兎虎小説

□頑張るバニーちゃんと鈍感で変態な虎徹さん
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さらりと流れる長いゆるふわカールのハニーブロンド。
それと同じ色のまつげをビューラーで上げる。
シュテルンビルトで流行りのマスカラとつけまつげを自身のまつげに付けて、アイラインを引く。でも控えめに、あくまでも違和感なく。
シャドウハイライトは自分には必要ないの。元々がいいから。
頬にこっそりとチークを乗せる。今時のピンクで私の頬を染める。
リップは同じくピンクであしらいさらにグロスで輝きを付ける。
キスしたいって思われたい。されたいから。

ああそうそう、服は赤のライダースジャケットの胸元を開けるの。あの人はこういうの好きそうだから。
ブーツは少し高めに。背伸びしてキスが容易に出来るように。
香水はベビードール。甘くて女の子の香りなんだから。
マニキュアはイメージカラーの赤。ちょっと飾りを付けてコーティングして出来上がり。

「うん、今日もばっちり!虎徹さん、喜んでくれるかな?」

私はバーナビー・ブルックスJr。
期待のヒーロー、そして虎徹さんの恋人になる存在!!








***








「おはようございます」

アポロンメディア事業部に顔を出す。経理の女性は私に向かって「おはよう」と声をかけてくる。
今日も虎徹さんは来ていない。いや、遅刻寸前に来るのだからいないのは当たり前か。
いつものように席に着き、メールのチェックから始める。
仕事用のパソコンには仕事内容のメールがわんさか入っていた。

「バーナビー、今日は気合はいってるのね」
「え?」

チェックしている最中に経理の女性から言葉が出る。それは明らかに私に向けて言った言葉で、言われたことを自分の頭で整理する。
気合はいってるのね。…もしかして、メイクとファッションのことかも。
虎徹さんのために頑張ったのに気づかれた!
ポンッと頬が赤くなっていく。

「わわ…っ!私そんなにおかしいですか!?」
「いいえ。おかしくなんてないわ?長いまつげも今日は一段と長いなって思っただけよ」
「はう…」

この人は色んなところを見ていたのか、と恥ずかしくなってくる。
「あと眼鏡してないじゃない」とさらに追い打ちをかけるように言われた私はコンタクトした瞳を彼方にさまよわせた。

「おっはよーございます!!あーギリギリセーフ!!」

言葉が見つからないでいると、虎徹さんが現れた。彼は汗を流しながら自分の席について帽子で仰いでいる。
さっき経理の女性から言われた言葉が頭をよぎり、どきどきと心臓が鼓動を鳴らす。
私は虎徹さんに気づいて欲しくて、自分から声をかけた。

「お、おはようございます虎徹さん!」
「おはよ、バニーちゃん!……んん?」
「な、んでしょうか!?」
「バニーちゃん、その顔…」

き、気づいたああああああ!!
虎徹さん気づいてくれた!!
いつもは鈍感でいくら頑張っても的外れなこと言ってる虎徹さんが初めて気づいてくれた!
嬉しい…すごく嬉しい!!


――――って思っていた私に爆弾を落とした。

「バニーちゃん目尻真っ黒!!汗かいて取れちまったんだなー」
「……え…?」
「今日あっついかんなー。バニーちゃん撮影でメイク頑張るのはいいけどほどほどにしろよォ」

そう言って、虎徹さんはパソコンに向かってしまう。
…なんでだろう。虎徹さんらしく鈍感で仕方ないなって思う。
けど、なんか腹が立つ。
私、虎徹さんのために頑張ったのにこの報われない感じ。

「…バニーちゃん?」
「――――トイレ…行ってきます……」

女の子が異性にトイレ、なんていうとちょっと恥ずかしいらしいが、私はそんなことを気にすることが出来ない。
事業部から離れて、トイレにある大きな鏡に自身を映らせる。
近づいて見ると、確かにちょっと目尻が黒ずんでいた。
あまり慣れないアイラインを引くもんじゃないな…。私はティッシュで軽く拭いた。

トイレから戻って席につこうとしたとき、虎徹さんを見る。
彼は涙目で書類整理をしていた。

「あ…バニーちゃん!」
「は、はい」
「その…さっきはごめん」
「?」
「デリカシーなかったよな」

デリカシーはないのは知ってます。

「いえ…ほんとに汚れてたので」
「あれからおばちゃんにどやされたんだ。…女性心をわかりなさいって」
「…ほんとですよ」
「へ?」
「あ、いえ…。もう大丈夫ですから」

くしゃくしゃの顔で謝る虎徹さんがなんだかかわいそうになってきた。
泣きたいのはこっちなんだけど、そこはぐっと耐える。
虎徹さんはあっちこっち視線をさまよわせると、私の頭にその大きな手のひらを乗せてきた。

「ひぇ!?」
「ごめん、ほんっとごめん!ほらほら〜バニーちゃんよしよ〜し」
「こてつひゃん…!!」

ぐりぐりと私の頭と髪をなぜ、虎徹さんは情けない顔で私に近づく。
妙に整った顔が近づいて、私はどうしようもなくなる。
じわりとこみ上げるこの感覚は、泣きたいときのアレだ。
だめだバーナビー!!ここで泣くわけにはいかない!

「とっ、トレーニング行ってきます!!」
「え、バニーちゃん撮影は!?」
「今日はありません!!」
「じゃあ俺も行く!」
「タイガー、アンタは書類整理でしょ」
「ぐぅ…っ!!」

ぴしゃりといなされた虎徹さんは物悲しそうに私を見つめる。
けど私は返す言葉とかなくて、逆に恥ずかしくなって事業部から離れた。







ジャスティスタワーのヒーロー専用ロッカールームに、私は逃げた。正直、今はトレーニングなんてしたくなかった。虎徹さんから離れたくて、ついここの場所を言ってしまった。
来てそうそう帰るなんておかしいし、今日はデスクワークだけして帰るつもりだった。
予定にもそう組み込まれているし、変更もない。
虎徹さんに…悪いことをしたな。心配かけちゃったし、迷惑もかけた。
自分は女の子だというのに、好きな人に迷惑をかけるなんて女として終わってる。
見た目的には迷惑かけてるなんて誰も思わない。だけど、私の心の中では異性に、しかも好きになってもらいたい人に気づいてもらいたい一心で頑張ったこの想いは、意味をなさない。
ごめんなさい虎徹さん。
嫌いにならないで、私を、。
いつまでも虎徹さんのバディとしてやっていきたい。
ヒーロー業でも虎徹さんと一緒にいられないのはとても辛い。


じんわりと涙が溢れる。それをこぼさないよう、ハンカチで抑える。
トレーニングしないし、このまま体調が悪いってロイズさんに言って帰ろう。
虎徹さんと釣り会える普通の格好で明日会おう…。
私にはつけまつげも、チークも、リップもマニキュアも開いた服もすべて似合わない。
普通がいちばんいい。



「、バニーちゃん!!!!」
「…っ、こてつ、さん…」

ロッカールームから出て、とぼとぼと歩いてると、目の前に虎徹さんが現れた。
走ってきたのか、彼の額から汗が出ていて息も荒い。
私は探しに来たことに驚いてハンカチを落としてしまった。

「な、なんでここに…」
「言ったろ…。トレーニングしてくるって。俺一生懸命書類片付けてバニーちゃんに追いつこうとしたら、おまえそのままの格好だったし、…泣いてるし」
「これは…!なんでもありません!ちょっと目にごみが入っちゃっただけ―――」

虎徹さんにさとられないように笑顔を作る。
恥ずかしくて嬉しくて情けなくて涙が出たなんて知ったら虎徹さんは心配してしまう。
落ちたハンカチを取って拭おうとしたら、

虎徹さんが顔を私に近づけさせた。
私の視界には彼のネクタイが覆う。額からはあたたかくてやわらかいものがくっついていて。
それが虎徹さんの唇だということに気づくまで30秒かかった。

「こっ!!??!?」
「…!バニーちゃんが悪いんだからな!?」
「はっ!!?!!?」
「気づかないと思ってたか?俺がどんだけバニーちゃんを見ないようにしてたのに。煽るマネなんかしちまって…」
「煽…っ!?」
「もーー我慢の限界。バニーちゃん。おじさん舐めると、ほんと痛い目見るんだから」

はくはくと虎徹さんの言葉を理解しようと私の脳内がフルに動く。
でもそれも虎徹さんの行動でパアになった。
虎徹さんは、私の唇に吸い付いてきたのだ。リップとグロスで艶やかになった私の口は

虎徹さんに舐め取られ、閉じるのを忘れていた。そこに侵入されてあれよあれよと舌が蠢く。
逃げるのに必死だった。だけど虎徹さんの舌は馬鹿みたいに腔内を動き回り、捕まえられたと思った瞬間、絡められた。
濃厚でくらくらしてしまう。深くてとろけそうだ…。
ヒールが高めのブーツでよかった。虎徹さんは少しかがんだだけでいつもみたいに腰を曲げていなかった。
話しかけるときくらい、腰を曲げなくてもいいのに。

「こてつ、さん…!!」
「、バニーちゃん…。この意味、わかる?」
「―――はい…、」
「おじさんをからかっちゃ、だめだからな」
「はい…」
「んじゃ続き、俺ん家でする?」
「え…っ!?」
「なあに?イヤ?おじさんもうこんななんだよね」

ニヤニヤしながら、虎徹さんは私の手を取って自身の股間にぴとりとくっつける。
うわあああああああここここ虎徹さんのに触っちゃった!てか、自分からくっつけてきた…!!
階段をいっきに駆け上がってっしまったように感じて、私はガラにもなくうろたえた。
ほんとうに親父くさい虎徹さんの手を振り払って、私はその場から離れる。

「こっ、虎徹さんが…いいなら、私、私、耐えてみせます!!」
「耐えるって…。ほんとにいいの?」
「これくらい、覚悟してました…!いつか、虎徹さんの恋人になるって、決めて…」
「…嬉しいなあ」
「!!!!」

とろけた笑みで虎徹さんは私を見る。
そんな顔、卑怯なんですよ虎徹さん!!











「―――…んっ、もう、無理なんですけど!!?」
「バニーちゃんならやれる!ほらもういっちょいきますか」
「もう痛いんです!!疲れたんです!ごめんなさい私が煽りました許してくださ―――ああ、あ!!」


終わり


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