兎虎小説

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俺と友恵が会ったのは、高校生の時だ。彼女を見た時から、俺は恋に落ちていて。
それが実った瞬間をよく覚えているよ。
だってさ、俺の初恋で、友恵もそうだったんだからさ。


バニーちゃん。これからする話に質問はなしだ。
だって?だってって…わかってくれよ。俺は、初恋で実った奥さんの話をするんだぜ?

バニーならわかってくれると思って話してる。ほんとは、こんなこと言いたくない。俺と、友恵の中だけでおさめたかった話なんだよ。
でも、バニーちゃんが【ウロボロス】を探してる…友恵を知ってるか?って聞いてきた時、「ああ、俺はこの話をしなきゃならないんだ」って思った。
はは、我ながら臆病な言葉だったって俺笑っちゃうよ。
…友恵と出会った17歳は、普通だった。いつものように学校来て、俺としゃべって、勉強して、委員会の仕事もしていた。ん?ああ、友恵はあんとき学級委員長だったよ。何でもかんでも「虎徹くん、風紀が乱れてるよ!」とか「勉強はちゃんとしなくちゃ馬鹿になっちゃう〜」とか眼鏡越しから睨まれちまって……、まああ、可愛かったけど、、って、いたっ!!痛いってバニーちゃん!わかってるよ、今思い出に浸ってる場合じゃないってことくらい!
楽しかった高校生活ってやつだ。俺は友恵とこのまま結婚したいって思っていたし、子どもだって欲しいって何度も願った。
プロポーズは盛大に!かつ感動系だ!って…考えてた俺に友恵は言った。

「そろそろ結婚しませんか?」って。
俺、女性から逆プロポーズされたの初めてだったから頭ン中真っ白になっちまってよお。友恵、かわいいんだけどさ、結構男勝りというか…俺が頼りなかったのかもしれないけど、「虎徹くんは黙って私と幸せになればいいの」って俺の手をぎゅうううっと握ってきたもんだから、「友恵ちゃんは、うちで俺の帰りをいつまでも待ってくれんの?」っつって、言っちゃった。
今思うと俺、そうとうなよなよしい男だったんだって。
ただ単に。友恵がいつまでも言わない俺に喝をいれるために言ったんじゃないかって思うけどその話は今しないわ。意味ないし、ウロボロスに関係ないしな。
そんで、両方の親と会って、無事結婚!初恋は実らないって聞いたことあったけど、ありゃウソだった。だって現に俺友恵と結婚できたし楓って言うかわいいかわいい娘が出来た。
バニーちゃん、俺が酔ったとき、お前、写真見たろ。
そうそう、コレ。
なあんかバニーちゃんの家族じゃないのに大切そうに抱えて、俺に……、ちゅ、ちゅーしたし?え!?なんで叩くの!!悪かったよ、本意で起きてたわけじゃないけど、記憶に、残ってた。嬉しかったし、大切に、友恵と楓と俺がうつってる写真抱えてくれたのはな。…もう少しで唇同士がくっつきそうだったんだ。戒めのためにもうバニーちゃんとは飲まないぜ?
……ごめん、泣くなよ。え?泣いてない?…ごめんな、こんなおじさんがバニーちゃんの隣りにいちまって。俺、もう少し、考えるよ。…うん?教えない。せいぜい悩みなさい青年。

話戻すわ。
友恵と結婚して、すぐトップマグでヒーローの採用試験を受けた。楓は生まれたばかりで苦労が絶えなかった。だからここで採用されて、ヒーローになって生活を支えたかった。もちろん、受かって、晴れてニューヒーロー・ワイルドタイガーとして市民の救助活動を行なったんだ。
その時はポイントなんて関係ない、市民の命がモットーだったな。だけどさ、先輩ヒーローからイジメ…みたいな扱い受けちまってよ?危うくAV出させられそうになった。ああ?言わねえよ。昔なんだ、もう憎んじゃいない。そんな怖い顔すんなよ!
俺、ちゃんと意思を持って言ったよ。「必ずKOHになって先輩を大変な目に合わせませんからね!」って。そしたら文字通りKOH!!びっくりしたし、ファイヤーエンブレムからあっつーい抱擁ももらったわ…うわ、今考えると俺何やってたんだろな!あ、これ絶対ファイヤーエンブレムに言うんじゃねーぞ!?
……んで、KOHになってから俺の年収はウナギ登りよ。テレビだって出演したしドラマ、雑誌、アイドル…そんなの最初は嫌だってトップマグの上司に言った。「これもワイルドタイガーの人気だ」なんてもっともらしいこと言ってきた。
でもそんなことに慣れちまった。腹くくったし、友恵にも「虎徹くんドラマに出てるね。かっこいいよ」なんて褒めるから自然にな…。でもさ、そん時から友恵の思いというか、行動が読み取れなくなった。

笑ってるのに、「あれ?友恵今何考えながら俺と話してんだろ?」って。
楓もまだちいさい。結婚したばっか。幾重も苦労があると、人間相手の行動が奇怪でも問いただせなくなるんだよ。俺みたいに。
それと重なってトップマグがアポロンメディアに買収。俺は前のスーツから今のスーツに変わった。それがヒーロー三年目…だったな。スカイハイだってまだ新人でよお?がっぱがっぱ人助けるわ犯人捕まえるわでKOHの俺としては最悪でかっこいいヒーロー・スカイハイにびっくりした。それでもKOHの根性と先輩としての活躍があったおかげで栄えある栄光は俺のもとに居座り続けた。
輝かしい称号に黒い絵の具をぶちまけたように、電話が来たんだ。

「ぱぱ、ままがいないの」ってな。

「―――…それって、」
「…質問はなしだって言ったろ?黙って聞けよ」

3歳の楓はしっかり者で、電話番号さえ紙に書いて楓の見える位置に貼っておけば自分ちの電話から俺や母ちゃんのうちに電話が繋がる。頭がいいこはママがいなくなっても泣かないし、電話で助けを求めることが出来るのさ。
俺は焦ったよ。でも、思った。友恵は寝ている楓を起こさないで買い物に行ったんじゃないかと。
でも楓が掛けてきた時間は午後七時。どう考えても友恵はご飯作って待ってた時間だし楓もアニメを見ていた時間だった。泣かないでしっかりとした声で話す楓に聞いたよ。

「ママ、どっか行くって言ってた?」ってね。そしたらなんて答えたと思う?
「うおおおす」。最初「は?」って楓に言っちまったけど、とにかく楓ひとりはかわいそうだと思って仕事を早く終わらせた。「今パパ帰るから大人しく待っててね」って切って。
車を飛ばして、鍵開けて楓を抱き締めた。ひとりで腹空かせて待ってた年端もいかないちいさな娘を待たせたと思ってな。友恵はどこに行ったのか俺には把握出来なくて、ひたすら楓のつたない言葉で考えたんだ。
友恵は俺から逃げていない。DVだってしてないし楓を愛してくれている。離婚だって考えたことないって。
楓は、ママにクローゼットに隠れていろって言われたらしい。俺は楓になんでママが隠れてって言ったんだ?って聞いたら、「こわあああいおいしゃんにおしりぺんぺんされう」っつって俺に抱きついた。かわいい娘に抱きつかれた時は嬉しかったけどさ、要するに「怖いおじさんに殺されるよ」って伝えたかったんだと思ったな。おしりぺんぺんは子どもにとって殺されるほどの恐怖だし?バニーちゃんも…いや、なんでもない。そうだよな、えらいこはおしりぺんぺんはないわな…。
とにかく、楓の言いたいことはこうだったんだよ。そしてさ、俺の顔見たら泣いちゃって。必死に泣くまいと頑張ってたんだよ。ママがいないのを、必死にな。なあんかやっぱ3歳児にとって孤独はおばけと一緒で泣き出したら止まんないの。びーびー俺の服掴みながら鼻水垂らしちゃって…。パパの耳取れちゃうよ〜って言いながら楓をあやしよ。

泣いて疲れた楓を抱きかかえながら、俺は友恵に電話した。でも、繋がらなかった。
コール音はするんだけどな?なかなか友恵が出てくんないの。これってもしかして事件に巻き込まれた!?って俺、早とちりしちゃう性格だからドキドキして、手汗半端なかった。でも楓の身体を離さまいと必死で。友恵が出てくれるまでコールし続けた。
寝るなんて馬鹿なことはしなかった。いつ友恵が帰ってきても俺が笑顔で迎えられるように、起きてた。ヒーローが寝不足なんておかしいだろーが、俺は自分の奥さんを諦めて寝るタマじゃないんでね。
そんで、結局友恵が帰ってくることはなかった。季節は…クリスマスかな。
俺は一度、楓を母ちゃんと兄貴がいるオリエンタルタウンの実家に預けて友恵を探した。楓に直接あげようと買ったクリスマスプレゼントは郵送して。ああ今10歳だけど、会える日数は手で数えるくらいしか会ってない。あの、友恵が失踪した日から…な。
3歳の楓が言った「うおおおす」って、よく考えたら「ウロボロス」って言ってたと思って、ウロボロスに関する情報をひたすら探した。友恵はなにかウロボロスと関わっていると思いながら。
図書館に言っても犯罪情報はそんなにないし、ウロボロスという言葉すら見つからなかった。
アッバス刑務所にも行ったなあ。あ、そういえばウロボロスについてめちゃくちゃ問いただしてた少年がいたけど、あれもしかしてバニーちゃんだったり?…マジで?え?うっそー。あんときの少年お前だったの!?はああ〜…妙な縁だな…。
俺?俺は裁判見て呟いたあの囚人にあったよ。でも奴はもうダメだった。精神が崩壊したんだ。もともと犯罪者ってーのは大半が異常をきたしている奴らだ。冤罪や犯行目的なんてのはひと握りしかいないのさ。奴も異常者だった。俺が何度もウロボロスについて聞いてんのに変な言葉発して発狂してんの。もうやんなっちまったよ。こっちまでおかしくなりそうでさ。
それでも友恵のために情報をかき集めた。そうしたらひとりの男がウロボロスのマーク見せてきて。「元ウロボロスにいた」っつったんだよ。俺、最初はひっかけて騙すヤツかと思って疑ってたんだけど、あれこれ俺の知らない情報から今調べてる情報までペラペラ話すから、本物と信じざるを得なかった。
男は言った。「お前は何が知りたいんだ」と。
俺は奥さんだとは伏せて、友恵のことを聞いた。男はいくらか考えて、ピンと来たのか、ペラっと話し始めた。


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