兎虎小説

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「タイガー、君に見せたい者がいるんだ」

PDA越しにそう呼ばれたタイガー―――鏑木・T・虎徹は、呼んだ張本人の斉藤さんの所へ向かう。
バーナビーは呼ばなくていいとの事で、メカニックモニター室に一人で歩きながら虎徹は何で呼ばれたのか考えていた。
メカニックモニター室に着き、斉藤さんを見つけ、声を掛けようと口を開いた。
その刹那。

「コテツ!」
「わっ」

別の扉が開き、自分と瓜二つの人物が姿を現したのだ。

これが、虎徹と黒虎のファーストコンタクト。







いきなりぎゅうっと抱きしめられた虎徹は、何が起きたかわからなかった。
何故自分自身がいるのか。何故自分は抱き付かれているのか。
斉藤さんに助けを求めると、「キヒッ」と笑って説明を始めた。

「実はね、あのロトワングが作ったアンドロイドなんだよ。壊れたかと思って見てみると、ICチップが運よく残ってて、それを改造したのが今君に抱きついてるアンドロイドだよ」
「へぇ…あのアンドロイドだったんすか」

あのアンドロイド。それは虎徹の代わりにワイルドタイガーをやっていたアンドロイドだ。斉藤さんもトランスポーターにいたが、バーナビーにパスワードのメモを渡し、戦った残骸を調べた時に改造したICチップを手に入れたという。今のところ知っているのは一緒にいたベンだけ。

「大丈夫。戦闘機能は取り除いたから心配はない。ただ…」
「ただ?」
「このアンドロイド、…いや、セクサロイドと言った方がいいだろう。
人間とセックスが出来るんだ」
「…え?」

斉藤さんは、今なんと言ったのだろう。
こいつが、人間と、セックス出来るって?

「はああああ!?アンドロイドが!?何で!?」
「僕は直接ICチップしかいじってないから、多分ロトワングが行った事だろう。タイガーを亡き者にして、このアンドロイド…H−01を本当の鏑木・T・虎徹にね」
「はあ…そうっすか」

その考えだと付いているのも頷ける。
斉藤さんの話を聞いた虎徹は、未だにくっついているアンドロイドに向き、改めてじいっと見てみる。
顔つきは自分と全く同じ。ただ、肌、瞳、服の色は虎徹のそれとは全く違う。褐色の肌が更に黒い。瞳は琥珀ではなく、赤い。それに虎徹が緑だとすると、このアンドロイドは赤を基準とした服装であった。

直感的に言えば、それはまるで血の色。

虎徹の視線に耐えられないのかなんなのかわからないが、アンドロイドはふいっと視線を逸らした。

「ん?どうした?」
「そんなに見つめられると…恥ずかしい」
「え、お前恥ずかしいなんて機能ついてんの?初めて知った!」
「マスター斉藤に教えてもらった」
「斉藤さぁん…」
「別に構わないだろう?このH−01は人間により近づけるように改造したんだからね。ああ、あと僕からマスター変更」
「?何故だ、マスター斉藤」
「僕よりタイガーが適任だろう?だから呼んだんだよ」
「えっ!?そんだけの理由で!?」
「あとは君に模写してあったから一番先に呼んだくらいかな?」

キヒッ!斉藤さんは最後にそう笑って、パソコンに向かう。虎徹はそんな斉藤さんに呆気に取られながらも斉藤さんの言葉を理解して再びアンドロイドを見る。
さっきからアンドロイドだのH−01だの人間らしくない名前が飛び交っていたのを思い出す。虎徹はパチパチキーボードを打っている斉藤さんに名前を考えてもいいか、と聞くと、あっさり「いいよ」の返事が返ってきた。

「名前かあ…楓につけてから随分経ってるから緊張するな」
「俺に、名前?」
「うん、そう。アンドロイドとかH−01じゃ可哀相だろ?名前があってこそ、人間の存在理由なんだ……って俺今すっげーいい事言った!」
「存在、理由…」
「なにがいいかな…俺に似てるから虎?それかブラックタイガーだから…エビとか?ううーん…。エビだと海鮮のイメージしかないな。それじゃ駄目かー」
「コテツ、俺はお前に付けられるなら、何でもいい」
「だからって……あっ!ブラックタイガーを漢字にして黒虎はどうだ!?」
「黒虎…」
「いいんじゃない?タイガーっぽくて」
「斉藤さん聞いてたなら言って下さいよ!」
「今聞こえたんだよ。名前が決まったなら、こっちへ」

斉藤さんは何かのコードを引っ張り、黒虎と名づけられたアンドロイドの首に繋げる。それからパチパチとまたキーボードを打っていく。
それに伴い、黒虎はぴたりと動きを止めた。

《マスター変更。認証プログラム起動中》
「うおっ!」
《マスター変更。リセット迄残リ10秒…5秒、3、2、1―――新規マスターヲ登録シテクダサイ》
「さあ、タイガー。君の名前を言って」
「え?あ…鏑木、虎徹…」
《マスター鏑木虎徹。―――認証完了シマシタ。起動シマス》

プシュッとコードが勝手に切れる。
瞳を閉じていた黒虎は、虎徹の顔を見ると、先ほどのように抱きついたりはせず、すいっと顔を近づけると頬にキスをした。

「んなぁっ!?」
「おはよう。マスターコテツ」
「お、お前!なんでキス…っ」
「頬は嫌だったか?なら口に…」
「ぎゃああああ!!斉藤さあああんっ」
「素晴らしい成果だよタイガー!僕では起きなかった事が今起きている。やはり君をマスターにしてよかった」
「いやいやいや!そんなのはいいんですよ!ちょ、服は駄目!黒虎!駄目だあああ!!」
「汚れているのに脱がないのは駄目だ。着替える事を勧める」
「本音は?」
「ぐちゃぐちゃに犯したい」
「っだーーー!!」

あほかお前!とにかくやめろ!と虎徹がヒステリックに叫ぶと、黒虎は動作をやめる。が、赤い目は物足りないと潤ませていた。酷く保護欲を駆り立てられるが、虎徹はそれを見ないフリをして斉藤さんに戻ると伝える。

「コテツ、戻ってしまうのか…?」
「う、お…おう。仕事、あるからな!」
「…もう定時は終わっているはずだ。さては、逃げる気だな?」
「ち、違うよ?」
「…」
「…」
「…逃がさない」
「わあ、わあ、わあああ!!」
「頑張ってね、タイガー。僕は仮眠するよ。仕事、あるからね」
「斉藤さん待って!俺死んじゃうっ!」
「死なない。ちょっと、キモチよくなるだけ。なあ、コテツ…」
「なんかのスイッチこいつ持ってるんすか、ねえ斉藤さん!?」
「だから言ったろう。セクサロイド機能つきだよって。僕には止められない」
「コテツ、ちゅー」

もう終わった。何もかも。
虎徹は記憶の片隅に鎮座しているバーナビーの顔を思い出しながら、黒虎においしく戴かれた。


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