短編
□誓い
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…俺達はもう負けない。
この青い空の元、そう誓った―…
「疲れた〜」
冬の寒さを感じさせないさんさんとした太陽が照りつける下、屋上の給水搭で岳人は伸びをした。
昼に近い時間帯あってか、辺りには誰一人として居ない(授業中だからだ)。
「暇だぁあーっ」
さぼった癖に暇だとか…と自分自身で言った言葉を呆れた様に鼻で笑う。
その鼻先を風になびいた艶のある紅の髪が掠める。
「(そういや…)」
それと同時に頭を過った思い出。
…そう、今岳人が座っているこの場所―…
此処は岳人と相方の忍足がまだダブルスを組む前に出会った場所だ。
「侑士…」
「何や、岳人?」
「!ゆ、ゆーしぃ!?;」
まさか現われるとは思っても居なかった相手の名前を呟いた後、声のした方に振り替える。
その人物、忍足侑士は岳人の隣に腰を降ろした。
「…何で此処に居るんって顔やな。
こう見えても、さっきから居とったんやで?」
「ばっ…馬鹿、だからって後ろから出てくんなよ!
いつから居たんだ!?」
「…せやから岳人が此処に来とった時から」
相手の言葉を聞いて岳人はポカンと口を開けて伊達眼鏡の奥にある切れ目の瞳を見つめる。
…確かに、いつもそうだった。
パートナー…否、恋人だからかもしれない。
今までついた嘘は幾度となく見破られ、俺が行く場所にはいつもあいつが居た。
ある日それを聞いてみたら、愛の力なんやってはぐらかされたが。
…というか、単にストーカーされているだけなのかもしれない。
「…眼力、じゃねぇよな…」
「跡部ちゃうで、岳人。
人の心を覗く様な卑劣な真似なんかやれるかっちゅー話や」
侑士が言える事じゃないと思う、と危うく本音が出そうになるのを声に出す前に押さえる。
そして話を変えようと口に出した岳人は、何処か淋しそうな表情を見せた。
「…なぁ侑士」
「何や?」
「俺、侑士の足手纏いじゃねぇ?
侑士はさ、シングルスで桃城に勝っただろ…俺なんか日吉と組んでも負けちまったし…要するに俺が弱いんだよな。」
「岳人…」
敗者は切り捨て。
それが氷帝の掟であり、現にレギュラー落ちした滝がそれを示している。
宍戸は例外だが―…
岳人は目線を地面に向けて自信が無さそうにその言葉に続けて呟く。
「…俺なんかと組むより…侑士はシングルスでもっと上を狙えんじゃ」
「それはちゃうで」
忍足はその先を遮るように言葉を被せ岳人の肩を掴み、自分の方にと身体を向けさせる。
その行為に驚いたのか岳人はパッチリとした大きな瞳を揺らしながら相手を見つめた。
「俺が此処まで来れたんのは岳人が居たからなんや。
シングルスより岳人とやるダブルスの方がえぇ。」
「……でもよ…」
「それに言うたやろ二人で全国行こな、って。
岳人は約束やぶるん?」
それに対して岳人は否定するかの如く首を横に振った。
忍足は納得したのか眼鏡をクイッと上げる仕草をみせた。
「…俺かて日吉にめっちゃ嫉妬してん。
何で岳人と組むのが俺やないんや…ってな。」
「侑士…」
「愛してんで、岳人」
「………馬ー鹿、俺もだよ//」
忍足が肩に置いた手が離れたのと同時に岳人は空に向かって手を仰ぐ。
手の隙間から覗く太陽が自棄に眩しく感じた…
「…俺、頑張る。
全国行こうぜっ!」
「もちろんや。
けど全国の前に内の敵やなぁ。」
「あー…あのバカップル?」
「怒られんで岳人;
後、茸にも気ぃ付けなあかんな」
「侑士も人の事言えねーじゃん;」
岳人の言葉を最後にお互い腹を抱えて笑いだす。
暫らくして笑いが納まったと同時にお互いに目を合わせた…
否、正確には目が合った。
その時、時が止まった様にフリーズしていた二人はどちらからとなく、互いの唇を重ね合わせたのだった―…
*NEXTおまけ&後書き