参加者さまの作品

□目眩がするほど
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「元気そうで何よりだよ」
久々に聞いた親友の声は、昔と少しも変わっていなかった。
「……お前も、な」
「俺は皆が笑ってくれる限りはいつだって元気になれるのさ!」
奴の、いつも通りの、笑顔。

例えそれが、犯罪者となった男の前でも。
例えそこが、獄中であっても。

「何故わざわざここに来たんだ」
「嫌だなあ、ヒューイ」
親友は、その言葉により楽しそうに笑った。
「親友に会いたいと思うのは当たり前だろ?」

親友、か。
その言葉に苦笑する。
よもや犯罪者にそのような言葉を投げ掛けるとは。

「私にお前の親友の資格があるとは思えないな」
「どうして?」
どうして、と来たか。
「分からないのか?私は昔、お前と……」

約束した、はずだ。
周りの人間を不幸にしない、と。
今ここにいるということが、俺が彼との約束を守れていない何よりの証拠ではないか。

しかし、彼は不思議そうに、首をかしげる。
「どうして?だって君、今回はテロをしたけどさ、無関係な人は別に誰も巻き込んでないんじゃないの?」

……それは、その通りだが。
しかし、どうしてこの状況でそう言い切れる?

「ね、そしたら、まだヒューイはヒューイだよ。まあ俺個人的にはもう少し皆を笑わせて欲しいなあと思うけどね。でも、俺の親友には変わりないじゃないか」

……揺れる。
この男は、どうしてこうもいつも通りなのだろう。
「……」
これでは。
まるで、自分が馬鹿みたいではないか。

彼がもう自分を親友だと思ってくれないのではないか、と一瞬でも考えてしまったことが。
「だからさ、」
だから、
「とりあえず、笑おうよ」
俺は、この男が苦手なのだ。
『親友』と呼べる仲になった今でさえも。

人の領分に、我が儘そのものな考え方で分けいってきて。
そしてどんな相手にも必ず、笑顔を主張する。

「……ああ、そうだな」
だけれども。
俺はーーー決して彼が嫌いではない。

彼のいつものままの狂った眩しさに、俺は納得するのだ。

俺はまだ、『人』なのだ、と。
例え不死の体であっても、冷酷な研究者であっても、彼の前では人間でいられるのだと。

「うん、久し振りにヒューイの笑顔が見れて良かったよ」
そう笑う彼の顔はーーー自分には目眩がするほどに、眩しい。

でもだから、だからこそ。

「……相変わらずだな」
俺は、お前の前でだけなら、笑うことができるんだ。






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