兎虎小説

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「――やっぱり皆集まったわね。さすがヒーロー。一緒にワイルドタイガーの素顔を掴み、ヒーローに仕立て上げるわよ?」

アニエスは紅いルージュの唇をにたりと上げる。
バーナビー率いるヒーロー7人は、アニエス達がいるスイッチングルームに来ていた。彼女はかつかつとダークパープル色のピンヒールを踏み鳴らし、バーナビーに近づく。そして、その唇から言葉を紡いだ。

「バーナビー、彼はここまでよ」
「…虎徹さんは駄目なんですか?」
「駄目よ。彼は一応部外者。奥まった会話を聞いてしまっては市民の一部に聞かれているのと一緒じゃない」
「ですが…」
「いいよ、バニーちゃん」

虎徹はバーナビーの肩を掴んで遮る。バーナビーは何かをいいたそうな顔を虎徹に向けたが、彼の真剣な顔つきを見、あきらめたように「わかりました」と呟いた。

「…すみません、虎徹さん」
「いいんだよ。そこのプロデューサーさんの言ってることが正解なんだからさ。俺、帰ってお前のプログラム作ってるよ」
「お気をつけて…虎徹さん。見送りが出来なくてごめんなさい」
「だぁからいいって!…お前こそ気をつけろよ?ワイルドタイガー、捕まえんだろ?頑張れよ!」
「はい、虎徹さん」

バーナビーのぽやっとした顔を虎徹は見て、くしゃりとその髪を撫でる。
「じゃあな、バニーちゃん」と虎徹はバーナビーに手を振り、去る。エレベーターに乗った虎徹をアニエスはしっかり確認して再び話を再開した。

「今回の作戦を知っているのはヒーロー、私達、貴方達の上司と会社、そして社長のマーベリックだけ。バーナビーのマネージャーは残念だけど部外者として帰ってもらったの。いいバーナビー?彼にはこの作戦を言っては駄目。わかった?」
「はい、わかりました」
「他のヒーローもよ」
「プロデューサーが言うなら仕方ないよね」
「そうだな」
「…OK。じゃあ、作戦を言うわね」

アニエスはぽつりと言葉を漏らしていく。作戦の内容はこうだ。

まず、いつものように事件が発生したらヒーローはそこの現場に急行する。ワイルドタイガーは主にネクスト能力者が犯人のときに現れると、アニエス達は過去のデータで割り出した。そうなると自然に作戦が決行させるのはネクスト能力者が犯人のときだけ。GOのサインが出されるのはアニエスの声で発せられ、そこから作戦開始。そのときの状況によるが、パワー系で動きの素早いバーナビーがワイルドタイガーを捕まえることに決まった。その他のヒーローはサポートに回るが、自身の能力でワイルドタイガーを確実に追い詰め、バーナビーのハンドレットパワーでフィニッシュ。
これがシンプルでかつ大胆な方法だとアニエスは言う。

「多分失敗はたくさんつくでしょうね。なんてったって彼は複数のネクスト所持者ですもの」
「僕が確認した能力は『空気の弾丸を作る』、『瞬間移動』の2つでした」
「僕…確認はしたことはないですけど、ワイルドタイガーの能力は2つ以上あると思います」

折紙サイクロン―――…イワン・カレリンはぽつぽつながらも、その言葉を吐いていく。アニエスとバーナビーも少なからずそう感じているらしい。

「折紙先輩の言うとおりです。彼は2つだけじゃない。ネクスト能力があるって、何故わかっているのか、気になるんです」
「…もしかして、犯人の顔をすでに知っているとか?」
「それはありえないわよぉ、ローズ。アッパス刑務所に今囚人されている数はネクストだけで数百人。それをデータと写真だけで瞬時に割り出してアタシ達と逮捕出来るなんて真似、馬鹿としか言いようがないわ」
「と、いうことはワイルドタイガーは1人で犯人を捕まえているわけじゃない…?」

いつも現れるワイルドタイガー。彼の能力は一体いくつあるのか。どうしてネクスト能力者の犯人だけのときに現れるのか。ワイルドタイガーは誰かの指示で犯人を捕まえているのか?
ヒーロー達は頭をフル回転させるがまったくわからないままだった。

「ワイルドタイガーの詮索は後回しにしましょう。それより私の作戦でいいかしら?」
「ハンサムが最終的に捕まえるんだから、ハンサムに決めてもらったら?」
「僕は全然構いません。今まで近くにいてまったく捕まえられなかった…今度はこの作戦を駆使して捕まえてやりますよ」
「うわあ、バーナビーさん悪い顔!」
「私もしっかり協力しよう!空からだとなにかとやりやすいからね!」

ホァン・パオリンとキース・グットマン、2人がそれぞれ言っていくと。
急にスイッチングルームの画面が赤く染まる。アニエスはそれを確認する作業に入った。

「タイミングよく犯人が現れたわ。場所はダウンタウン地区周辺。ネクストかわからないけど、とりあえず現場にGO!」

アニエスの声でヒーロー達は自身のヒーロースーツを着に走って戻る。
バーナビーは斉藤が持ってきたトランスポーターに乗り込み、アンダースーツを手早く身に着けた。

『用意はいいか!?バーナビー!』
「大丈夫です」

普段小さな声で話す斉藤はマイクを通すと人が変わったように大声になる。バーナビーは慣れたその声を聞いて、横に付いている手すりを掴む。彼の身体に吸い付くように、ヒーロースーツは着々とバーナビーの全身を包んでいった。


バーナビーは着替え終わり、ヒーロー達の所へ向かう。
現場はダウンタウン地区周辺と言ったアニエスから、連絡が入った。

『ボンジュール、ヒーロー。さっきは周辺って言ったけど、犯人はまっすぐノース地区方面へ向かったわ!』
「わかりました」
『犯人は何人くらいかわかる?』
「大体2〜3人の数だったわ」
『ネクスト能力者がいればワイルドタイガーを捕まえるチャンスが来るってことよ。必ず犯人の確定に急いで!』
「はい!」

待機していたバーナビー達はノース地区へと向かった。チェイサー、スポーツカー、トランスポーターとそれぞれ使って駆け回り、着いた頃には1つのビルから煙が立ち上がっていた。
まばらに逃げ出す人もいるが、その中に小さな子どもも混じっているのをスカイハイが見つける。
助けようとスカイハイが子どもに近づこうとしたが、犯人の持っていたマシンガンがスカイハイを攻撃し始めた。

「く…っ中々近づけない!」
『スカイハイ!犯人はわかった?』
「やっぱり犯人は3人。そのうちの2人はネクストです。しかしそのせいか、小さな子どもが人質に捕られてしまった…!」
「―――スカイハイさん!こちらへ…」

バーナビーとドラゴンキッドが浮遊中のスカイハイを呼ぶ。アニエスの話だと、2人は何かあったときのための特攻部隊、らしい。止まっていた車と木々のある場所に息を潜めていたのだ。

「犯人はネクストだったんだね」
「ああ。それにあそこに人質の子どもまでいるんだ。私が遅かったばかりに、あの子は…」
「スカイハイさん、悔やんでも仕方ありません。それに貴方はネクストがいるのと人数を割り出していただきました。僕をドラゴンキッドさんは特攻という形ですが、僕はあいにく能力を出せません。ワイルドタイガー捕獲の為に取っといておいてるんです」
「そうなんだ。だからスカイハイも一緒に犯人を捕まえよう!」

バーナビーとドラゴンキッドがスカイハイを慰める。その思いを汲み取った彼は、力強く頷いた。

スカイハイは他のヒーローがどこにいるか2人に問う。
ファイヤーエンブレムとロックバイソンは犯人を欺くための擬似特攻部隊、折紙サイクロンとブルーローズが市民に被害が及ばないように守る役目を負っているのだと云う。アニエスもスカイハイをバーナビーとドラゴンキッド、2人の方に着かせて犯人の動きを探った。

「ファイヤーエンブレム、そっちはどう?」
『んもう、犯人が一向に出てこないわ。子どもを人質に取って匿ってから随分経つのに…』
『だからと云って迂闊に突入すれば犯人が発砲しかねないわ。犯人の要求はまだ出てこない。もう少しまって』

ファイヤーエンブレムとアニエスの声が小さく響く。このまま時間が刻々と過ぎれば小さな子どもの命が危ぶまれる。それなのに犯人からの要求が来ない。
バーナビーは思案し、アニエスに揺さぶりをかけてみるように言ってみた。

『―――わかったわ。警察から揺さぶりがかけられるか交渉してみるわ』

そこでアニエスの交信が途絶える。次に現れたのは、名も知らない人からの通信だった。

『――――交渉は、しない』
「、貴様は誰だ」
『私はこの事件を起こした張本人だ』
「!」

ヒーローのPDAから犯人の連絡が突如行われる。
本来、ヒーローに与えられたPDAは素人の電波ジャックが出来ないように作られた特殊なものである。だが、そんなPDAに犯人と告げた人物がジャックし、緩やかな声色でヒーローに一つの条件を出した。

『なあに、簡単なこと。私ともう1人のネクスト能力者を捕まえることだ』
「それは当たり前のことだ。何故条件に出した?」
『――私はこのとおり、色んな電波をジャックする能力だけだ。ビルを壊したのも、小さなレディを人質にしたのも彼、…私の愛する弟、ダコスだ。
私は警察の交渉には応じない。非ネクストの彼らが弟を捕まえるのには荷が重過ぎるからね』

緩やかだった声が、段々と哀愁帯びた声に変わる。バーナビーは質問を投げかけようとしたが、すでに交信は切れていた。

「奴は一体何を伝えたかったんだ…?」
「弟さんを捕まえれば子どもは助かるんだよね?だったら早く行こうよ!」
「アニエスさん、聞こえますか?彼は突入するなとは言っていませんでした。今から僕達とファイヤーエンブレムさん、ロックバイソンさんの5人でビルを突破します」
『…仕方ないけど許可を出すわ。いい?間違っても犯人を刺激しないこと!電波ジャックした彼も温厚のフリをしているのかもしれないから』
「わかりました」

もう隠れていても無駄だとわかった3人は即座に擬似特攻部隊の2人の元に向かい、一気にビルに突入する。
爆破されたビルはエントランスにまで瓦礫が散乱している。それを掻い潜り、入り口が大きな瓦礫で塞がっているところは身軽で素早いドラゴンキッドが先に進み、電撃で瓦礫を大破させた。

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