幻想怪奇小説『令嬢の家』
□第五回 来訪者
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よしこはその本を覗き込んだものの、何も書かれていない真っ白なページだった。
「どういうことかしら?」
不思議に思いながらよしこは顔を上げた。するとどうしたことか。目の前に1人の男が立っていたのだ。
靴音も、人が近づいてきた気配もなかったのに。
男は全身黒尽くめだった。
黒い靴に黒いスーツ。黒く長いマントのようなものを羽織り、黒い帽子。
そのうえ黒いストールを顔に巻いており、唯一見える右目からしか表情を読み取ることはできない。
「・・・あなたはだぁれ?」
震える声でよしこは尋ねてみた。
男の右目が弧を描く。
そうすると男の表情はずいぶんと柔らかなものになるのだと、よしこはぼんやりと思った。
「こんにちは、お嬢さん」
男はゆっくりと右手を差し出した。
《続》
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