兎虎小説

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「ワイルドに、吼えるぜ!!」

キメポーズをびしりと決め、快晴の空をワイヤー一本で犯人を追い詰めていく、KOH・ワイルドタイガー。ライムグリーンのクリスタルパーツを爛々と輝かせ、それと同じ色のワイヤーを自分の身体の一部のように扱うワイルドタイガーの登場に、市民は奮い立つ。
KOH――キング・オブ・ヒーローの名のもと、ワイルドタイガーは現在指名手配中のマフィア集団のアジトに来ていた。そこにはスカイハイとブルーローズがすでに到着していた。

「状況は?」
「すでに折紙君が潜んでいるよ。気づかれないといいんだが、相手が相手だからね。油断は出来ないよ」
「アンタはファイブミニッツ・ハンドレットパワーなんだからどいてなさい」
「おお冷たいな、ブルーローズは。おいしいところ取ってこうとすんだから…」
「フン、今日こそポイントは私のもの。KOHなんて舞台、すぐに私が降ろしてやるわ」
「なら私も負けていられないな!とうっ!!」

明るく照らす空のように、そして風の魔術師・スカイハイと氷の刃と冷静な女王様・ブルーローズが特攻とばかりにマフィア集団が潜むビルに入っていく。回線でアニエスが発狂したように制止の声をあげるが何かが熱くなったのか、二人は足を止めない。ほかのヒーローたちも自身の能力を使い突入していく中で、ワイルドタイガーは回線をアニエスからトランスポーター内とアポロンメディアメカニックルームに繋げた。

「――さて、俺はブルーローズの言った通り、ファイブミニッツ・ハンドレットパワーだ。五分しかもたない。中の状況はもう把握済みだよな?




バニーちゃん、斎藤さん!」
『だからバニーちゃんじゃありません、バーナビーです!!いい加減覚えてくださいよKOH』
『中は結構な数だよ。いけるかい?』
「おー対照的!んじゃあいっちょKOHらしく今回も頑張るか」

斎藤とバーナビーが送ってきた中の地図と犯人の場所を頼りに、ワイルドタイガーはライムグリーンのパーツを輝かせる。それはさっきワイヤーアクションをした時よりもさらに輝きを増している。能力を発動した時、その部分が光るという斎藤特製のヒーロースーツがワイルドタイガーの特徴。
彼は発動させた瞬間、その場に緑の軌跡を残してビルに入っていった。




ビルの中は三階建てのコンクリート建築。犯人は三十人とボス一人。幹部は五人いてボスとともにこのビルのどこかに潜んでいる。ワイルドタイガーはファイヤーエンブレムから緊急で入った回線で思考を巡らせた。

『タイガー、アンタボスの居場所わかってんの?アタシたち先に入ったけどここにはいないっぽいのよ!』

この言葉がワイルドタイガーの脳裏に引っかかっていた。ボスが逃げたならわかる。だがしかし、ここにはいないとなると逃げた可能性はないに等しい。テレビのヘリがいるのに逃走という言葉がアニエスから聞こえない。
だとすれば一体どこにいる?
ワイルドタイガーは改めて地図を確認した。発動した能力を最大限に生かしながら地図を隅から隅まで見ると、ある一箇所が気になった。

「ぐあっ!」
「うわああああ!!」
「すまん、今はちゃんと捕まってて」

乱射してくる犯人を次々に伸しながら割れたガラス窓にぽいぽいと放り投げていくワイルドタイガー。建物を壊していないし犯人も無傷。ワイルドタイガーにポイントがどんどん加算されていくが、本人は気にせず残りの時間を気にしながら目的の場所に向かった。

とある一室の壁。そこにワイルドタイガーは着く。目の前にはただの本棚があるだけの部屋にしか見えないが、彼が本棚を横にずらすと小さな道が出てくる。その映像を二人に見せると、バーナビーの方から回線が繋がった。

『このビルはおそらくシャリン博士の秘密の場所だったみたいです』
「ん?なん…とか博士って誰?」
『有名な考古学の博士です!絡繰好きで有名なんです』
「あーーもうそのなんとか博士はいいからさ、入ってもいいんだな!?」
『残り一分半だタイガー!!』
「わあってます!!」

絡繰、ということはなにか仕掛けがあるということ。
ワイルドタイガーは慎重に、かつスピーディーに奥へと進んでいく。
やはり思った通り、隠し部屋が存在した。そこには幹部五人とボスがいる。ワイルドタイガーに気づいていないのか、酒を煽り、高笑いを浮かべている。

「今頃ヒーローは私の部下を捕まえている。ボスがいないと知ったら、どう探すのかな?」
「ボス。それでもここにいるのはまずいかと、」
「それは想定内だ。ヒーローが撤退したところでここから逃げればいい」まさに単純な考え。ボスと呼ばれた男性はぐいっとワインを飲み干し携帯を繋ぐ。「爆破しろ」と言ったところでワイルドタイガーが凄まじい速さで幹部五人を伸した。

「なっ、貴様は…!!」
「ワイルドタイガーってな!大人しく捕まれ。これ以上罪を重ねても意味がない!」
「うるせえっ!!くたばりなKOH!!」

犯人の放った銃がワイルドタイガーに当たる。しかし、彼は能力を発動しているため弾かれてしまう。残り三十秒。ワイルドタイガーはワイヤーを出し、犯人をがんじがらめに巻きつけた。

「さ、お前はもう終わりだ」
「…言ってなかったか?ここ、爆発すんだぜ?」
「おー…言ったな。だけどヒーローなめんなよ?お前が予想したことなんてとっくに伝わってんぜ?」

トントンと自身の耳部分と右腕を叩く。そこは、アニエスはもちろんバーナビーやほかのヒーローたちに通信が途絶えていなく、回線が繋がったままだった。それに犯人が気付くことなくべらりと爆弾のことを話していた。
犯人は歯を互いに合わせ、歯ぎしりをする。ワイヤーで縛られている分、身動きは取れないが切羽詰ったような顔をワイルドタイガーに向けた。

「お、お前がヒーローとつながっていようと関係ねえ!爆弾はな…、触れば一発ドカン!!だ」
「…?どういうことだ?」
「ひゃはは、は!最新中の最新の爆弾だぞ…?ひ、人の体温で作動するんだ。さああそれにヒーローの誰かが触っちまったら…」
「…」
「どうした?死ぬって、言われてびびったかキング・オブ・ヒーロー!!」

下品に笑う犯人のワイヤーを、ワイルドタイガーは冷静に引っ張る。そしてそのまま出口に向かって進み歩き出す。発動時間はもうとっくの前に切れているワイルドタイガーに突進すれば逃げれる可能性はある。だがしかし、引っ張っていくワイルドタイガーほ雰囲気がさっきよりぴりりとした雰囲気に変わっているのをその犯人は察していた。マフィアとなれば、殺気など毎日のように浴びているからだ。
逃げれば今度は半殺しか、もしくは巷で噂のルナティックにして殺られるか。犯人は選択を二つにしぼった。

「爆弾はな、」
「あ?」
「―――うちのエリート様が解除したってよ」
「…」
「お前は大人しく刑務所行って、反省しろ」
「…さあな。俺はマフィアのボスだ。大人しくなんて性に合わないんだよ」
「だなあ」
「ワイルドタイガーはどっちの味方だよ」
「ん?俺は市民の味方さ。もちろん犯罪者は許せねえ。でも、犯罪者でも根が悪いやつなんて人っ子一人いねえの」
「…お前、ヒーローっぽくねえな」
「よく言われる」

ははは、なんて犯人とヒーローが笑い合う。
気さくで人望が厚い。ワイルドタイガーが人気でいられる理由だ。それがたとえ犯人でも、ワイルドタイガーは見捨てることなく更生の道を犯罪者に導かせる。彼はそれを無意識にやってしまうから恐ろしいのだ。



ワイルドタイガーとマフィアのボス。両方がビルの出入口から出てくると、警察とヒーローが一斉に二人のところへ向かってくる。誰も怪我をしていなかった。
ワイルドタイガーはパトカーに乗せられている犯人の顔を見る。フェイスマスクを外したワイルドタイガーを見た犯人はぽつりと何かを彼に漏らす。

「ジル・K・ラドス」
「?」
「俺の名だ。何かある時、そう、凶悪犯罪の情報はほとんど知っている。俺を頼ってくれ」
「こりゃまた風の吹き回しで」
「なに…お前が気に入っただけだ。マフィアに気に入られるなんてお前も不運だか幸運だかわかんねえな」

ワイルドタイガーに向けたその瞳は嘘をついているような瞳ではなかった。茶化す仕草を見せながら、犯人を乗せたパトカーはその場から離れていった。
ジル・K・ラドス。彼を忘れないようにワイルドタイガーはぶつぶつと繰り返し、テレビ
クルーが群れるところへ連れて行かれる。
カメラレンズがワイルドタイガーを捉えた。

「今日もポイントをほとんど持って行きましたね!!」
「いやいやポイントなんて関係ねーよ。俺はただ市民を助け犯罪者を捕まえた。そんだけ」
「これで二位のスカイハイをまた遠ざけた感想を!」
「だぁから俺はポイントは関係ないの。スカイハイに聞いてくれよ」
「私は今日そんなに活躍しなかった…。だがしかし、ワイルド君に負けないように頑張る!そしてまた勝負をしよう!!」
「お前ほんっと勝負事好きだよな…」

スカイハイと肩を組みながらテレビに映るワイルドタイガーとスカイハイ。天と地。能力がまったく違う二人の勝負に市民が彼らへ向けて声をかけ続けた。











***











取材が終わり、ヒーロースーツでトランスポーターに乗ってきたワイルドタイガーを、バーナビーが迎える。
笑顔で迎えたバーナビーはワイルドタイガーのスーツを見ると、その顔を盛大に歪ませ、ワイヤーギミックを見始めた。

「ど…ったの?バニーちゃん」
「KOH…いや、おじさん……。僕は悲しいです」
「へ?」
「あなたならしっかり使ってくれるって、信じてました…!!だけどそれが間違いでしたよ!虎徹さんワイヤーが擦り切れそうです…!!」
「えーー!!?そんなことのためだけ!?」
「開発部をなめないでください!ここにも僕の血と汗と涙の結晶が詰まってんですよ!?あとココ!!」
「ココって…タイガーマーク部分じゃねーか!」

さっきの犯人のように歯ぎしりをしながら、バーナビーは彼が脱ぎ散らかしたスーツを丁寧に拾い集めて大事そうに抱える。
ワイルドタイガーから鏑木・T・虎徹になった彼は、未だに文句を垂れているバーナビーを起こしてスーツを仕舞いに取り掛かる。

「明日までに直します。そしてワイヤーが汚くならないようにさらに光ろを灯しましょう」
「俺は今のままでいいと思うよ?」
「いいえ!ワイルドタイガーをもっと子供たちに好きになってもらえるように改造しなければ…っ!!これでグッズとかも売れれば僕は嬉しいんです!」
「そう…バニーちゃん結構子ども目線なのね」
「はい。ワイルドタイガーは昔、小さかった僕の憧れの存在ですから」

ごく自然に紡がれたバーナビーの言葉に、虎徹は嬉しくなる。
くすくすと笑いをこらえている虎徹に、バーナビーはかっと顔を赤く染め虎徹から顔をそらす。

「笑わないでください」
「いや、嬉しくってつい…! なあバニーちゃん、今から飲みに行かない?」
「はあ?だから僕はワイヤーを直さないと…」
「いいのいいの!斎藤さんがいつの間にかやってくれてるって。斉藤さん、結構優しいから」
「…。はあ、怒られるのは僕なんですよ?それに、あなた今から事業部に戻らないといけませんよ?」
「いっけね、忘れてた。じゃあメールするから、ちゃんと来るんだぞ!」
「はいはい」

びしっとバーナビーに指差して、それから急ぐようにアンダースーツを脱ぎに出て行った虎徹。彼を見送ったバーナビーはトランスポーターの運転場所に行き、アポロンメディアへ大きな車体を走らせた。



続く!


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