぱり・・・」
yesともnoともとれる適当な答えに悲痛の面持ちで項垂れる青年。
露出度が高いというか申し訳程度しか布を纏っていない女性達の載った雑誌を幸せそうに眺める医者。
「わかってたけど。今まで全然気にしてなかったからな・・・」
「おぉ」
「皆も気にする必要ないって言ってくれてるんだけどさ」
「ほほー」
「でも一応ボスの身の上の俺としては、怒りに任せて行動したくはないわけで・・・。
って聞いてんのシャマル!!?」
「うへへ」





殴られてエロ雑誌を取り上げられた男―シャマルは不満げに訴えた。
「いってーなぁ、ボンゴレ坊主。何すんだ」
「人の話、っていうか患者の話は聞けよ!」
青年―ドン・ボンゴレこと沢田綱吉は赤い顔をして怒鳴る。
雑誌の内容にやっと気付いたらしい。
「性転換してから出直してこい」
「気色悪いこと真顔で言うなぁ!!」
まともに聞かない医者にツナはシャーと突っ込む。
結構本気で言っていたシャマルは仕方なく対応することにした。
真面目に言ったのにとか言ったら息の根を止められそうなので。

「でー?
お前は何が不満なんだ」
「…覚えてても、見えてても、暴走してるのは変わらないし。
・・・・・・皆に迷惑かけるのが、嫌なんだ」
「周りの奴らは何て言ってんだ?」
「獄寺君は・・・」

『十代目はいつもお強くて麗しくて素敵で最高ですよ』

「褒められてんじゃねーか」
「もう1人の俺がね。
っていうか言ってることいつもと変わんないし」







「雲雀さんは・・・」

『あぁ、咬み殺したくなるよね(舌なめずり)』

「・・・・・・・気に入られてんじゃねーか?」
「何で間が空くんだ疑問系なんだこっちみてそう言え。
命が危ないんだぞ!?」







「リボーンは・・・」

『そそるよな(ニヒルな笑みと流し目)』

「・・・・・・・夜、寝るときドアの鍵は閉めとけ?」
俺に出来るアドバイスはそれだけだとばかりに生暖かい目をするシャマルに真っ青になって抗議する。
「アイツには鍵なんかあって無いようなもんなの知ってる癖に・・・ッ!!」









「コロネロは・・・」

『き、き綺麗だと、お、思うぜ、コラ!』
『コロネロまでそんなこというの!?
あれは俺じゃないの!』
『いつもは可愛いぞコラ』
『!!!』

「惚気か・・・?」
嫌そうな顔のシャマル。
「ち、違う!
だって素で言われたらどう反応していいかわかんないだろ!!」









「山本は」

『? はいぱーもーどの時のツナ?』

「・・・・・・・・・あいつまだ気付いてねーのか」
「山本だから」









「骸は・・・」

『ご存知ですかボンゴレ。
恋というのは人を美しくするものなんです。
ハイパーモードの君と一番初めに会ったのは誰だったか思い出してみて下さい。
・・・そう、僕なんですよ』
『まだ何も言ってないんだけど』
『嗚呼あの時の貴方の涼やかな眼差し・・・。(身悶え)』
『(身震い)・・・・・・・・』
『僕と出会い君は益々美しくなった・・・、それが意味することはつまり、』

「やっぱいいや」
「いいのか」
「なんか言ってもしょうがないことだったし。
他の人達は」

『手合わせしたくなるぜぇ』
『・・・嫁に来い』
『ドレス似合いそうだよね♪
あ、花は何が好き?僕としてはコレが一番合ってると思うんだけど♪』
『如何違うのだ?沢田はいつでも極限素晴らしいではないか!』
『もっと詳しくデータ欲しいからもう一回やって』
『綺麗になったよなツナー。
そろそろ身固めようとか考えてねーか?
ここに丁度カタログがあんだけどな…』
『そんな謙遜なさらなくても。奥ゆかしい…。
沢田殿のような方が大和撫子というんですね』









長々と話終えたツナにシャマルは呆れる。
「どいつもこいつも気にしてねーってことじゃねーか」

この青年がどんなに好かれているかわかっただけだ。
面白くも無い。
「まぁ、そうなんだけど。
でも皆あんまり話聞いてないみたいだったしなー…」
肘を付き嘆息したツナは其処で目の前の医者に向き直る。
「じゃーさ、その。シャマルは、どう思ってる・・・?」
上目遣いで尋ねるツナにシャマルは面倒そうにいつの間にか取り戻していた雑誌を捲りながら答えた。
「あー?別にボンゴレ坊主はボンゴレ坊主だろ」
「・・・・・・・」
「それ以外に何て言って欲しいんだ。
んな馬鹿なこと考えてる程暇なのかお前」
「・・・・・そーだよ、ね」
そっけないが欲しかった解答に、ツナは微笑した。







時々不安になる。

皆が頼っているのはもう一人の自分で、今の自分ではないのではないかと。
とても皆は優しいから、そんなこと言わないだけなんじゃないかと、勘繰ってしまう。

そんな自分は嫌だった。
でも誰かに言って欲しかった。

どんな姿でもお前はお前。だから気にするなと。
そんな小さなことで悩むなんて馬鹿かなどと笑い飛ばして欲しかった。

だからシャマルのところへ来た。

シャマルは徹底的に女性が好きだから、男に冷たい。
本当のことしか言わないから。








勢いをつけて立ち上がる。

「よし、なんか元気出てきた!
ありがとシャマル。話したら気が楽になったみたいだ」
「ドン・ボンゴレのお役に立てて良かったですよ〜」
「じゃ、お仕事邪魔してごめんね。また今度!」






10年前と然程変わらぬ後ろ姿を見送り、シャマルは椅子に座りなおす。
「ほんっと邪魔だよ・・・」



暫く会っていなかったから、やっと忘れかけていたところだったのに。



「これじゃあ、ベティちゃん達見てても意味ねーじゃねーか。
なぁ?」
雑誌の表紙で妖艶に微笑むブロンドの美女を撫で、嘆息する。

ポーカーフェイスが上手い方で良かった。


























裏世界で最も病に強い男が恐れるのはドン・ボンゴレ。

いつの間にか勝手に心に侵食してくるやっかいな存在。
































「・・・・・・・・・エロ本よりも凄い特効薬とかないかねえ」

碌に見ていなかった雑誌をゴミ箱へ棄てた。








































彼の名はトライデント・シャマル。

333の対と一つの病を身体に宿す闇の医者。

未だその病は治らない。




















<fine>

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