短編

□俺なりの表現方法
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「ひよー?」

「…何ですか」

―12月5日。
もちろん覚えている、今日は俺の恋人の日吉の誕生日だ。

プレゼントは前々からジローと宍戸と相談して決めた物を買って用意できている。
場所も今、俺と日吉の二人っきりの部室だし(これも皆が協力してくれたお陰だな)。

残す事と言えば―…


「あのさっ日吉…」

「…はい」

「えと、何だあの…」

「さっきからあのあの言って…貴方は何が言いたいんです?」

うぐ、と言葉に詰まる。

真直ぐに俺を見据える瞳と言い、見下ろしてくるその身長の高さと言い…何だか言い出せない。
たった一言、「おめでとう」と言えれば良いのにその一言が言えなかった。


「…ほら向日さん、もうじき暗くなってきますよ?」


俯いて地面と睨めっこをしていた俺を日吉は窓の外から差し込む夕日を見て尋ねた。
夕日に照らされて、ロッカーや日吉と俺の影は瞬く間に伸びていく。


「お先に失礼しま…」

「日吉…っ!」


無言の俺に言葉を投げ掛けてこの場から立ち去ろうとした日吉を呼び止める様に少し荒げた声を掛ける。

自然と身体が動いていた。


「…向日さ、ん…?」

「………」

気付いた時には後ろから日吉に抱き付いていて。
突然の出来事に日吉は少し動揺したのか目を丸くしていた。

「…ごめん、上手く言えなくて…
けど俺…日吉の事好きだから…これ…」

抱き付いた時に相手の腰に回した片手に持っていたラッピングされた赤い袋を上へと持ち上げる。
カサ...と音をたて、俺の手から無くなった物を日吉は受け取った。


「…開けて良いですか?」

「…おぅ//」


顔を上げてみると言葉を発すると共に、首だけ出来る限り後ろに振り返った日吉と目が合った。

…やばい、自然と頬が火照っていく感覚が伝わってくる。
心臓の音もドクドクと波の様に押し寄せてきた。

「!これは…」

ガサガサと包装紙を剥がしていく音が止み、中身を見た日吉が再び驚いた声を上げる。
その声を聞いて俺は日吉の顔が見たくなって相手の前にと回り込む。


「あ、それ…ほら日吉がこの前寄った店で欲しいって言ってただろ?
ペアで買ったから俺とお揃いだけど…駄目だった?」

「そんな事ありませんよ!
……ありがとうございます」


…久々に見たな、日吉の笑う所。
このふわっとして子供っぽくなる笑顔が大好きだ。

日吉はそれを大事そうに包装紙で包み直してバックにとしまう。
再び二人で向き合い、恥ずかしいけど逸らさないように、お互いの目を見つめ合った。


「今日、覚えててくれたんですね…」

「当たり前だろー?
恋人の誕生日なんか忘れるかよっ」

暫らくの間沈黙が流れていたその空間で日吉が先に言い出した。
俺はその返事に対して笑ってみせ、自信を持って返す。
緊張の糸が解れたのか心成しか身体が軽くなった気がする。

…あ、今なら言えるかも。


「ひよ、おめでとう」

「はい」

「明日デートしようぜっ!
小遣い入ったし…俺が奢るからさ」

「はい」

「はいはい言うなよなーっ。
日吉だって人の事言えねぇじゃん」


そうですね、なんてクスクスと日吉が笑うのを見て俺も怒ったふりをして笑った。

…あれだけ言い出せなかった言葉も出せたし、デートにも誘えたし何だか気分が良くなった。


「…じゃあ、俺からのプレゼントです」

「…へ?」


静まり返った空間にチュ、とリップ音が響く。
一瞬だけど、掻き分けられた俺の額に熱が感じられた。


「…っと、この続きは明日ですね。」

「ばッ…別に期待してなんかねぇっつの!!//」



―…なぁ、日吉。

明日は期待しても良いんだよな?

俺もお前に、精一杯のプレゼントをくれてやる。


…だから俺の事、絶対離すんじゃねぇよ…?




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