短編

□雪日和。
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「…あ、雪。」

チラチラと空から降り出してきた雪をコートの袖から出した手で拾いながら、不二はポツリと呟いた。


「…あぁ、降ってきたな」

「今日は冷え込むって言ってたけど、まさか降るとは思ってなかったや。
…だよね、跡部?」

「馬ー鹿、それはてめぇが独断で降らねぇって言い張ってたからじゃねぇかよ」


不二が隣に並んで歩く跡部に話を振ると、跡部は呆れた様に文句の言葉を返す。
その言葉にムスッと頬を膨らませて拗ねた態度をとる相手を見て、跡部はククッと笑ってみせた。


「寒いなー、特に手が。」

「素直に手繋いで、とか言えば良いじゃねぇか…」

「…やだ。
君の言いなりになんかなったら僕まで性格が可笑しくなるよ」

「…てめぇ…」


悪態を付く不二を見て跡部は握り拳をつくった。
…が、その殺意とまではいかない怒りを纏った拳を直前まで持ち上げ、引っ込める。

「…あれ?殴らないの?」

不二が何かしら跡部を怒らせると殴られる事が日常茶飯事なのか、不二は跡部に対して自分を護るかの如く身を構える。
だが、一向に行動を起こさない相手を見て、防御の形を緩めた。

…それもその筈、跡部の目に映ったのは先程から降り続く雪を掌に乗せていた不二の赤い指先で。
その上白い肌が余計に寒々しくて…

雪に包まれている今、怒りでさえも包まれてしまった様だ。


「一々お前を殴ってる暇なんざねぇよ。」

「うわっ、ひどい跡部。
この女タラシ、ナルシスト、俺様、成金」

「そういうお前だって人の事言えねぇじゃねぇか」


そうだね、と呟いて妖艶に微笑む不二は通りすがりの小さな公園へと入っていく。
跡部もそれを追う様にして中へと入る。


「…雪、積もってきたね。」

「こんだけ降ってりゃ積るだろうが…」

まだ10センチにも満たないくらいに地面にと積もりだした白を、二人は踏み歩いてく。
サクサクとした感触はまだ無く、例えるならフワフワとした雲みたいだった。


「―…おい、不二」

ボフッ、ボスボスッ

「な…っ、冷た…!」


固くもない、冷たい物が不二のコートと髪に弱弱しくも投げ付けられる。
振り払うとパサパサと、地面一帯に広がる物と同じ物が落ちていった。


「跡部っ今、雪投げたでしょ!」

「はっ、油断してる方が悪ぃんだよ」

「…このッ…!」

「…っ!」

不二からの不意打ちの体当たりが、油断していた跡部に直撃する。

ドサ、と跡部はその衝撃により、雪の中に背中から倒れ込む。
不二も同様に背中とはいかないが、真っ正面から雪へとダイブした。

「ったく…いきなり突進する奴なんざ、この世の何処を探して居るってんだ…?」

「…跡部が悪いんだからね…」


身体を起こして雪を払う跡部に対して、不二はその態勢のまま、起きようともしない。
頑固な奴、と呟いた跡部は面倒くさそうに手を差し伸べて不二に話し掛ける。


「ほら、立てよ。
そのままで風邪引きてぇのか?アーン?」

「…付きっきりで看病してくれるのなら、風邪になっても良い」

「冗談言ってんな、馬ー鹿。
風邪引いたらヤれねぇだろうが」


跡部の言葉を聞いて、何かを悟った不二は何か間違っていると感じながらも、渋々と差し出された手を握る。
その相手の手もまた、ひどく冷たくて、起こされてからも離せないままでいた。

「おい…不二?」

「跡部の手、冷たい…」

一向に手を離せない不二をおかしいと思ったのか、跡部は俯いている顔を覗き込む。


「…Merry Cristmas」


―不意打ちだった。

チュッとリップ音が響いたと気付いた時には、時既に遅し。
そこにはニコッと微笑んでいる不二が居た。


「僕からのプレゼントだよ。」

「はッ…やってくれるじゃねぇか。」


まだ熱が残る頬にそっと空いている手で触れて、跡部は苦笑いを浮かべた。
不二もまた、照れ臭いのか頬は赤みを帯びている。


「帰ったら覚悟しとけよ、不二」

「…はいはい。」



―…今だに止む事の無い雪空の元、二人は互いに笑い合った…



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