小説(短編集)
□酔いに溺れて…
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「ごめん…」
オレの機嫌の悪い原因を理解して、男は謝る。
ガチャッ、とドアを開ける音が聞こえその方向を見ると男の姿はなかった。
「ティキ?」
小さく男の名前を呼ぶが、返事はない。
(怒って帰っちゃったんかな?)
少し罪悪感を感じながら再び目を閉じた。
ガチャッ
しばらくして再びドアの開く音が聞こえた。
(帰ってきたんかな?)
あまりの頭痛に目を開くことは適わなかったがその音に反応し、顔だけそちらにむける。
すると、額にひんやりとした感覚が現れた。
「なに?」
突然の感覚に驚き、がんばって少しだけ眼を開けて訊ねる。
「濡れタオル。少しは楽になったろ?オレよく二日酔いになるから、イーズがよくやってくれんだ。結構きくだろ、これ?」
心配してくれてたんだ…
なのにオレ…
「ありがとさ、ティキ。ごめんな?さっき…」
「気にしなくていいよ、寝てな」
「うん、ありがと…」
再び目を瞑り、夢の中に入ろうとする。
しかし…
「ティキ…」
「ん?」
「帰らないよね?」
「え?あぁ…なんで?」
「見えないから不安なんさ。オレ、今日はなんもできないけど、そばにいてほしい…」
「ラビ(キュン)…安心しな、ずっとそばにいるから…」
「うん…」
ティキの声を聞いたら、なんだかすごく安心した…
だから…
「ティキ」
「こんどはなに?」
「なんか喋って」
「は?」
『寂しい』
自分で言っても恥ずかしいが、本当だから仕方がない。
「喋ってって言われても、なに喋ればいいのか」
「眠れねーの、ティキの声…聞いていたい」
「ラビ…なんでそんなお前は可愛いんだ///」
微かだけど、ティキの声が震えている。
「んじゃ、俺の母国の子守唄歌ってやるよ。よ〜く聞けな?少年…」
「…う、ん」
〜♪〜♪〜
ポルトガル語の子守唄
ポルトガル語はまだ勉強途中で、歌詞の意味はよくわかんない。
でも、単語なら少しぐらいなら分かる。
歌詞の中に聞こえる『安らぎ』や『喜び』など聞こえて、安心感をひきたてる。
歌のリズムもオレ好みな感じだし、ティキのテノールの声ととてもマッチしてすごく気持ちいい。
心地よさの中で、オレは夢に堕ちた。
「寝た…かな?」
スヤスヤと寝息をたてて眠るラビを見て、ティキは微笑んだ。
「おやすみ、夢の世界の兎さん♪」
翌朝、二日酔いの朝は
いつも以上にすがすがしかった。
end
<おまけ>
「ラビ!!いつまで寝とるんじゃ!!」
ゴーレムから聞こえる怒鳴り声。
「うるせー、じじぃ。もう起きてるよ!!」
「昨日はよく眠れましたか?」
「あんなに飲むからだ、馬鹿兎」
「誰のせいだと思ってんだ…」
せっかくの夢気分がだいなしさ