兎虎小説2

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ごうごうと煙る教会。
崩れて落ちたがれき。
それを蹴りながら、目の前の犯人――――アマミヤトモエは、虎徹を見つけると花が咲いたように笑顔を出した。

「―――わたしの、こてつくん!!」
「と、…ともえ、、」

何も変わらない。昔とおんなじ格好で現れたアマミヤトモエ。
虎徹は完全に冷静さを失い、フルフェイスマスクをあげたと思ったら、そのアマミヤトモエのところに駆け寄ろうと踏み出した。

「タイガー!!行くなッ」
「…離せよバイソン…そこに、友恵が、友恵がいるんだ!」
「だから、その友恵ちゃんは死んだんだろ!?どうしてここにいるんだよ!!」

旧友だからこそ知る、虎徹の愛妻だった友恵…。
このまま行かせてしまえば取り返しのつかないことになってしまう。そう思ったが吉日。ロックバイソンはワイルドタイガーを離さまいとしっかりその腕を掴む。
ほかのヒーローもロックバイソンの目配せで、カメラを遮ったりワイルドタイガーを全力で止めに入った。

「タイガー、どうしちゃったの!?タイガーッ」
「ワイルド君しっかりするんだ!!」
「ちょっと、カメラ止めてくれアニエスさん!!」
《どうして!?救出シーンを見逃せっての!?冗談じゃないわ!》
「―――アニエスさん…俺、言いたくはないですけど、この事件はプライベートがはいってるんすよ!!虎徹の、亡くなった奥さんがいるって云う事情が!」

ロックバイソンは静かに、滾りの入った言葉を吐き出す。アニエスはもちろん、ほかのヒーロー達も目を開き、高揚混じった女性…アマミヤトモエを見る。










「―――フェニックス…。彼女が虎徹さんの奥さん…」

バーナビーもトモエを見つめ、そして通信を繋げる。虎徹は異常に興奮していた。このままでは支障をきたしかねない。
そっと、語りかけるようにバーナビーは虎徹に囁く。

《虎徹さん…聞いて》
「うるせえ…どけよ、どけよ…友恵が、待ってる!!」
《あなた、何やってんですか?》
「友恵を助ける」
《…虎徹さん、周りを見て……》

ほかのヒーローが、どんな顔をしてあなたを見ているのかを―――。
酷く優しいバーナビーの声が、虎徹の動きを止める。虎徹は、しがみついてるブルーローズやドラゴンキッド、スカイハイを見た。

「タイガー!止まってよ…ッ」
「アンタが話してくれなくちゃ、私達、どうしたらいいのかわからない!!」
「冷静だよ、ワイルド君…」

「お まえら、」

あれだけ友恵のところに行こうとした虎徹の身体が止まる。フルフェイスマスクの下で、虎徹は涙をその琥珀の瞳からこぼす。
身体を張って止めようとした、仲間のヒーロー達。
事情を知っていながらでも必死に止めようとした親友。
優しく語るように、自分を否したメカニックの相棒。
それは虎徹にとってとても大切でかけがえのない人達だ。我を忘れ、愛した妻の元に無我夢中で駆け寄ろうとした自分は、一体どんな気持ちで、どんな思いで行動し仲間を焦らせたのか。
それを考えると、虎徹は恐ろしくなった。

「ごめん…ごめん、お前ら。俺、なにやってんだよ……」
「…いいのよ。アンタだって、人なんだから」
「タイガーは、あの人がタイガーの奥さんなんだって言ったよね?」
「ああ、そうだ」
「…じゃあ、ロックバイソンが言ってた、死んだってのも」
「本当だ」

虎徹は頭を振り、ドラゴンキッドの問いに答える。
確かに友恵はウロボロスの一人に殺された。赤く、こびりついた血のヘアピンが家に送られてきたのだから殺された確証は大きい。
でもどうして生きているのか?いくら友恵がウロボロスのメンバーの、あのフェニックスだとしても命には限界があり、無数ではない。
一定の距離を置きながら、虎徹は考える。「こてつくん、こてつくん…」と彼女の囁きが聞こえる。魅惑の甘い声が、虎徹を――――…




「見て!!あの人、能力者だわッ」

不意に、ファイヤーエンブレムがそう叫ぶ。
それを聞いたヒーローは、次々と構え出す。虎徹は光り輝く友恵を見つめ、ぼそりと、言葉を紡いだ。

「…なにそれ、友恵」
「――――わたしの、のうりょくよ?すてきでしょう?」
「友恵、」
「こてつくん!わたしとりになったの!!うつくしくてすてきで、あかくもえるようないろの、そんなとりに!」
「―――…」
「だからね、こてつくん!!」













「こてつくんも、いっしょになろうよ」

それは一瞬だった。
アマミヤトモエは、虎徹の前に姿を現すと虎徹のヒーロースーツごとわき腹を抉った。鮮血がほとばしり、虎徹は抉れた横を抱え叫ぶ。空間を引き裂くような金切り声があたりを響かせ、それと同時にアマミヤトモエの透き通った笑いが起こる。
なにが起きたのか。反応が遅れたヒーローは虎徹を抱え、そしてアマミヤトモエを捕まえに走る。バーナビーもトランスポーターから出て、虎徹の元に駆けた。

「いやあああっ!タイガーッ!!!タイガァァァッ…!!!!」
「そんな…!!スーツごとなんてッ!!虎徹さんしっかりしてください!!」

声にならない声が、虎徹の喉から叫ばれる。バーナビーの声も、ブルーローズの声も聞こえていないようだ。
抉れたわき腹はかなり酷かった。完全に肋骨の一部が見え、そこにあった内臓がない。アマミヤトモエはどうやって刺したのかまったく見えなかった。虎徹のそばに来た途端、横が消し飛び虎徹が倒れた。

ほかのヒーローは、なんとかしてアマミヤトモエを捕まえようと能力を使って駆け巡る。しかし覚醒したように、彼女は笑いながら虎徹に迫ろうとしていた。それは狂気じみて、恐ろしい。歪んだ笑みがそれを物語っていた。

「おきてこてつくん!!ひーろーはそんなことじゃへこたれないでしょ!?ねえ、ねえ!!こてつくん??」
「あ゛ぁぁ…っ!!あ゛あ゛あああああああああああああっ!!!」
「やめろおおおッ!!」

またひとつ、虎徹の脚をもぐ。ひしゃげた右足はもう、使えない。遠くからでも能力をコントロールするアマミヤトモエは危険人物とみなされ、テレビ中継も中止。悲痛の叫びを出し続けるKOHの無残な姿を市民にみせるのは、未来を消し去ってしまう。ブルーローズとドラゴンキッドには刺激が強すぎたのか、青ざめ涙をこぼし出す。
ぐちゃぐちゃの虎徹を、自分たちの憧れのKOHを見たくなかった。
虫の息に達した虎徹は、もう彼女の声に答えることはない。

「斎藤さん!!救急隊員を…医療班を早く!!!!このままでは虎徹さんが死んでしまう!!いやだ…いやだ…ッ、こてつさん…ッ」

死なないでください――――バーナビーの声すら、虎徹は聞こえていなかった。

鼓動が小さくなる音と、かすむ視界。断続的に切れる息。
ああ、なんだか眠いな。だめだ、今寝たら友恵は?ほかのみんなはどうなっちまうんだ?どうして?どうしてなんだ友恵…。
思考すらぶれてきて、虎徹は外されたマスクを見て笑う。

「…、―――……。……――」

ヒーローに捕まえられ、悲しそうに顔を歪めるアマミヤトモエを見ながら、

虎徹は琥珀の瞳をまぶたで覆った。

























『虎徹くん、また破壊しちゃったねービル』
『う…っ!で、でも人は救助したんだぜ!?褒めてくれたっていいじゃんか!』

虎徹は友恵の冷めた目を見ながら、なんとか言葉を繋ぐ。
壊した街のものは、原則スポンサーとその会社が請け負うが、一部は自身にも降りかかってしまうのだ。メゾネットアパートに身を寄せた、新婚ホヤホヤの虎徹と友恵にとっては破産しかねない状態なのだった。

『今回ばかりはいやだよ!?なんとか返してるし借金もしてないけど、物壊しちゃ私、虎徹くんを守れないじゃない!!楓だっているのに、もうっ!!』
『だから俺だって頑張ってるよ!!…だけどつい……』
『つい〜!?ついって前も聞いたんだけど!?』
『ぴゃっ!!ほ、ほんとごめんって!!俺全額払うから!友恵ちゃんはいいよっ』

涙目で友恵のお叱りを受ける虎徹。
もうなにがなんだか、収拾がつかないほど怒ってしまった友恵は虎徹から目をそらし、キッチンに向かった。

嫌われた。この世の終りのような顔で友恵を見た虎徹は、とうとう泣き出した。びいびいと、迷子のこどものように喚くと友恵はびっくりした顔で虎徹の元に駆け寄った。

『やだ!虎徹くん泣かないでよー!!』
『ともえ、ともえ、おれをみすてないで!ごめんなさいっ、許して、ともえ、ちゃん』
『…あああもう!!虎徹くん、泣かないで。私怒ってないから!ちょっと、困らせたくて、それで…』

言葉につまった友恵は、なにかを隠すように虎徹を引き寄せ抱きしめる。ちいさい体で虎徹を包み、漆黒の髪を撫でると虎徹は友恵にもそれをし始めた。

『嫌いになんかならないよ…大好きだよ、虎徹くん。ごめんね…』
『と、友恵ちゃん…っ。ほんと、ごめん、ごめん』

涙でぐちゃぐちゃの顔が、友恵を見つめた。それを指で拭い、優しく包む。

『ワイルドな虎徹くんは、どこに行ったのかな?』
『…ここに、いるだろ?』
『あはは、…そうだね!!』




『…虎徹くん、仲直り、しよっか』
『…うん。俺もしたい』
『じゃあ、仲直りのちゅー』
『ば…っ、楓見てんだろ!?』
『まだ赤ちゃんですよ〜?』
『…っ、おちょくんな!!』
『ふはは!私の方が一枚上手だったね!』
『このーっ』



続く


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