兎虎小説

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「…《夏休みの絵日記》……」

みなさんこんにちは!わたしは鏑木楓。
めったに帰ってこない薄情親父、鏑木虎徹の娘です!

薄情は言いすぎたかな…。いやでもダメだ楓っ。お父さんはいつも仕事が忙しいって言ってわたしのスケート大会にも来なかったし、帰ってくる?と聞いてもこの日は忙しいんだ、なんて言っちゃうし!だからお父さんはわたしの事なんてどうでもいいんだ、っていつも思っちゃう。

「どうしよう…。絵日記なんて毎日書けないよ」

家にいてもつまんない。あさがおの成長日記を書くしかないし、絵日記のほんの一部にしかならない…。村正おじちゃんの所に行ってもお酒をあつかうお店だからわたしはあんまりお手伝いできない。

「…いっそバーナビーの事でも…いやいやいや。それはないかな」

ああもうだから夏休みの絵日記って嫌!!
ほかの宿題は出来るんだけど!
絵日記だけは…!

「そうだ、お父さんのところに行こう」

お仕事忙しそうだけどどっか休みになるかもしれないし、最近できたテーマパークにも連れて行って欲しいし!泊まるとこだってお父さんの家があるもんね!
薄情親父なんて言ってごめんねお父さん。
と、いうわけで!

「おばあちゃん!わたしお父さんの所で絵日記完成させて来るね!」











***










「ん〜…!着いたあっ」

シュテルンビルト。
お父さんがお仕事で住んでる街。
なんか人がいっぱいでいつ見てもすごい街だなって思う。
宿題とかいろんな物がつまってるかばんを落とさないようにしょいなおして、おばあちゃんが書いてくれた地図をわたしは見た。

「おばあちゃん、すっごいびっくりしてたなあ」

「唐突だね!」なんて普段驚かないおばあちゃんがびっくりしてた。「お父さんには内緒だよ!!」って言っておいたけど大丈夫かな?おばあちゃんは心配性だから。
えっと、とりあえずお父さんに会えるかな。

「お仕事中だったり…でもお昼だからごはんでも食べてたり!」

お父さんの仕事してる姿、想像したら笑えちゃう!だって似合わない!なんかこう、体動かしたりするお仕事の方がお父さんらしい。…あ、かもだよかも!

―――今更、お父さんに甘える事なんて無理。電話してくれるお父さんにわたし、いつも素直じゃない言葉ばっかり言ってる。いきなりお父さんの所に押しかけても帰れって言われるかもしれない…。
うう、しっかりしろ、楓!そのときは能力使って帰ってやるもん!


「なあバニーちゃん、お昼どうする?」
「え…?」

お、お父さん…っ!?
わあ、わあ!いきなりお父さんいた!ってか、ババ、バーナビーさんと一緒!!何で!?
びっくりして隠れちゃったけど、どうやって出よう…っ。

「虎徹さんはなにがいいですか?」
「俺?なんでも食べるよー」
「では最近出来たばかりのイタリアンカフェがあるんです。おいしいと評判なんですよ」
「おっ、じゃあそこにするか!」

えええええっ!!……えええええっ!?バーナビーさんとお昼の約束してる!お父さん、バーナビーとは偶然会ったんだ☆なんて言ってたじゃない!!
ああっ、そう言ってるうちにお父さんとバーナビーが歩いていく!

「着いていきたかった…」










***








しばらくして。
わたしは公園でぼーっとすごしてたらお父さんの姿が遠巻きに見えた。やっぱりバーナビーさんはお父さんと一緒で、なんだか急いでいた。声は聞こえなかったけど、でかいビルに入ったお父さんとバーナビー。数分してワイルドタイガーとバーナビーが出てきた。
んん?タイガー&バーナビーという事は事件が起きたんだ。

でも、バーナビーと一緒だってお父さんはでてこなかった。
…だよね。お父さんがワイルドタイガーなわけないよね。

いつもテレビで見てるバイクに二人が乗って行く所を見て、わたしも能力であとを追ってみる。ワイルドタイガーがお父さんじゃなくても、バーナビーの生逮捕シーンは絶対この目に焼き付けとかなきゃ!!













《おおっとぉぉぉ!!バーナビー犯人を逮捕だぁぁぁ!!二人捕まえて、400ポイントゲットー!》
「ふぁあああ!バーナビーさんすごーいっ!」

素顔できめてるから更にイケメン!キャーバーナビーさんマジイケメン!!ちょっとタイガーは何してんのよ!バーナビーさんの視界を遮らないでよねっ。

「もう……。

ってあれ?確か犯人ってもう一人いなかった?」《しまったー!ワイルドタイガーにもう一人の犯人が能力を使って吹っ飛ばしたー!!》

どっかに隠れてるかも…なんて興味本位で探しながらつぶやいたわたしとリポーターの声が同時に重なる。
あわててタイガーを見れば海にまっさかさまに落ちてる姿が映った。

「虎徹さんッ!!」
「―――え…?」

ワイルドタイガーに向かって、『虎徹さん』?
虎徹……虎徹って、お父さんの――――――――











名前だ。

「――ッ、お父さんッ!!」

なにかがはじけたかのように、わたしの体はお父さんの所に向かっていた。
バーナビーは、わざとお父さんの名前を呼んだのかもしれない。でも、わざとだとはまったく思ってなくて、いつだったか、誰かの体にふれて移ってしまった『スーパーマンのように飛べる能力』と使ってお父さんを助けた。

《なんと!これは新しいヒーローの誕生か!?ワイルドタイガー、またしてもお姫様抱っこで救われたぁぁぁ!》
「え?え?…、か、楓……!?」
「やっぱり…お父さん、タイガーだったんだ」
「えっ!?い、いや違うぞ!わたしはお父さんなんかじゃ、」
「さっき楓って言ったじゃん!」
「あう…」
「何で…言ってくれなかったの…」
「…」
「…もう隠せないですね」
「ごめんなあ、楓…」

カシャン、と仮面の部分をはずしたお父さんの顔はくしゃくしゃになってて、タイガーの格好とその違いに思わず笑ってしまう。

ばかみたい、お父さんなんかだいっきらい!

そう言ってお父さんに抱きついた。



あのあと、お父さんの家で見た新聞にワイルドにお姫様抱っこされてるお父さんの写真が大きく載ってたよ!



■一日目。
(わたしのお父さんは、わたしを守る、かっこいいヒーローでした)
(楓ぇ…っ!)
(素直にワイルドタイガーですって書いたらどうでしょう?)
(ばっか!そんなのダメに決まってんだろ!)


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