兎虎小説

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ピピピピ、とPDAのアラームが鳴り響く。僕はメカニックルームにいる虎徹さんに一言声をかけてから一人でアンダースーツに着替えに向かった。




明日は年に一度の最大イベントがある。それは、広場で行われる大晦日大イベントだ。
僕と虎徹さんはそれに出演する予定で、今日はそのリハーサル。リハの時間になるまでデスクワークを終わらせようとしたのに、あのおじさんときたら賠償金額の書類をほっぽりだして斉藤さんのいるメカニックルームに遊びにいってしまったのだ。僕個人としては虎徹さんの賠償金など関係ないのだが、コンビとなると話は別。ロイズさんに僕もこってり怒られてしまう。
そんな僕の感情などおかまいなしに、虎徹さんは斉藤さんの所にいる。PDAの回線だけを繋げた虎徹さんは「わかった、すぐいく!」と多少呂律の回ってない声で僕に言ってきた。
なんなんだ、虎徹さんは。
―――僕は、未だに彼の突拍子もない行動に慣れない。

『バーナビー!タイガーは少し遅れる!タイガーのサイドカーだけはずしてロンリーチェイサーで行ってくれ!』
「はあ…、わかりました。僕らにも時間がないこと、しっかり虎徹さんに伝えてくださいよ斉藤さん」
『わかった!』

斉藤さんのいつもより大きい声で、僕は一人で事件発生場所へ向かう。
一人で向かうなんて、僕には久しぶりのことだった。







***







チェイサーをドリフトさせながら事件のあった場所に着く。そこはすでにほかのヒーローが集まっていて、たまたま近くにいたファイヤーエンブレムさんに話を聞いてみた。

「なんかね、犯人があなたたちを要求しているみたいなの」
「どういうことですか?」
「アタシも知らないわよお〜。タイガー&バーナビーを差し出せなんて、アタシたちが出来るようなことじゃないでしょう?」

他人の人権なんて人それぞれだし、とファイヤーエンブレムさんは僕にぽつりと漏らす。僕と虎徹さんを要求だなんて、何か裏があるに違いない。
僕はアニエスさんに犯人の特徴を聞くことにした。…するとなんということか、今立てこもってる犯人は以前僕たちが捕まえた犯人グループの一人だったのだ。ネクスト能力がなんとも奇抜でなんの役にも立たなさそうな能力だったような気もするが、どんな能力かは忘れてしまった。
だってあの時は、犯人は一人ではなく、グループだったのだから。

僕は一通り話を聞き、虎徹さんがまだ到着していないのをいいことに犯人の交渉に乗り出した。
けが人もなく、僕たちが要求の対象ならば犯人も交渉次第で降参してくれるかもしれない。少なくともこの時点で僕はそう思っていた。

「バーナビーだけか?俺はタイガーも要求したはずだ!」
「僕だけではお困りのようでしょうか?タイガー先輩なんてあなたの役に立つとでも?」
「……タイガーがいないと困んだよ!」

犯人はとうとうボロを出してしまった。僕ではなく、虎徹さんだけをご所望だったらしくムキになって叫んでいる。
タイガーを出せ、じゃないと頭に穴開けんぞ!!となかばヒステリックに叫ばれちゃ僕もなにか策を考えなければならない。素早く、スマートにがモットーだが仕方ない。
通信が繋がらない虎徹さんを置いて犯人の要求を下げつつ、僕は行動を起こそうと能力を出そうとした時。

「またせたな、バニー!」

わずかだが虎徹さんの声が聞こえた。
やっと来た虎徹さんの方を向き、僕は嫌味のひとつでも言ってやろうと口を開いたが開いた口から出た言葉は嫌味ではなく。

「な、…なんですか、その格好!?」

多少裏返った声で犯人と同じようにヒステリックに叫んでしまった。

「いやあ、なんかさいとうさんのところにいったらさ、いつのまにかこんなになってたんだ!」
「ちょっ…平仮名、あなた平仮名多いんですけど!!」
「きにするな、かんじとれ!」
「そんな横暴な…」

ビシッと自分自身をさした虎徹さんの手は子供の手と同じ大きさで、姿も子供のそれ。頭とお尻には虎…であろう、黄色と黒の縞模様がはいった耳と尻尾が揺れていた。ためしに虎徹さん……だと思うその子供のほっぺをつねってみた。

「いたたたたっ、ばにちゃ、いたい!」
「…虎徹さんがもちもちほっぺだと……!?」

大人でさえ乳液と保湿クリームとパックが欠かせないのに虎徹さんもどきのほっぺはもちもちほっぺで、なんだか僕は悔しい気持ちになった。その前に虎徹さんもどきにはやまほど聞きたいことがあるのにほっぺばかり気になる。そして言動も。

「バニーちゃん、おれがきたからにはあんしんしろ!おれとおまえ、きょうりょくしてはんにんをつかまえればだいじょうぶだ!!」

なんかいつもより熱血だ。

ああ、この時僕はどうリアクションをしたらいいのだろうか…。
こういうのに慣れていないからどう虎徹さんもどきに話しかけていいのかわからないし、どう表現したらいいのかわからない。

「バニーちゃん?どうした?うたれたのか!?おいバニーへんじをしてくれ!!」
「すみません、少しばかり賢者タイムに入っていました。はは、やだな僕疲れてるのかな?虎徹さんが虎徹さんもどきになっているようですね。さあさっさと犯人を捕まえて帰りましょうか」
「おいもどきってなんだよ!おれはおれだ!」
「行きますよおじさん」
「うにゃっ!」

虎徹さんもどきがなにか叫んだようだが僕は気にしなかった。いや、気にすることが出来なかったんだろう。
そこから犯人逮捕の記憶は所々曖昧だったが、僕は虎徹さんもどきを抱えながら犯人を捕まえたともどきに言われた。終始「もどきもどきうるさいぞ!」と叱られたけどにゃんこのような虎徹さんもどきに言われても意味のないこと。

僕はアンダースーツをそのままに、斉藤さんのいるメカニックルームに向かったのだ。
そして、虎徹さんもどきを斉藤さんの所に突き出す。

「斉藤さん、これはどういうことですか?」
『ああタイガー、バーナビーの所にちゃんと行ってたんだね』
「さいとうさん、バニーがひどいんだぜ!おれのこともどきっていっていじめるし」
「…どう見ても元の虎徹さんのもどきでしょう…?虎徹さんはどこです?」
『…それがねバーナビー、これもタイガーなんだよ』

ぴーぴーとつままれながらうるさい虎徹さんの声と斉藤さんの声が、僕の頭の中で復唱される。

これもタイガーなんだよ。
…これもタイガーなんだよ?
つまり、タイガーは虎徹さんで。
…ということはこれは虎徹さん?

「―――はああああ!?これが、虎徹さん?斉藤さんやめてくださいよほんと!」
『嘘じゃない。…と言っても、タイガーの一部と言ったほうがいいだろう。この際バーナビーはバディだから隠しても仕方ない。タイガー、出てこい』

斉藤さんは開いていたドアのほうに声をかけると、虎徹さんもどきがいっぱい…いや、つまんでいるのと合わせて五人出てきた。
これにはどう対応していいのかわからなくなってしまい、僕は虎徹さんもどきを手放してしまった。

ぺちんっ、と床に叩きつかれた虎徹さんもどきはその小さい手で服のほこりを取り、頭を抱え出した僕の膝をぺちぺちと叩いてくる。

「バニーちゃん、そんなにくよくよするな。みちはきっとひらける!!」
「……その道をふさいだのはあなたですよ」

泣きたいのに泣けない。それはそれですごく悲しいことだ。
僕はそんなのにもめげず、斉藤さんの話をもう一度聞くことにした。

『タイガーがいきなりこんなになってしまったのは知っているかい?どうやら犯人の能力が影響していて、タイガーは五つの性格をわけた体になってしまった。君のそばにいるのが熱血タイガー、そして』

甘えん坊タイガー、いたずらタイガー、泣き虫タイガー、イケメンタイガーの全五つになったんだ。

斉藤さんの話は確かに本当だった。
僕のそばで膝を叩いたのは紛れもない熱血漢ただよう虎徹さんで、その奥にイケメンであろう虎徹さんによりかかるようにベタベタとくっついているのが甘えん坊、泣いている泣き虫をいじめているのがいたずらだ。なんだかめんどくさい。
収集がつかなくなるのを危惧して、僕は泣き虫にちょっかいをかけてるいたずらをつまむと尻尾と耳をぺしゃりと垂らしながら泣き虫の虎徹さんは僕に泣きついてきた。

「ばにちゃ、ばにちゃ」
「めそめそ泣かないでください。あなたこんなに泣き虫だったんですか?まったく」
「ごめんなさ…うう、」
「はなせよバニー!こいつからかいがいがあんだからよ!」
「これが正義の壊し屋の本性ですか。……というか、いつまでくっついているつもりですか甘えん坊は!」

虎徹さんが虎徹さんにくっつくなど…うらやましいにも程がある!
とりあえず熱血に甘えん坊とイケメンを離せと命令したら、「これは任務か!?」ときらきらした瞳を向けてきたから適当にそうだと僕は言った。そうしたら熱血がイケメンになんやかんや言われながらもちゃんと甘えん坊を引きずってきた。

「なあに?バニーちゃん」
「あの自称イケメンはなんですか」

あなたのどこにイケメン要素があるんですか?

「ひどいなあバニーちゃんよう!」
「…と言いながら膝に乗るのやめてください」
「いいじゃんあまえても」

甘えん坊虎徹さんは、いつもの虎徹さんのような気がする。
もみくちゃにされながらも斉藤さんのほうに視線をよこして、これからのことを伺う。
このままでは熱血のほうしか小さいワイルドタイガーとして活躍できないではないか!いや違うな、今の虎徹さんはワイルドタイガーじゃない。

チャイルドタイガーだ!

「バーナビー、君の家でしばらくタイガーを預かってくれないか?君ならタイガーとバディだしなんら支障はないだろう?このままのタイガーをほおっておいたら生活が出来なくて死ぬよ」
「死までいくんですか…。はあ、わかりました。虎徹さんには死んで欲しくありませんし、なんか僕もこのままだと知らないおじさんとかに着いていって売られてしまうかもしれないですから」
「バーナビー、おれをだれだとおもってんだよ」
「イケメンがしゃべった…」
「しゃべるよ!」

ぷくっともちもちほっぺを膨らませた(自称)イケメンはぷい、と眉間にしわを寄せたまま僕から視線をそらす。
もしかしてこのイケメンは僕の昔をベースにされているんじゃないかと思い少しひやっとしたが、虎徹さんのほんの隅っこにあったかっこいい要素がふんだんに出ているようで、僕と似ていたがよく見ると違っていた。ほんとめんどくさいな…。

「とにかく僕の家で見ますよ。大切な、相棒です」
「バニーちゃん…!」
「あ、ごめんなさい今どれしゃべりました?」
「あまえんぼうのおれ!」
『…首輪でも作るかい?』
「…お願いします……」

斉藤さんの気前のいい言葉に救われた僕はさっそく斉藤さんの一瞬で作られた首輪を五人の虎徹さんにはめる。
熱血は情熱の赤、泣き虫は涙色の青、イケメンは頭のよさそうな緑、いたずらはよからぬことを企んでそうな黄色、甘えん坊は色気があるピンク。
――――…あれ、これってちいさい頃テレビで見た戦隊ものの色分けじゃないか。ほら、いつぞや流行ったシュテルンレンジャー。じゃあこれはワイルドタイガーの戦隊バージョンだからワイルドレンジャー?

「ばにちゃ、これにあう?」
「とても!」
「うれしいなあ!」

チリン、と付属でついていた鈴が鳴る。それから甘えん坊は僕のお腹にきゅうっと抱きついた。
……馬鹿野郎、僕の理性、持ちこたえろ…!!

『バーナビー、さっき君たちの上司から連絡が来た。このまま帰っていいそうだよ』
「わかりました。行きますよ、ワイルドレンジャー!」
「「「「「にゃー!!」」」」」
「掛け声がついているだと…!?いつのまに決めたんですか虎徹さん!」

ばたばたと熱血といたずらがかけていく。泣き虫は僕に怒られたと勘違いして泣き出したが僕は上手くあやすことに成功した。

虎徹さんは虎徹さんだと思ってあえて注意をしなかった僕。アポロンメディアから家はそう遠くないのに、いろんな性格の虎徹さんのおかげで家に着いたのがメカニックルームを出たその二時間後だった。
これが能力きれるまでだと思うと、僕はなんだか頑張れる気がしない。







五人の虎徹さん。
熱血:正義感が強くて市民思い。熱い、とにかく熱い。松●修造並みに熱い。虎徹の正義はこの熱血が主張してる。
泣き虫:ちょっとの注意でべそべそと泣きべそをかく。最初は一人で泣いて、あとで自分が悪いと思うとバーナビーの腹で泣く。
イケメン:いわゆるバーナビーの分身。ニヒルに笑い、流し目攻撃が得意。お目覚めはバーナビーのほっぺにちゅう。
いたずら:泣き虫にいつもちょっかいを出して困らせる悪い虎徹。二話の行為はこのいたずらが主張しちゃった感じ。バーナビーにはかわいいいたずらを繰り返す。
甘えん坊:イケメンにくっついていたがバーナビーに乗り換えた面食い。とにかくバーナビーのそばにいないと嫌。色気出す。


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