兎虎小説

□1
1ページ/1ページ

『シュテルンビルト市民の皆さまおまたせいたしました、今夜も始まりましたHERO TV!
今日の犯人は、現在指名手配中の強盗犯、ジョゼ・イントアースとその仲間5人です!逃走中のリーダー、ジョゼは拳銃を所持している模様。果たして7人のヒーローは捕まえることが出来るのでしょうか―――?』

きらきらと光り輝く、眠らない街・シュテルンビルト。ビルの屋上からその街並みを見ればまるで宝石のような明るさときらびやかさ。100万シュテルンドルの夜景が一望できるこの街で、無情にも事件が起こった。
シュテルンビルトは、夜景は綺麗に見えても犯罪の多さはどこの街よりも負けていない。そんな治安の悪いシュテルンビルトを守るために、7人のヒーローは立ち上がる。

『おおっとー!ここで一番乗りをあげたのは…ファイヤーエンブレムだ!愛用のスポーツカーで犯人の乗った車にぐいぐい近づいています!』

HERO TVと書かれたヘリに乗って、実況アナウンサーのマリオがファイヤーエンブレムの登場を煽り立てる。
緊迫した状況の中での実況は、市民を興奮させるだけだが、それが逆にヒーローの人気を上げていた。
プロデューサーのアニエス・ジュベールも、それを考慮してマリオにヒーローの行動を逐一伝えるようにと言っている。スイッチングルームの画面を見ながら、彼女はぐんぐんと上がる視聴率を見、紅く塗られたつやのいい唇を上げるとともに、ある一つの目標を目指していた。

『ファイヤーエンブレム、犯人の乗っている車に容赦なく炎を撃ち込んでいきます!その拍子に横転ー!!犯人は無事か…!?』

ファイヤーボール(火炎球)を放たれたジョゼ達の車は、彼等を乗せたままその大きな車体を転がしていく。
それを止めたのは西海岸の猛牛戦車・ロックバイソンだ。
何トンあるかわからないジョゼのワゴン車に自らの身体を使って止め、彼を運転席から引っ張り出そうとした時。
ロックバイソンに向けて、銃が放たれた。
それに、欠かさずマリオが放送で伝えていく。

「あら、大丈夫?」
「ああ。問題ない」
『なんと、ロックバイソンは無事だったー!なんという硬い身体!さすがだロックバイソン!犯人も唖然としています!!』

至近距離から撃たれた弾丸は貫通することなく、ロックバイソンのヒーロースーツに弾く。それを痒そうにがりり、と掻いたロックバイソンはリーダーのジョゼの首根っこをひょいっと捕まえた。
実際には表れないが、テレビの画面上ではロックバイソンにポイントが加算されていく。

「もう捕まえちゃったの?つまらないわあ」
「おいおい、犯人はこいつだけじゃないだろ。まだあと4人もいるぜ?」
「でもあの子達が捕まえてくれるでしょう?」
「…あー、1人いたな。ポイント大好きな奴が」

ファイヤーエンブレムとロックバイソンは、赤と白のツートンカラーのヒーローを思い出し、くすりとひとつ、笑みを浮かべる。
あとは若いヒーロー達に任せ、2人はジョゼを警察に引き渡すべく、歩みを進めた。



一方、残りの4人を捕まえようとファイヤーエンブレム・ロックバイソン以外の5人はそれぞれの登場の仕方で犯人を追い詰めていた。
ドラゴンキッドと折紙サイクロンは2人で1人の犯人を協力して逮捕に勤しみ、ブルーローズ、スカイハイ、そしてバーナビー・ブルックスJr.は1人ずつ。バーナビーが追っている犯人以外はネクスト能力がなく、すぐに捕まえることが出来たがネクスト能力のある犯人を追っていたバーナビーは苦戦していた。
何故彼が苦戦してしまうのか。誰もが疑問に思ってしまうのだが、彼から放たれた言葉で苦戦の理由が明らかになる。

「空気の弾丸を作り上げて撃ってくるんですよ。スカイハイさんの風よりも鋭く、速い。撃たれれば普通の弾丸と同じように痛みを伴います」
「それじゃあまともに近づけないわね」
「ブルーローズさんとドラゴンキッドさんは近づかないで。男性陣の僕達で捕まえましょう」
「そうだね、女性を傷つけるのはよくない!行こう、2人とも」
「わかりました」

ブルーローズとドラゴンキッドは犯人から離れ、市民や街に被害が及ばないようサポートの徹し、バーナビー率いる男性陣3人は犯人を追うことになった。
犯人もバーナビー1人から3人になったことで、更に能力を駆使し近づけさせないように撃って来る。それだけならヒーロー達はかわして近づき、隙を狙って確保、という形に出来たはずだ。だがしかし、かわすことが出来ても近づくことが出来ないのだ。

「近づくんじゃねえ…この女が死んじまうぞ!」
「なんて卑怯な!」
『犯人の1人が女性を人質にしているー!どうするヒーロー!このままではまともに近づくことが出来ません!!』

カメラのピントを合わせながらマリオはアナウンスを続けていく。HERO TVも迂闊に近づくことが出来ず無理矢理ピントを合わせている為、ヒーローと犯人の姿は小さい。一見すれば、ヒーロー達は犯人の前で不自然に転がったり何かを避けているように見えなくもない。バーナビーから伝えられた情報をアニエスはマリオに伝え、それを市民に実況という形で伝えていった。

『えーどうやら犯人は【空気を弾丸に変える能力】を持っている模様。これではヒーロー達は近づいてしまうと危険ですね。どうなるヒーロー、どうする!ヒーロー』

誰も手を出せない状況。そんな苛立ちからなのか、バーナビーは自身が囮になると言い出した。

「そんな…!囮なら僕の役目です!バーナビーさんには」
「いえ、折紙先輩には犯人の目くらましをお願いしたいんです。僕に犯人が注意を払っている隙に、折紙先輩は近づいて人質の女性を救助。スカイハイさんは風で犯人の目潰しを」
「…わかった。くれぐれも気をつけてくれ」

3人は頷き、行動に移すため犯人の前に姿を現す。
犯人はバーナビー達に視線を向け、能力を発動させようと身体を光らせた時だった。

突然犯人の手首に細いワイヤーががんじがらめに巻きつけられた。
気をバーナビー達に向けていた犯人はワイヤーの存在に酷く焦り、声を荒げる。

「だ、誰だ!」

ギチギチと音を奏でながら、そのワイヤーの先を追う。
そこには、1人の男性が立っていた。
アニエスはその人物をアップで映せとヘリに乗っているカメラマンに伝える。

「来たわね…今日こそその顔を晒してあげるわ。




ワイルドタイガー」

アニエスの低くなった声。ワイルドタイガーと呼ばれたその男性は、数ヶ月前から現れた人物だった。
白く透き通る白銀の髪を緩く結わい、顔の半分を覆う黒いゴーグル。トレンチコートを羽織った中身の燕尾服はワイルドタイガーの細く、折れてしまいそうな身体のラインを一層魅惑に引き立てている。
ヒーロースーツではない彼の登場に、市民は奮い立ち、賑やかに彼を画面上から見つめる。アニエスも突然現れたワイルドタイガーをヒーローに取り入れるべく、彼が現れるたびカメラをワイルドタイガーに合わせた。

「ワイルドタイガー」
「くそ…っ!お前か!」
「大人しく、捕まれ」
「誰が捕まるか!!」

犯人は自身の指を銃の形にし、ワイルドタイガーに向ける。バーナビーは彼の前に立ち攻撃を防ごうとしたが、ワイルドタイガーにそれを阻止される。

「ヒーローではない貴方はさがっていてください!」
「―――心配は無用」
「、なに?」

バーナビーの肩を掴み、ワイルドタイガーは唇をゆっくりとカーブさせる。
そして、犯人と同じように指を銃の形に形成し、

「ばん」

と、ごくわずかに告げる。
どさり、と犯人は前のめりに倒れた。

「…え?」
「何故…犯人が倒れて……」
「俺の、能力で倒れたのさ」

ワイルドタイガーは静かに、かつはっきりとバーナビーとスカイハイに言う。近づいていた折紙サイクロンは人質の女性を解放しながら、犯人の身体を見た。

「!バーナビーさん、スカイハイさん!来てください!」
「どうしました?」

折紙サイクロンは2人を呼びつけ犯人の身体を見せる。血は流れてはいなかったが、犯人の身体あちこちに鬱血痕がたくさん付いていた。ワイルドタイガーは一言、「ばん」と言っただけなのに、数え切れない程付けられた痕。
バーナビーはワイルドタイガーの能力に疑問を持った。
能力についてワイルドタイガーに問おうと振り返る。だがそこには、ワイルドタイガーはいなくて。

「どこ見てんの?」
「、いつの間に…!」
「俺の能力だからかな〜?」

緩やかに描いたワイルドタイガーの唇は可笑しそうにバーナビーにそう言葉を紡ぐ。瞳はゴーグルに隠れて見えないが、多分笑っているのだろう。
それが表面上の笑みに見えて、バーナビーはフェイスマスクの下で顔を歪めた。

「さ、そいつさっさと捕まえなよ。また起きるぜ?」
「え…あ、ありがとうございます。ワイルドタイガーさん」
「どういたしまして」
「あの、」
「ん?」


「――――貴方は、何者ですか」

誰もが思う疑問。数ヶ月前、ワイルドタイガーと名乗り、ヒーロー達の手助けをし始めた時からバーナビーは聞きたくて仕方のない質問だった。聞くたびにワイルドタイガーは姿を消していて、聞けずじまい。
バーナビーは今日こそと思ってワイルドタイガーに言ったのだ。
ワイルドタイガーは笑みを消して、バーナビーをじっと見る。

「もう一度聞きます。貴方は、何者だ。どうして僕達の手助けをする?」
「…」
「ルナティックとは違う貴方の行為――その真意を聞いています」
「…俺はワイルドタイガー。正義のお助けマンさ」

バーナビーの前にいたワイルドタイガーは、一瞬のうちに遠くの手すりに移動する。それから自身の唇に人差し指を当て、更に言葉を発した。

「あとは秘密だよ?」

「でも俺のこと知りたいならば、」

「俺を捕まえてご覧?」

「捕まえられたら、お前の好きにしてもいいから」

ひとつひとつ、薄い唇に紡がれる言葉の数々。バーナビーは一言一句逃さずワイルドタイガーを見つめた。
伝わったのか、ワイルドタイガーはバーナビーに投げキッスを送った。

「、な…っ!」
「じゃあね、お耳の長い、可愛いヒーロー」
「あ、ちょ…っと!!」

手すりから身を乗り出し、漫画のように消えたワイルドタイガー。バーナビーの質問がすこししか答えてもらっていないことに、彼は不機嫌そうに舌打ちをするがワイルドタイガーの最後の言葉を思い出して、1人ほくそ笑んだ。

「お前の好きにしてもいい、ね…。その言葉、絶対忘れないでくださいよ?ワイルドタイガー。
貴方のその複数の能力すら解明してやりますから」







***






無事犯人を捕まえ、ヒーロー達はメディアに捕まりインタビューを受け帰ってこれたのは1時間も経ったあとだった。バーナビーも犯人を捕まえた者としてインタビューを受けていた。
疲れた眉間をほぐしながらアポロンメディアヒーロー事業部に戻ると、経理の女性はすでに帰宅しており始末書や期限付きの書類をバーナビーの机に置いて付箋のメッセージが貼り付けられていた。
それにバーナビーは目を通して急ぎの書類がないか確認していると、上司のロイズに呼ばれた。

「何か用ですか?」
「事件のあとにすまないね、バーナビー君。実は君にマネージャーを付けようと思って」
「は?」

マネージャー?バーナビーはロイズの言った言葉を繰り返す。

「私がいつもバーナビー君のスケジュールとか管理しているんだけどね、最近2部リーグの方を任されるようになったんだ。アポロンメディアが行っている2部リーグ管理とバーナビー君のスケジュール管理、どちらもきつくなってきたから」
「だったら僕が1人で行いますよ。手帳を持っていればすぐにわかりますし」
「君、一回ならまだしも三回スケジュールすっぽかしたことあるでしょ?」
「…それは、」
「1人じゃ出来ないからマネージャーを頼んだんだ。入ってきたまえ」

バーナビーは反論出来ないまま、ロイズの行動を見ていく。
すでに決まっていたのか、ロイズは扉一枚に声を掛ける。控えめに空けられたバーナビーは碧眼を最大限にまでかっ開いた。

「紹介するよ。鏑木・T・虎徹君だ。女性よりは親近感出そうだったから採用したんだ。バーナビー君を見てきゃーきゃー言わないだろう?」
「はあ…。…よろしくお願いします、」
「よろしくお願いします」

曖昧に返事をしながら、バーナビーは鏑木・T・虎徹と名乗られた男性と握手をする。
漆黒の髪色に褐色の健康そうな肌。Yシャツにベスト、スラックスはきっちりと着こなされていて体のラインがはっきりとわかる。脚の細さにはバーナビーは驚いたが、何よりも琥珀色の瞳とその顎鬚の形が印象的だった。

「虎徹君、これがバーナビー君のスケジュール帳だ。よろしく頼むよ?」
「わかりました…と」

ロイズからスケジュール帳を受け取った虎徹は、バーナビーとともに部屋から出る。
受け取る際、バーナビーは虎徹の横顔を視界の端っこで捉えた時、見たことのある笑顔に若干の疑問を浮かべる。が、対した気にはせず、にこりと再び笑みを浮かべた虎徹にバーナビーも笑顔で返した。

「改めてよろしくお願いします!バーナビーさん」
「何か敬語ってくすぐったいので貴方なりの話し方でお願いします」
「え?そうですか…じゃあ、よろしく、バニーちゃん」
「はい…って、え?バニーちゃん?」
「バーナビーって長いからさ、バニーちゃんで」
「…」






設定
鏑木・T・虎徹(37)
ワイルドタイガーの素顔。多重ネクスト所持者。
この話は虎徹は独り身です。
ネクスト能力…空気を弾丸に変える、瞬間移動、自分の姿を変える、遠くの物が見える。の4つ。
なんという俺得能力。逃げれるし強い。

バーナビー・ブルックスJr.(24)
アポロンメディアのヒーロー。このバーナビーはツンが少ないです。
ネクスト能力はハンドレットパワー。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ