兎虎小説2

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ふ、…と視界が白い光に包まれる。
バーナビーはその眩しさに眉をよせ、まぶたを開いた。

「…どこだ、ここは」

枯れた声が辺りを響かせる。しかしバーナビーの声に反応する者はいない。バーナビーは真っ白な世界の、真っ白なベッドから身を起こし、ドアと思わしき所から出て行った。



「おはよう、バーナビー」
「お、まえは…っ」

真っ白いダイニングでくつろぐ、自分自身。白い中にコーヒーの色が入り混じり、鮮やかさを出している。ティーカップを優雅に持ち、口を付ける【バーナビー】を見たバーナビーは、きっと彼を睨みつけた。

「お前は誰だ!」
「誰?いやだな、バーナビー・ブルックスJr.だ」
「僕がバーナビー・ブルックスJr.だ!!」
「はは、当たり前だろう?最初に言った、僕は『未来の』バーナビーなんだよ」

コーヒーの香りがバーナビーの鼻腔をくすぐる。目の前の『未来』から来た【バーナビー】の顔を見たバーナビーは、ダイニングの空いている席に腰を下ろした。

「今まで散々振り回してくれたな…人に会えだの言って、勝手に別れを切り出させる。僕をどうしたいんだ」
「毎回言っているだろう?これは未来のお前にとって必要なことなんだ。七人に会い、知るんだ。そうすればお前の未来は輝かしく、明るい未来になる」
「それは僕の勝手だろ!!お前に決められたくない!知らない人に会って面白いと思っているのか!?僕は…僕はヒーローになってウロボロスを探す!その計画を邪魔するのかッ!!?」

拳をテーブルに打ち付け、【バーナビー】の襟元を掴む。その拍子にコーヒーが白を汚し、滴り落ちる。
それでも【バーナビー】の顔は変わらず、むしろ冷めたような瞳でバーナビーを見た。グリーンアイズの瞳は彼を見つめる。

「僕だってそう思っていたさ。ウロボロスを探すためなら人付き合いもいらない、僕は一人でじゅうぶんだと。だけどそれじゃだめだって、あの人が言ったんだ。バーナビー、お前はあの人がどれだけ大切かわかる。この先ずっと、僕のいる時まで」
「あの人とは誰だ」
「…今は言えない。――――時間だ」

ぱっと、バーナビーの腕から【バーナビー】が離れる。真っ白だった空間はコーヒーの溢れたところから黒に侵食し始め、やがて真っ黒になる。光りを帯びた【バーナビー】に手が届かないまま、バーナビーは暗闇に落ちた。

「ヒーローアカデミーに幸あらんことを」
「――――――――ッ!!!!!」

【バーナビー】は、一言そう呟き、バーナビーの目の前で完全に黒に染まった。









***








「こんにちは、えと…バーナビーさん」
「――――…っ、えっ?」

誰かの声で、意識が浮上する。バーナビーは慌てて声がした方を見ると、ベンチにうずくまっている人物がいた。
多分この人から発せられたと思うが、バーナビーは心当たりがない人だった。

「あの…」
「あ、…すみません。僕のこと、知らないよな…うん、目立たないし、バーナビーさんとは違うし」
「すみません…存じ上げなくて…」
「いいんです…ちょっとぼーっとしてたから、話しかけて見ただけです」

そう言ってうずくまってた彼は、さらに縮こまってしまった。
バーナビーの、彼に対する第一印象は『おかしな人』だ。目を見て話さない、こっちを向かない。おまけにもにょもにょ話すし小さい。これに嫌悪感をあらわす顔をしなかっただけ進歩が見えているが、バーナビーは縮こまってしまった彼を見捨てるほど、非情ではない。

「あの、名前は?」
「…え?」
「一方的に僕を知るのはフェアじゃないでしょう?」
「…、イワン。イワン・カレリンです。ちなみに、同じクラスです」
「は?」

クラス?バーナビーは改めて自分と、イワンと名乗った彼の服装を見る。
二人の格好は、ヒーローアカデミーのジャージに身を包んでいた。

「…」
「やっぱり、気づかなかったんだ」
「えっ!?いや!…なんか、ごめん」
「いいんです。僕あんまり目立つの得意じゃないし、能力もバーナビーさんと違って豪華じゃないですから」
「あなたの能力は…」
「触れた相手に姿を変えられます」
「…ああ」

確かに、と、言おうとして自分の口を塞いだ。
バーナビーの能力はファイブミニッツ・ハンドレットパワーだが、最初はよくても能力を使い切ったら一時間我慢しなきゃらない。確かに発動中は豪華にできるが。
ヒーローアカデミーは、次世代ヒーローを生むべく建設された能力者だけの学校だ。たとえちっぽけで使えない能力があったとしてもここでコントロールを覚えたり、運がよければヒーローとして引っ張られる。バーナビーはマーベリックのコネを自分の能力でヒーローになったようなものだ。

「いいんじゃない?変身なんて」
「へ…?」
「僕は確かに豪華になるけど、それは五分間だけです。一時間またないと意味のない能力ですよ」
「でも…」
「コントロールは僕より出来ているんでしょう?なら、堂々とすればいい」
「バーナビーさん…」

ありがとうございます、と小さな返事が返ってくる。そして、うさぎの如く逃げていった。

「?」
「バーナビー先輩見つけたー!!!!」
「!?えっ、あ!!」

何故イワンが逃げたのか。
ヒーローアカデミーにいた頃はよく親衛隊に追いかけられ、もみくちゃにされていたのを思い出したバーナビーは、イワンを追いかけるように逃げ出したのだった。

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